novel2

□王子の側付きとの密事
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その日は人生で一番ドキドキした日だと後にプロンプトは語った。
高校の入学式でノクティスに話し掛ける時以上の緊張を味わい、心臓がもたないのではないかと思った、と。

学校が休みの日の前日にノクティスの家に泊まりに来たプロンプトはたまに姿を見せるイグニスの姿をリビングのソファから見つめていた。
高身長のスラッとした体型。前髪の隙間から覗く眼鏡越しの瞳。
堅苦しい雰囲気とは似合わず実は少し垂れ下がった目尻は笑顔を見せると優しさが一層増すことを知っている。
まるで母のような愛をノクティスにいつも与えていて、冗談抜きでこんな母親が欲しかったなんて思ってしまう時もしばしば。
プロンプトにとってはノクティスの側付きという立場の彼とは時折接触する一般市民とは違い尊き立場に近い人。
ある意味、ノクティスよりも話し掛けづらい人だと認識している。
手に持っているスマートフォンを動かしていた指が止まり、明日の朝食の下ごしらえをするイグニスを見つめ続けていた。
それはもう穴が開くのではないかという程に。
すると、顔を上げたイグニスがフッと微笑みプロンプトを見る。
「ゲームは飽きてしまったか?」
「え……あ、そうですね。やっぱりノクトいないと……あはは」
風呂に行ってしまったノクティスが消えて然程時間は経過していない。
飽きるには早すぎるというのにイグニスの問い掛けに思わず頷く。
誤魔化してそう答えたものの、実際は指なんて殆ど動いていない。
イグニスの観察をするのは無意識。
見ているだけで彼のようにカッコよくなれればという気持ちからか思わず視線を送るのだ。
イグニスが片付けを済ませリビングの方へと回ってくると何故かドキリと心臓が跳ねる。
二人きりだから緊張するのか、もっと違う何かからか。
近付いてくるイグニスがスローモーションのようにゆっくりに見える。
なのにまったく動けず黙って彼を見つめ、目の前に立った時にやっと咥内に溜まった唾液をゴクリと飲み込む。
ソファの背凭れに片手を置いたイグニス。空いているもう片手の指先がプロンプトの顎を掬い上げるように触れる。
長い指先。料理をしているものの手とは思えない程の肌触り。
ちゃんと手入れをしているのだろうか、なんて検討違いな事を考えてしまう。
パチパチと瞬きだけを繰り返していると徐々にイグニスの顔が近付いてくる。
そっと塞がれる唇。柔らかな唇が少し離れて再び啄むように触れた。
角度を変えて幾度か口付けられてもプロンプトは状況が飲み込めずただそれを受け入れるだけ。
ただ触れるだけのその動作すらも優美。
脱衣場の方から物音が聞こえた時、ようやっとイグニスの唇が離れプロンプトはやっと状況を理解して顔を真っ赤にした。
否、理解などしていない。
何故、口付けられたのか。自分は男なのに。
そもそも、冗談にしても程度が過ぎる。
熱くなる顔はゆでダコのようなプロンプトに反して、まるで何事も無かったかのような澄ました顔のイグニス。
顎に触れていた指先がゆっくりと動き、立てられた人差し指がプロンプトの唇の前へ。
シッと喉を鳴らすイグニスの表情が笑みを深くしていて、それが現実だったのだと実感させられた。


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