第2章
□第34話
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「すみません、ちょっといいですか?」
「はい?」
振り向くと、そこには一人の女の子。
大学生くらいだろうか?
ショートヘアに細身で、キリッとしたカッコイイ服装をしている。
「単刀直入に伺います。あなたーー」
ーーーーー
夜、ポアロにて。
先日完成した半熟ケーキを食べつつ、先程の女の子を思い出す。
『あなた、本当にポアロのお兄さんと付き合ってるんですか?』
いつかこういう日が来るとは思ってた。
むしろ今まで何もなかったのが不思議なくらいだ。
「◇◇さん元気がありませんね。どうかしましたか?」
「安室さん…いえ大丈夫です。疲れてるんですかね?」
「仕事を頑張る◇◇さんも素敵ですけど無理はダメですよ」
「安室さんにそのままお返しします…」
落ち込んでいる様子を出せば安室さんにはすぐ気付かれる。
今日は引き返してくれたけど、あの様子だとまた声かけてくるかな。
下手に嫌がらせをされるよりいっそ清々しい気はするが
「(別れてください。ってあんなハッキリ言われるとね…)」
安室さんの人気が高いことは重々分かっていたことだ。
それでも私は彼が好きで、彼も同じ気持ちであるからこそ今の関係に至っているわけで。
悶々と考える内容は何故か言い訳じみていて頭を振った。
しかし浮かんでくるのは、よくないことばかりだった。
私なんかでは釣り合わない上に、彼には事件に遭う度に迷惑をかけていると言っても過言ではない。
もうすぐ店を閉めるのでこのまま待ってて欲しいと言われた。
ぼーっと考え込んでいたら知らぬ間に他のお客さんは帰っていた。
ここに居るのは安室さんと私だけ。
「今日は何か考え込んでいましたね。元気がない理由と何か関係がありますか?」
「すみません。せっかくのケーキだったのに」
「それは構いませんよ。僕に相談出来ないことですか?」
出来るけどしたくない内容だ。
とは言えないのでうーんと唸ってみる。
別に他の女の子たちに遠慮しているわけではない。
でもやはり、堂々と彼の恋人だと言える自信も強さも、私にはまだない。
なら一度別れて、その自信がついてからまた付き合えばいいのか。
そんな自信はいつ付くんだろうか。
それまで彼が私を好きでいてくれる保証もないのに。
「◇◇さん?」
唸っていてなにも答えない私に声をかけた。
「…例えば、安室さんと私が別れたとして」
「は?」
「私は、人として強くなれるでしょうか…?」
質問の仕方が合っているのか分からない。
ただ止めどなく浮かぶ思考の中で疑問をそのまま投げかけた。
カウンター席に座っていた体が、勢いよく椅子ごと回転する。
ここの椅子、回るタイプじゃないのに何て力だ。
「何か不安にさせるようなことをしましたか?それとも何か嫌なことでも?」
「ち、違います!例えばの話で」
「例え話でも嫌なものは嫌です。不満があるなら言ってください」
「そうじゃないんですってばぁ…」
「なら、誰かに何か言われましたか?」
掴まれた手がピクっと動いてしまった。
またポーカーフェイスを身につけないと、と呆れられるかも。
「(おかしい…過激な行動に出そうな女性客は牽制していたハズなのに)」
安室さんが何やら考え込んだかと思うと、こちらを鋭い目で睨んだ。
ここではラチがあかないと、今日は安室さんのマンションへ泊まることになった。
彼の誘導尋問から逃げられるはずもなく、今日あった出来事はアッサリ喋らされる。
それを聞いた彼はその日しばらく考え込んでいた。
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