テテジミ

□花吐きジミン
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朝「体調が悪い」と遅れたジミンは、真っ赤な薔薇の花びらを吐いてやってきた。

全員が、動きを止めてジミンを見た。
ターンの練習中だったソクジン兄さんは、あまりに驚きすぎて足をもつれさせて転んだ。

「……な、な、な」
「……」
「なんだよそれぇ」

おそらく、全員が思ったことに違いない。それは、当事者である本人も同じようで、ジミンは泣き出しそうな顔で唇から溢れる花びらを両手で押さえた。

---

「花吐き病だな」

ナムジュン兄さんが、ジミンが吐き出した花を見てそう言った。

「……花吐き病?」

不安そうに、ジミンがナムジュン兄さんを見る。
ソクジン兄さんはジミンの手をぎゅっと握りながら、「なんだそれ」と詰め寄った。

「恋煩いが具現化したもので、想いが花となって溢れてしまう奇病です。昔、アジアを中心に流行した病気みたいで......最近はあまり見ないそうなんですけど」
「......恋煩い? 奇病? な、治るのか?」
「治ります。条件を満たせば」
「条件って......」

スタジオの真ん中に座っていた全員が、今度はナムジュン兄さんを見る。
ナムジュン兄さんは、口元に手を当てて少し考えるように間を置いてから、ジミンの目を見て言った。

「花吐き病の原因を取り除くこと......つまり、恋煩いの状態から抜け出すこと」
「......抜け出すって......」
「簡単にいえば......恋をしている相手との想いを成就させることだ。方法はそれしかない」

それを聞いたジミンの顔が、さっと青くなった。
ユンギ兄さんが、少し眉を寄せて笑う。

「ずいぶん、ロマンチックな病気だな」
「笑いごとじゃないですよ......花に寄生されてるんです。想いが成就せずに花を吐き続ければ、本人ごと花になってしまいます」
「......は? マジ?」
「嘘ついてどうすんですか」

二人の会話に、今度はソクジン兄さんの顔が真っ青になった。
ジミンの手を握って、ナムジュン兄さんとジミンの顔を交互に見ながら「花になるって」と、泣き出しそうな声で言った。


「は、花って、寄生されてるって、ジミンが? 人間じゃなくなっちゃうのか?」
「載っている文献では、そう書かれています……詳しいことはこれから調べます」
「ジミン、相手はお前のこと知ってんのか」
「そうだ、恋が実ればいいんだろ、俺たちも協力する」

ホソク兄さんがジミンの背中を擦りながら顔を覗きこんだ。
ジミンは青い顔をしたまま、両手で口元を押さえて再度大量の花びらを吐いた。
真っ赤な薔薇の花弁は、座りこんだジミンの足元に血のよう広がっていく。その花があまりにも綺麗で、そんな場合じゃないのに少し見惚れた。

花を吐くのは苦しいんだろうか。それとも、恋をしている相手との関係が良くないのだろうか。
ジミンは絶望を背中に背負ってしまったかのように体を丸めて、手で顔を覆った。

「......兄さんの話が本当なら、僕の病気、治りません......すみません、次のツアーも決まってるのに......」
「仕事はいいよ、お前の体が優先だよ……相手の人、そんなに望みがない人なのか?」
「お前のことを好きにならない人なんていないよ。大丈夫だ」
「そんな簡単な相手じゃないです」

兄さんたちの言葉に、ジミンは膝に頭を埋めたまま首を振る。
ナムジュン兄さんが、ジミンの両頬を包んで顔を上げさせた。

「相手は誰なんだ?」
「……死んでも言いません」
「......言いにくい相手か。......ってことは、俺らの知ってる相手だな」
「......!」

ジミンが、ナムジュン兄さんの手を振りほどいて、真っ赤な顔をして立ち上がった。
目には明らかに怒りの色が滲んでいる。

「......いくら兄さんたちでも、僕のプライベートな気持ちにまで踏み込む権利はないです」
「ジミン、治さないと花になっちまうんだぞ。お前が好きになる相手だ、優しい人なんだろ。事情を話せばその人だってきっと......」
「嫌です! そんなことで好きになってもらうくらいなら、花にでも雑草にでもなった方がマシです!」

そう叫んでから、ジミンは踵を返してスタジオを出ていってしまった。
残された俺たちは、顔を見合わせてから肩を落とした。
一番大きなため息をついたのはナムジュン兄さんだ。顔には「やってしまった」という言葉が浮かんでいた。
兄さんは頭をかき混ぜて、両手で顔を覆って項垂れた。

「......すみません、言葉を間違えました......」
「いいよ、ジュナ。ジミンのために言ったことだろ」
「......ジン兄さん」
「ジミンだって分かってくれるよ。......それより......」

これからどうしたら、とソクジン兄さんも目を伏せた。
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