novel2

□飲酒
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その時は酒の力もあってか己の欲望に忠実だった。
ずっと手に入れたいと胸の奥底に燻り続けていた想いが爆発し、イグニスはベッドに組み敷いたその躯のラインを手の平全体で撫でる。
咥内に残る酒の味よりも今は興奮によって溜まる唾液の味の方が目立つ。
いくら飲み込んでも溜まるそれ。
ゴクリと音を鳴らして飲み込んだのは何度目だろうか。

夜も賑わうレスタルムの街。晩飯の時に味わった辛口の酒のアルコール度数は思っていた以上で、ホテルに着いた時には同室のプロンプトの足取りはふらつき、倒れそうになるその躯をただ支えただけ。
だのに、プロンプトは「へへっ」と笑って赤みを帯びた頬をイグニスの肩口に擦り寄せ離れず、あろう事か腰に回してきていた手を下降させ尻を撫でてきた。
男の固い尻など触って何が楽しい。
女性と間違って触れているという訳でもなさそうなそれが前方に回され、片手のみ何も反応のない股間に触れてきて、流石のイグニスも躯を震わせる。
感じた、という意味ではなくただ驚いて。
ゆっくりと撫でてくるその手を慌てて掴み「プロンプト」と声をかければ膨れっ面で見上げてくる。
唇を尖らせ不服を訴える表情。
可愛いとは思うが今はそれどころではない。
「酔いすぎだ。早く休もう」
「んー……やだ」
「プロンプト」
「ね、イグニス……キスしよ」
まるで子供に言い聞かせるように言ったが左右に振った首が拒否を示す。
普段は切れ長の瞳がトロンと溶け、次いできた言葉はまるで恋人を誘うもの。
顔を上げ、瞼を閉じ、誘う唇は僅かに開いていて唾液で光る舌先が扇情的。
ガンッと頭が殴られたよう。
今まで、出会ってこの数年間、イグニスはどんな時にも耐えてきた。
それはノクティスの親友であるプロンプトにそういった事をしないようにと。
己の友人になってからは尚更。
子犬のようになついてきてくれる彼。だが、イグニスの奥底にある感情は彼とは決して違うものと思っていた。
迸る恋情。溢れる想い。
プロンプトのたったそれだけの言葉や表情だけで鍵をかけていたものが簡単に開く。
それは酒の力によるものなのか。
素面なら耐えきれた自信があるのだから、きっとそうなのだろう。
全ては酒のせいだと己に言い聞かせイグニスは流れるように組み敷いた彼の唇を奪い余裕もなく舌を絡めた。
互いの唾液が混じり合い、互いに味わった酒の味も混ざり合う。
否、もう酒の味などとっくに消えている。
今感じるのはプロンプトの味だけ。
柔らかな舌先の感触も、熱い咥内も、漏れる吐息も今だけは全て自分のもの。
唾液を送り込み相手がゴクリと飲み込めば自分の一部が相手の中に入った気がした。
性行為と同じ感覚。
今からしようとしている事は決して許される事ではないかもしれない。
イグニスの手が先程のプロンプトと同じように股間を撫で、指先でゆっくりと刺激を与えると「ん……」と漏れた熱を持つ声と同時にプロンプトの両腕がイグニスの首へと絡んだ。


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