テテジミ

□Baby Jの憂鬱A キムテヒョン編
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「あーーーー......」
朝だ、と唸ってから体を起こした。同時に、おはよう、チムチム、と声に出して呟いた。

チムチムは素晴らしい。
声に出すだけで寝起きでだるい身体に活力がつき、世界がキラキラと輝いて見える。
俺の生活にチムチムが入ってきてからというものの、性格は前向きになるし肌はつやつやになるし身長は延びるし、育てている野菜たちも元気になって、もう何もかもいいことづくしだ。

チムチムはすごい。
俺の人生に、チムチムは欠かすことはできない。
たくさんのチムチムが見守ってくれているこの部屋で、一番かわいくかっこよく撮れている枕元のチムチムに「サランヘ」と呟いてキスをした。



「テヒョーン。アンニョーン」
「あにょー」

俺の名前は、キム・テヒョン。
大邱で野菜を育てている、どこにでもいる白菜農家だ。主にキムチ用の大きな白菜を作って、遠い地域にも届けている。

近年農家事情も色々と変わってきていて、ただ畑を耕しているような時代ではないらしい。
うちはそういのはいいです......と頑なに断ってきたうちの両親も、ついに「わたしが育てました」の写真をインターネットに掲載することを決断した。

写真には父親と母親が写る予定だったが、当日にやってきた撮影班が「絶対に息子さんの写真の方がいい」と必死に説得するのでその通りにした。
俺みたいに若くて元気がある男が「作りました!」 と言った方が、白菜も美味しそうに見えるのかもしれない。
今まで見たこともないような大きなカメラと変な白い板に囲まれて、その時は白菜を抱えてブイサインをした。

そのため、うちが育てた野菜にはどれも「わたしが育てました」と笑う俺の写真が添えられている。

「テヒョンの写真を載っけてから、よう売れるなあ」
「父さんの白菜が美味しいからでしょ」
「やー、今まで大邱以外からの注文なんてなかったんだけどなあ。最近はほら、ソウルからも多いってよ」
「しかも宛名が女の人ばっかりっていう噂もあるってよ」
「テヒョンはかっこいいからなあ」
「ねえー、イケメンってやつだからねえ」
「ソウルに出て、アイドルやってても不思議じゃないよお」

手伝いに来てくれている近所の母さんたちが、土のついた手で俺の背中を叩いて笑った。

「いやあーそんなことないですよー」

いつものことだと交わしながら、のびのびと生えている草を容赦なく抜いていく。
俺がアイドルなんて、とんでもない。
アイドルというものは、存在だけで人を笑顔にできる、夢を与えられることができる人だけができる仕事だ。そう、俺が大好きなチムチムのように。

チムチムは、天性のアイドルだ。
笑うと目が糸のように細くなって、もうその顔を見るだけで幸せになれる。
肌が柔らかそうで、よく伸びそうで、俺が育てている白菜のように白い。
コンサートやライブ会場で見せてくれるダンスはパワフルで、この間までは腹筋がバキバキだった。今はまたもちもちのお腹になっているらしいけれど、俺はどちらのチムチムのお腹も大好きだ。

かっこよくて、かわいくて、彼を形容する言葉が見つからない。
形容詞はチムチムだ。
俺にとってのチムチムは、チムチムとしか表せられない。

「テヒョン、なにかあったかね。嬉しそうだね」
「最近、いつもだねえ。ああやって一人で笑ってるの」
「昔から一人で笑ったり怒ったり不思議な子だったけど、このところはずっとにこにこしてるね」
「好きな子でもできたかね」
「やー、テヒョンならどんな子でもすぐにOKだよねえ」
「ねえー」

いつの間にか、だいぶ遠いところまで草を抜きに来ていたみたいだった。
チムチムのことを考え出すと時間があっという間に過ぎていく。
遠くでお手伝いの人たちが何を話していることなんて知らないまま、俺は以前チムチムが着ていた白菜のキグルミを思い出してまた笑った。
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