短編&リクエスト
□No.1
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しっかり温まって浴室から出ると、既にリビングからいい匂いが漂っている。
「温まりましたか?」
「はい。夕食作ってくれてありがとうございます。今日も美味しそう…!」
「冷めないうちにどうぞ」
「安室さん先にお風呂入ります?待ってますよ」
「僕は濡れてませんし後で構いませんよ。先に食べましょう」
はい、と差し出してくれる料理。
いただきますと言って2人で食卓を囲んだ。
あっという間に食事と後片付けを終える。
「◇◇さん、濡れた服も早く洗濯してしまいましょうか」
その一言で、大事なことを思い出す。
安室に脱がされた上着のポケットには、例の紙が入ったままだ。
洗濯物を見られる恥ずかしさよりも、あの紙を見られる方がまずい。
安室が洗濯機に向かっていくのをいいことに、◇◇はハンガーに掛けられた上着のところへ。
上着を手に取った瞬間、背後からたくましい腕に抱きしめられる。
「探しものはコレですか?」
「ひぇ!?」
自分を抱きしめている腕の先には、あのメモ用紙が挟まった綺麗な指。
血の気が引くとはまさにこのこと。
「あ…安室さん、驚かせないでください…」
「驚いたのは僕の方です。コレは何ですか?」
「あの、腕離して、それ返して…」
「ホー。僕から離れて、この男に何の用です?」
言い方がまずかった!と思ったときにはもう遅い。
クルッと身体を回転させられ、俗に言う壁ドン状態。
「違うんです!それはきちんと処分しますから!」
「処分するなら僕が持ってても問題ありませんよね?」
「安室さん何するか分からないからダメです!」
あの男に連絡をする気など最初から無いことを必死に伝える。
返してくれれば本当に処分して終わりだと。
「処分すればこの男は◇◇に接触して来ない、と?」
「それは…」
「そんな筈ありませんよね?」
「…ハンカチ拾ったお礼だって言ってたし、お誘いされても絶対行きませんからっ」
「たかがそれだけのお礼で食事に誘う筈がないでしょう。明らかに下心があります」
そう言われてしまえば◇◇も反論が出来ない。
メモを処分したところで、あの男が二度と話しかけてこない保証など無いのだから。
「これは僕が処分します。いいですね?」
「…はい」
コクっと小さく頷くと、安室は一つため息をついてメモをしまった。
◇◇は不安な表情で安室を見上げる。
怒らせてしまったかもしれない。
そんな◇◇の表情に、困ったように微笑んだ安室は彼女の頭を撫でる。
拘束を解き、2人で並んで腰掛けた。
「安室さん?」
「僕にイケメンだのモテるだの言うが、お前にも大概困ったものだよ」
「私は別に…。零さんがカッコ良すぎるんですよ」
「お前は可愛すぎるんだ。外見ももちろんだが、内面で好かれやすいからタチが悪い」
「流石にそれは贔屓目ですって」
可愛いと言われるのは素直に嬉しいが、過大評価はただの贔屓目だと否定する。
その様子に、安室はまた一つため息。
彼の幸せが逃げてしまう。
ふと◇◇の頭に、先日見たドラマのヒロインの行動が浮かんだ。
はぁ…と自身でため息をつくと、吐き出した息を両手で捕まえる。
その手を安室の胸へ当てた。
安室はその行動に目を見開く。
「私のせいで逃げちゃった分の幸せ、補充です」
「…どこでそんな可愛い技を」
「ドラマで見たおまじない」
本当はヒロインが子どもに仕掛けたおまじないだったが、効果はあったようだ。
安室の表情が明るくなった。
ぎゅっと抱きしめられ、頬にキスが降りてくる。
「いつも心配ばかりさせて、ごめんなさい」
「心配をかけてるのは僕も同じだ」
それでもお互いの気持ちが通じているから大丈夫だ。
実はちょっと拗ねてごめん。
彼の口から漏れた可愛い言葉に、思わず抱き着いた◇◇は悪くないだろう。
後日
「通勤途中で、先日の男性を見かけたんですけど…」
「また話しかけられたのか?」
「いえ。距離も遠かったし、たまたま目が合ったとき凄い勢いで何度も頭下げられて逃げられました」
「そうか。よかったな」
「どこが!?零さん何したんですか!?」
「それよりポアロで出すケーキの新作だ、試してくれ」
結局話を流されてしまった。
公安お得意の違法作業…なんて事はしてないよね?
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