テテジミ

□Baby Jの憂鬱@ ジミン編1
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「すごいな。全部バカで戦ってる」
「どうせなら、もう少しかっこよく論破してほしいなあ」
「俺もこういうファン欲しいわ。見てて飽きない」
「ホーム見てみよう」

いつの間にか携帯は僕の手から離れ、兄さんたちが笑いながら画面を操作している。もう勝手にしてくれ、と思いながら頬杖をついて、初めて見るそいつのホーム画面を横目で見た。

そこには、僕の一番気に入っている写真がセットされていた。
デビューしたばかりの頃の、慣れないステージで初めて笑えた時の顔。防弾少年団のジミンというよりは、パク・ジミンの時の顔だ。

......なんだ。趣味はいいじゃないか。
この写真、あまりファンには評判よくないのに。

懐かしくて、当時の思い出がわずかに甦る。この時は毎日必死で、いつ防弾のメンバーから外されるかといつも怖くて、心の底から笑えたことも気持ちが安らぐこともひとときもなかった。
この写真は、初めてファンの期待に応えられたことと、兄さんたちに誇れる仕事ができたと感じられた時の顔だ。
いつの間にか、僕にもファンとアンチがつくようになったんだな、とぼんやり思った。

「ジミン、この人のツイッター名って本名かな......キム......テヒョン?」
「まさか......ツイッターに本名晒すおバカなんているはずないですよ」
「そう? 俺のツイッターは本名だよ」
「......ジン兄さん、それ事務所に言っといた方がいいです。多分削除しろって言われると思いますけど」
「え......」
「いや、え、じゃないですよ。俺の台詞ですよ。なんすかその顔」

顔を見合わせる兄たちから携帯を取り返して、昔の僕が笑っているホームを眺めた。
アンチのアンチである、こいつのツイッターアドレスはkimchimchim。

......きむちむちむって、なんだろうなあ......。

はー、と息を吐いて、携帯電話をパンツのポケットに仕舞った。
兄さんたちの言う通りだ。精神衛生上よくない。
こんな時は、練習だ。練習しかない。
アンチなんてどんなアイドルにだっている。努力して、実力をつけて、どんな言葉にも耳を貸さないようにと、本当に思えるようになるまでなるしかない。
僕にアンチコメントがつかなければ、こいつだって反応しなくてもいいはずなんだから。
よし、と立ち上がって、パン、と両手で頬を叩いた。

「新曲! 通しでやってきます!」
「おー、えらい。あとで俺らもいくよ」
「あと兄さん、僕の足は短くないですよねっ?」
「短くないよ、ジミン」
「胴も長くない、大丈夫だ」
「ですよね!」

親指を立ててくれる二人の兄に僕も同じように返して、履き慣れた靴で床を蹴った。
後ろから聞こえる「足が短いのはジン兄さんだし」と呟くシュガ兄さんの声と、憤慨するジン兄さんの声は、今度こそ聞かない振りをした。

僕はアイドルなんだから。
何があっても、何を言われても、笑顔で人に夢を与えることが仕事なんだから。
そういう仕事を選んだのは、他でもない自分なのだから。
この身は応援してくれているファンのもの。
自分の感情に左右されたりしている暇なんて、少しもないのだ。

「でも、ああ、くそ、身長だけは
どうにもならないんだからネタにするなよー!」

練習スタジオに張り巡らされている鏡に向かって大きな声で叫ぶ。
そして、昨日染めた髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜてから、デモテープができたばかりの曲を大音量で流した。


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