第1章
□第7話
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工藤邸のチャイムを鳴らすと、沖矢さんが扉を開けてくれた。
息を切らしている私を不思議そうに見やる。
「こんにちは。随分急いでいらっしゃったんですね」
「はっ…す、すみませんっ…はぁ」
「本は逃げませんから、良かったらお茶でも如何ですか?」
こくっと頷いてキッチンへ向かう。
手伝おうとしたけど、座っているように言われたので大人しく息を整える。
用意してくれたコーヒーに口を付けてようやく落ち着いた気がした。
「ありがとうございます、沖矢さん」
「いえいえ。何かあったんですか?」
「…その相談の前にひとついいですか?」
「何でしょう?」
「今この家に居るのは私たち2人だけ、ですよね?」
「えぇ、もちろんです」
眼鏡の奥で、沖矢さんの目が薄く開かれる。
「ご無事で何よりです。ーーー赤井さん」
「フッ…。手助けをした張本人が安否確認か。相変わらず心配性のお人好しだな」
「私は何も…。全てはコナン君の力です」
「そんなことはない。計画を進めるに当たって、君の"目"は監視カメラなど足元にも及ばないほどの観察力を発揮した」
「生きてることは分かってましたけど、貴方が赤井さんであることは直接教えてくれませんでしたね」
「話すべきかどうか、ボウヤはずっと悩んでいた。責めてやるな」
「何事も、中途半端は身を滅ぼしますよ」
「皮肉めいているな」
「すみません。ちょっと自分に…」
「しかし結局気付かれてしまったか」
「気付かせたのは赤井さんですよね」
時々仕事終わりに阿笠邸に遊びにいく中で、沖矢さんと会うこともあった。
そしてコナン君…もとい新一君のお母さんである工藤有希子さんが頻繁に帰国しているという話も知ってた。
その時点で怪しさ満点だ。
ある日、いつものお裾分けだと言って登場した彼の服装。
相変わらずのハイネックだが、ほんの少しだけいつもより長いけど、首元がゆるくなっているものだった。
そして一瞬だけ沖矢さんが私に向けてきた挑戦的な目。
反射的にホークアイで彼を見たところで思う壺。
チョーカー型変声機に気付かされたという結果だった。
ピっとボタンを押して、変声機のスイッチを切る。
「俺と君が会うたびに、ボウヤが悩んでいるようだったんでな」
「だったらバラしてしまえってことですか」
「◇◇も先ほど言っていただろう。中途半端は身を滅ぼす。それで?」
「え?」
「何に怯えていたんだ」
ビクっと体が震えた。
赤井さんはコーヒーを飲んで私が話すのを待っている。
「…安室透という探偵をご存知ですか?」
「あぁ、ボウヤから話は聞いている」
「あの人が怖いんです」
「ホークアイがバレたか?」
「それはまだ何とも…。でもあからさまに怪しまれてますし、彼自身も謎が多いです」
ふむ…と何か考える姿勢を見せる赤井さん。
何か対処を考えてくれてるんだろうか
でも…
「でも…怖いのに、怪しいのに、どうしても悪い人とは思えなくて」
コナン君が誘拐されたときに助けてくれたあの真剣な眼差しは間違いなく本物だった。
何の根拠もないけど、それだけは自信を持って言える。
ホォー…と興味深そうに赤井さんが口を開いた。
「◇◇」
「はい?」
「少なくとも俺が信用してるのは、君の視野だけではない」
「??」
「君は生まれ持ったそのスキルで、常人の数倍は人間を観察してきた。子どもの頃からずっとな」
「…なんでそんなこと分かるんですか」
「分かるさ。だからこそ、一般人にも関わらず人の表情や視線に非常に敏感だ。そして事件があれば状況に応じた視点変更や観察が出来る」
これで推理力と行動力と危機感があれば相当腕の立つ探偵になれただろうな、と言われた。
バカにされてる…?
一番肝心なものが足りてないよねソレ。
「君が自信を持って出した答えは、君が信じてやれ」
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