テテジミ

□恋の手解き 前編 R18
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「な、……なっなに、いきなり」
「い、いきなりじゃないだろ……僕ら、付き合って半年くらいたつよ。普通、そういうこともするんじゃないの」
「え……えー……えーと……」
「......僕は、してみたいよ。お前とそういうこと」

身体を起こして、テヒョンの顔に詰め寄る。僕が距離を詰めるのに比例して、綺麗な顔は遠ざかっていく。ムッとして、ふっくらした頬を両手で掴んだ。

「嫌いなの? 僕のこと」
「き、嫌いなはずないだろ!」
「じゃあ、......やらしいことが嫌いなの」
「そ......そうでもなくて......」
「じゃあ、なんだよ」

僕のことが嫌いじゃない、やらしいことも嫌いじゃない。
そうしたら、ここまで先伸ばしにしている理由はなんだ。
初めて経験することに戸惑ってるのなら、お互い様だ。僕だって、同姓と恋愛するのは初めてなんだから。
至近距離で目を合わせたままにしていると、根負けしたかのようにテヒョンがもじもじと口を開いた。

「……セ……セッ、……クスとか……そういうのは、結婚してからじゃないと……」

……は?
思わず眉が寄る。
僕の表情を見て何を読み取ったのか、テヒョンが慌てて首を振った。

「いや! ジミナと結婚したくないわけじゃなくて、む、むしろすぐにでもしたいけど、でも、……仕事もあるし、タイミングとか、……俺もいろいろ悩んでて……」
「……」
「こういうことは大事にしないと」
「......」

きりっとした顔で言い切る同じ年の恋人に、力が抜けそうになった。
......そういえば、テヒョンの家はこうだった。父親は厳格で、躾に厳しく、恋愛をするにも家族の許可が必要なんだと以前にインタビューでも答えていた。
婚前交渉は、父親の教えに反するんだろう。そして、真面目なテヒョンは成人になってもそれを守ろうとしているんだろう。
汝、婚姻前にセックスをすることなかれ、と。

「......じゃあ、僕と結婚したらいいってこと?」
「もちろん! すぐにでもしたいけど......その、結婚も、......せ、セックスも」
「......」

こいつは、分かっているんだろうか。
僕たちはアイドルという仕事をしていて、男同士で......普通の人たちよりも、結婚、という形を作るためのハードルがとても高いということを。
まず現役中は無理だろうし、結婚にこだわるのなら韓国では無理だから、他の国に行かなければならない。国籍だって変えなければならないし。その場合、家族にだって理解を得なければならないし。

……なに? お前と愛し合うためには、そのハードルを全部超えないとならないの?
僕は何年待てばいいわけ?

「……」

もじもじと顔を赤らめるテヒョンと相反して、僕の顔は白くなる。
無理。むりむり、絶対無理。
無理っていうか、やだ。テヒョンのタイミングを待っていたら、僕らおじいちゃんになっちゃう。
最近広くなってきたテヒョンの肩に両手を置いて、ゆらりと膝立ちになって、一時期「世界で一番」と称された顔を見下ろした。

「......テヒョン。お前、抱く側と抱かれる側、どっちがいい?」
「……え……分かんない……」
「そう、僕もなんだ。だからさ、本番前に予行演習しておこうよ」
「......予行演習......?」

僕を見上げながらおうむ返しに尋ねる恋人に、「そう」とにっこり微笑みかけた。

「ただの練習、リハーサル。ステージに上がる前には、練習が必要だろ? セックスだって事前に練習しておかなきゃ」
「......練習......」

セックスの練習ってなんだよ。
自分でも呆れたが、純粋なテヒョンには効くと思ったのだ。
本番前に、つらい練習をするのは当然、と心にも身体にも染み付いている僕たちだからこそ効く言葉。
......にも、ほどがあるけど。

どうだ......? とじりじり待つ僕と、じりじり考えるテヒョン。
だめか、と思った次の瞬間、テヒョンは水が弾けたように顔をあげて、まっすぐな目をして言った。

「予行演習なら、セックスにはならない!」

......ああ、よかった。
テヒョンがおバカで。


---


それから二時間後、僕らはベッドの上で互いに裸になっていた。
お互い、今さら見慣れた身体だ。テヒョンは男らしく、銭湯の脱衣所にでもいるように潔く素っ裸になった。
......で、二人でベッドに座って、座ってというか正座で、顔を付き合わせて学生時代の教科書を開いていた。生物の。
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