novel1

□告白
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──オレ、お前が……


つい先日、夕焼けに染まった訓練所にてグラディオラスに真剣な眼差しで告げられた言葉。
否、正確には告げられそうになったの間違い。
言葉の続きは突然の来訪者によって遮られてしまい終わりを告げ、今度で構わないと言われてから二週間。
一向に続きを話す気配の無い相手にイグニスは焦れていた。
キッチンに立ち込める甘いチョコレートの匂いは鼻孔を刺激し、ビターを強めに仕上げたそれをヘラで掬い指先で味を確認する。
舌に乗るチョコレートの味わいはその辺の市販のものとは違う。
甘過ぎず苦過ぎず。
まるで自分達の関係のようだと苦笑を浮かべ続きを再開した。

「グラディオ、呼び出して悪かったな」
「いや、こんなとこでどうした?」
城の休憩室の一つ。
テーブルもソファも用意されたそこに呼び出したのは噂のグラディオラス。
噂というのはイグニスの個人的なものであったが、きっと彼はバレンタインという世間の男女が賑わうイベントの中では中心に立てる存在。
きっと沢山の女性から数えきれぬ程のプレゼントを受け取っているのだろう。
そんな事は百も承知。
それでもイグニスは彼を呼び出した。
勝てない試合には挑まない。勝てるように策を練ってから動くのが当然で、負ける試合には勝てるようになるまで動かぬものだが、今日は勝てると判っているから彼を呼んだ。
テーブルに置かれたフォンダンショコラ。
それにグラディオラスは「おお!」と声を上げる。
濃い茶色を彩るボディを引き立てるように添えられた生クリームは滑らかなそれで食欲をそそるもの。
早速ソファに腰掛けたグラディオラスが「味見係りか?喜んで引き受けるぜ」なんて嬉しそうに笑む。
勘違いをされては困る。
そうフッと笑みを浮かべたイグニスがグラディオラスの腰掛けるソファの背凭れに手を置く。
「勘違いをするな。これは所謂、本命チョコというものだ」
「っ……!」
「そろそろお前の言葉の続きが聞きたい。オレの事をどう思っている?」
妖艶に微笑む表情がグラディオラスの視界を支配し、いつの間にか掬い上げていたフォンダンショコラの生クリームを指先でグラディオラスの唇へ。
白く染まったそれを舌先で舐めとると実質口付けと同様の意味をなした。
唇を重ね合わせるだけが口付けではない。
誘う笑みも誘う躯も誘う仕草もグラディオラスには刺激が強く、耐えきれずその躯を引き寄せソファに押し付け荒々しく口付けた。


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