短編&リクエスト
□No.1
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「うーん…」
自宅までの帰り道。
◇◇は手元にある一枚のメモに頭を抱える。
事の始まりは今朝の出来事。
『あの!』
『はい?』
声をかけてきたのは通勤途中であろうスーツを着た男性。
その人物には見覚えがあった。
『先日はハンカチを拾ってくれてありがとうございました』
『あ、あの時の…。いえ気にしないでください』
『突然ですみません、これ!』
そう言って渡されたのは、綺麗に折り畳まれた小さな紙。
中を見ると『お礼に食事でも』という文章とともに、彼の名前と連絡先が書かれていた。
誠意なのか他意があるのかはともかく、◇◇としては困るものだ。
「あの、すみませんが…」
これは受け取れないと彼に向き直る。
しかし返却しようにも、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
一つため息を吐いて、小さなメモを服のポケットにしまう。
「(申し訳ないけど、処分させてもらおう)」
個人情報だから廃棄はしっかりせねば、ともう一度ため息。
その時、頭にポツっと大粒の水滴が落ちる。
ポツポツと地面が濡れ、雨の匂いがしはじめた。
通り雨だろうが、勢いが強い。
「あれ、折りたたみ傘忘れた!?」
仕方なく走って、屋根のある場所まで移動する。
すぐ移動したというのに服がかなり濡れてしまった。
「◇◇さん?」
聞き慣れた声に振り向くと、傘とスーパーの袋を持った安室がいた。
濡れた姿の◇◇に驚いている。
折りたたみ傘を鞄に入れ忘れてしまったことを伝える。
「すぐ車を回してきますから待っててください。送ります」
「え?でも車のシート濡れちゃうからいいですよ」
「そんなこと心配しなくていいんです」
言うが早いか、安室は走って車を取りに行ってしまった。
あれよあれよという間に、車に乗せられて自宅に到着。
もともと◇◇の部屋へ行くために夕食の買い出しをしていたのだとか。
上着を脱がされてそのまま脱衣所に押し込まれてしまった。
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