短編&リクエスト
□A
1ページ/3ページ
出掛ける準備を万端にすると、スマホにメッセージが届く。
マンションから出ると、車に背中を預けてスマホを触っている安室さんがいた。
それだけで絵になるってどういうことだ。
「安室さん、お待たせしました!」
「◇◇さん、おはようございます」
今日はこれから安室さんとショッピングモールに行くことになっている。
車に乗り、運転する彼をチラッと見たが、いつもよりカッコ良く見えるのは気のせいじゃないと思う。
盗み見てたのがバレたのか、彼と視線が合う。
慌てて窓の外に視線を逸らせばクスクス笑う声が聞こえた。
最初から俯瞰視点で盗み見ればよかったと後悔したのは言うまでもない。
ショッピングモールに到着し、まずは昼食を済ませた。
お店を回り始めると、さすが休日だけあって人が多く賑わっている。
「◇◇さん?気になるお店でもありましたか?」
「いえ。カップルや家族連れが多いなと思って」
「まぁ僕たちもカップルですし」
ボッと顔が赤くなる。
それを見た彼はにこっと笑って私の手を引いてくれた。
こういうことをサラっと出来る辺りがさすがだなと思う。
「アレなんかどうです?◇◇さんに似合うと思いますよ」
「どれですか?…って、買いませんし着ませんよ!?」
安室さんが指す方向を見ると、ほぼベビードールじゃないかと言いたくなるようなパジャマが売られていた。
断固拒否すると心底残念そうな顔をする。
なぜ私がOKすると思ったのかが謎だ。
しばらく巡ったあとで、今日の目的である映画館に着いた。
目当てのチケットとドリンクを購入する。
中に入れば人気の映画だけあってかなりざわついていた。
席につくと、安室さんの隣に座ってる女性達が彼を見て頬を赤らめていた。
やっぱモテるなぁ…
妬いたりはしないけど、本当にこの人の恋人でいいのかと心配にはなる。
そんな私の思考を読んだのか、映画が始まる直前に手を掴まれ肘掛けに乗せられた。
手は俗に言う恋人繋ぎ。
咄嗟に赤くなった顔は、館内が暗くなったことよって彼にバレてないといいなと思った。
ストーリーが中盤に差し掛かった頃、話題のラブシーンが流れる。
主人公がヒロインに気持ちを伝えるところでドキドキしていたら、ふと繋がれた手が引っ張られる。
え、と思う間もなく彼の唇が私の指先に触れた。
「(あ、安室さん…!?)」
「(ダメですよ、上映中は静かに)」
「(そう言うなら離して頂けると助かるんですが…)」
「(気にしないでください。ホラ、せっかく来たんですから前向いて)」
そうは言うけれどこうも指先にキスを落とされ続けていると集中出来ない。
気にしない…気にしない…と自己暗示をかけて映画を見ていると、主人公が絡まれているヒロインを助けるシーンになった。
ヒロインが主人公の気持ちに応えた瞬間、安室さんが私の指を舐め始めた。
「(ちょっ、あ、安室さん!)」
「(気にしないでください)」
「(無茶言わないでください…あの、お願いですから離して…)」
「(嫌です)」
ニッコリ笑って、また自分の口元に私の手を持って行く。
もうこうなったら完全無視だ!
ラストのキスシーンに差し掛かると、ようやく安室さんが手を離してくれた。
さすがに最後は映画に集中するらしい。
と思ったのもつかの間、主人公とヒロインの唇が合わさると同時に安室さんが体を寄せて私の首筋にキスを落とした。
そのまま映画はエンディングを迎える。
私は顔が真っ赤で、安室さんが手を引くままに映画館を出る。
.