novel2

□旅の始まりに
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どうしたら貴方に近付けますか?

どうしたら貴方に触れられますか?

どうしたら貴方と手を繋げますか?


旅を開始して直ぐ。
借り物の高級車レガリアがエンストし、開始早々から三人がかりで車を押すという苦行を為した。
躯は気持ち悪い程に汗だくかつ、車を押している途中で汚れるのを覚悟の上で地面に転がった事もあり服も肌も薄汚くなってしまったのだ。
ハンマーヘッドに無事に到着しレガリアの修理費用によって手持ちの金が無くなり、シドニーの配慮によって前金を貰う事ができ、無事にその辺で野宿なんて事にはならずに済んだ。
モーテルなんてものは近くに無いので、ハンマーヘッドの片隅にあったモービルキャビンへと足を踏み入れる。
キッチンもベッドも簡易のシャワーもしっかりと設置されていて、思っていたよりも躯を休めるには充分に設備が整っていたので一同は安堵の息を吐く。
ノクティスとグラディオラスは外に置かれた白いテーブルと白い椅子で談笑を開始し、レガリアを故障させた張本人であるプロンプトはキャビンの中に足を踏み入れたイグニスの後を追う。
「キッチンは……問題なさそうだな」
「やった!今日はイグニスのご飯が食べられるー!」
設置されたコンロ等をイグニスは屈んで不具合が無いか確認をする。
特に問題点は無く今夜は無事に食事にありつけると一つ頷けば再び立ち上がり今晩のメニューを思考に巡らせ、その様子を見ていたプロンプトは花が咲いたように笑みを浮かべ声を上げた。
「前金もあるし外食もできるんだぞ?」
「いいよ、外食するとお金かかるし。それにオレはイグニスのご飯好きだから」
フッと笑ったイグニスの顔が綺麗でドキリと心臓が跳ねたが、それを悟られないようにいつも通りの笑顔を向ける。
プロンプトはイグニスの事が好きだ。
それはもう学生の頃から。
ノクティスと出逢い友人となり交流するようになった普通に生活していては出逢えなかった相手。
最初はとても堅苦しそうで接しづらそうだと思っていた相手ではあるが、次第に相手の人となりを知り惹かれていった。
身長も高くスタイルも良く顔もこんなに良いというのに、時折可愛らしく微笑んだり冗談も言ったりするのだ。
イグニスの姿を眼で追うのが好きで、たまにこうしてノクティスよりもイグニスの傍に行ってしまう。
たまに気持ちがバレてしまわないか冷や冷やするが、今のところ問題はない。
「そうか。お前はいつも残さず食べてくれるし作りがいがあって助かる。ノクトに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」
「あれは無理っしょー。百回くらい生まれ変わんなきゃ」
「そうかもしれないな」
フフッと笑いながら長い指先が綺麗に手入れされたコンロを撫でる。
その指の動きすら美しく思わず視線はそこへ。
低く優しげな声音はとても耳に馴染み、聞くだけでプロンプトは落ち着いた気持ちになる。
拗らせたような片想いはずっと胸の奥に燻っていて、その長い指先に触れたいという欲が溢れそうに何度なったか。
少しくらいは良いんじゃないか、なんて思って指先をそっと伸ばしてコンロに触れるその指を撫でるように触れてみた。
手袋越しとはいえ嬉しくて舞い上がりそうになるが、ふと己は何をしているんだと現実に戻り慌てて顔を上げる。
「ぁ……ごめ、っ!」
「シッ」
その手を直ぐに退こうとしたがイグニスの指先がプロンプトの手を捕らえた。
喉奥から静かに、という意味で音を鳴らしたイグニスがプロンプトの顔を覗き込む。
掴んだ手にゆっくりと長い指先が這い、指の隙間にイグニスの指が絡む。
まるで恋人同士のような。
ドキドキと心臓が煩いほどに鳴り、顔が一気に火照る。
熱い、と思うよりも先に近付いてきたイグニスの顔。
グラディオラスもノクティスもキャビンを背にしていて、その中の様子は誰も気付かぬまま。

二人の秘密の口吻けは誰も見ていなかった。


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