チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 52
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オールフェイス異常事態






墓猫は、怒りながらも、冷静に思考力を回し、考える。


そして、結論付ける。

nilは、『嘘を付いて居る』と。


恐らく、先程まで、自身の尻尾にあったのは、紛(マギ)れも無い本物の生玉。

此の自分が、長い事、縛り付けて来た男子3人組の生玉が、本物か偽物かなんて、気付かない筈が無い。


しかし、nilの言葉も間違っては居ない。

あの台詞は、確かに、nilの本音だった。


どう言う事かと、困惑する人も居るだろう。

虚実が混じり合った状況程、混乱しない物は無い。


勿体振(モッタイブ)る必要は無い。

つまりは、こう言う事なのだ。


nilは、墓猫を、信用も信頼もして居なかったし、何も感じては居なかった。

“命”である生玉を不本意に取られたnilは、墓猫に利用されつつ、生玉を取り戻す機会を、伺って居たのだ。



そして、機会を…“隙”を手に入れた。



先程、摩耶に“名”を聞かれた時、墓猫は、完全に、無防備状態だった。

つまりは、そう、枝折翔と同じで、nilも、其の好機を逃さず、付け込んで、自分達の生玉を掻っ攫ったのだ。



其れが、全て。



無自覚とは言えど、小娘1人に因って、隙を作らされ、大逆転のチャンスを与えてしまった、己の大失態。

墓猫は、同じ過ちを繰り返さない様、神経を尖(トガ)らせ、1度、目を閉じ、細く息を吐いて、ゆっくりと、瞼(マブタ)を持ち上げた。



きつく眉(マユ)を、釣り上げた片目。

だが、理性が、しっかりと醒(サ)めた瞳。


其の鋭くも真っ直ぐとした輝く瞳が、nilを射(イ)る。

威嚇(イカク)する体制から、後ろ脚を折って、座り込む。


其処には、少しの隙も無い。

僅かにでも侮(アナド)れば、鋭い爪と牙の餌食(エジキ)にされると、犇々(ヒシヒシ)と肌で感じた。



其れは、確信の証。

全てを、見通されたのだ、と。

単なる“勘”では無く、名探偵ヨロシク☆の如く、全てを見抜いて居る墓猫に、称賛として口を割るnil。





(nil)「一芝居(ヒトシバイ)打った、すり替えマジックって、とこか?」





発動条件は…、


@相手に隙が生じる事。

A贋作をイメージして、具現化する事。

B片手の、親指と、人差し指をクルッと、回して、贋作と入れ替える仕草をする事。


ギミックの解説は、以上だ。



だが、其れだけでは終わらない。

nilが片腕を伸ばし、指を握り締め、ジャンケンで言う所の、グーの形を作る。





(?)「!!」





墓猫が何かに気付いた。

そして、即座に、尻尾に絡み付かせて居た偽物の生玉を勢い良く投げ捨てる。


其の瞬間、nilがグーから指を開き切り、パーの形にした瞬間、偽物の生玉は、爆音を伴いながら爆発した。

少々、生玉を手放すタイミングが遅かったのか、其の際(サイ)、尻尾に埋め込んであった生玉が、爆風に巻き込まれて、大量に宙を舞った。



“種”も“仕掛け”も、あってこそのマジックだ。

“種”であるネタ晴らしをした後、実に物騒な“仕掛け”を起動させたのだ。



空(ス)かさず、喧花と枝折翔が地を蹴る。

喧花は器用に銀色の生玉だけをキャッチし、枝折翔は残りの金色と銅色の生玉をキャッチする。





(枝折翔)「〜〜〜ッ、おっ前なぁ!女の生玉ばっかし取ってんじゃねぇよッ!」



(喧花)「俺、フェミニズムだからさ☆」





バチコーン☆と、片目をつぶって行う合図、ウインクを勢い良く星付きで枝折翔に送る。





(枝折翔)「そう言う問題じゃねぇよ!」





バシッと投げ付けられた星を片手で叩き落し、ツッコミを入れる枝折翔。

しかし、先程の生玉を、パシパシッと、摑まえて行く連携プレイは息ピッタリで、見事だった。





(風鵺)「喧花たんが…男子にWinkした……だ、と!?」



(摩耶)「…さては、偽物?」



(風鵺)「ハッ!…そう言えば、下腹部から花が咲く試しも、自分から進んで、やってたよね!?」



(摩耶)「じゃぁ、偽物決定ね。」






しかし、風鵺と摩耶が問題視したのは、其処では無かった。

信じられ無い光景に、風鵺は、大袈裟なまでに、ビックリして、摩耶に至っては、『本物では、無い。』と断言して居る。


数多の男達を敵に持ち、自らも男に対して、敵意を持つ、あの男勝りの自他共に認めて居るレズビアンの喧花が、男子に、しかも、優し気に、ウインクを、したのだ。

普段なら絶対的に、有り得る筈の無い光景に、いや、前代未聞の衝撃的瞬間を、喧花の新たで意外性が抜群過ぎる一面を、認識してしまった風鵺と摩耶の2人は、ビックリ仰天する。





(風鵺)「What!?今から槍でも降るの!?もしくは、天変地異の前触れ!?!?」





風鵺は、顔を青褪めながら、ドン引きして、10歩程、後ろへと下がるが、友の一大事だ。

何とかせねばなるまいと思い、なけなしの勇気を振り絞って、『正気か?』と喧花に近付いて行き、肩を叩き、真面(マトモ)かどうか、確かめる為に、表情を覗き込む。





(喧花)「あぁ、十は別だ。半分、女だから、ちと優しく扱ってるだけだ。」



(風鵺)「ンー?ンー?ンー?ンー?ンー?……意味不明だYO!」



(喧花)「あー、俺も良く分かんねぇが、生れ付きのニューハーフだ。」



(枝折翔)「だから違ぇ!!其れと、ニューハーフの意味も違ぇ!!」



(摩耶)「……もしかして、第三の性である男女両性を兼ね備えた存在の両性具有(リョウセイグユウ)?」



(枝折翔)「其れだ、其れ!」





漸く、理解者が現れ、嬉しいのだが、他の女子2人にも、知られてしまった事への、複雑さも隠せない表情をする枝折翔。





(風鵺)「つまり、蝸牛(カタツムリ)や蚯蚓(ミミズ)みたいな、雌雄同体の生物…みたいな?」



(喧花)「おぉ〜、其れなら分かりやしーや。何だお前、大まかに言って虫みたいなもんか。納得納得。」



(枝折翔)「ぶっ飛ばすぞ、テメェ等!ゴルァ!!」



(風鵺)「喧花たん、知識が古いよ。国語的には其れでもOKだけど、分類学的には、蝸牛は軟体動物で、蚯蚓は環形動物だよ。」



(枝折翔)「いや其処は、俺をフォローしろよ!!!」





『何で蝸牛や蚯蚓のフォローしてんだよ!』と、怒鳴る枝折翔。

そんな頭に血が上った枝折翔は、喧花と風鵺に揶揄(カラカ)われて居る事に気付かない。


そんな、アホで、間抜けで、鈍感な、枝折翔に対して、深く溜息を零す、仙祥とnil。

其処で、仙祥が『何でバレたんだい?』と聞けば、更に別の意味で顔を赤くさせ、『不可抗力だ!』と逆ギレの飛び火が飛来して来た。



何時(イツ)の間にか、和気藹々(ワキアイアイ)ムードへと突入し、ギャーギャーと騒ぐ一同。



しかし、其の中から、1人、≪マザーグース≫に有る民謡の1つを歌いながら、輪から抜け出る人物が…居た。

子守歌・物語歌・早口言葉・ナンセンス歌、等、様々な民謡歌を含む、異国の伝承童謡の総称のマザー・グースから選ばれた曲は……――――、





男の子は何で出来てるの?
What are little boys made of?

男の子は何で出来てるの?
What are little boys made of?

カエル カタツムリ
Frogs and snails

小犬の尻尾
And puppy-dogs' tails,

そんなこんなで出来てるさ

That's what little boys are made of.


女の子は何で出来てるの?
What are little girls made of?

女の子は何で出来てるの?
What are little girls made of?

砂糖 スパイス
Sugar and spice

素敵な何か
And all that's nice,

そんなこんなで出来てるわ

That's what little girls arc made of.






(喧花)「…摩耶?」





気が付けば、摩耶は皆に背を向け、墓猫の元へと歩いて行く。

また、懲(コ)りずに、生玉を、渡すつもりかと思ったが、其れは、無い。


何故なら、まだ、摩耶の生玉は、喧花本人の手元に、有るからだ。

走って摩耶を引き戻そうとする喧花だったが、真上から降って来た“壁”に、ぶつかって、其れは難無く阻止された。





(喧花)「ブッ!?な、なんだぁ!??」





其処には、巨大な堅パン。

あっ、言っときますけど、中坊男子が狂った様に、肩にパンチし合う“肩パン”じゃないですよ?


北九州の名物の、くろがね堅パンです。

噂では、胸に入れて居たら、拳銃弾を弾(ハジ)いたと言われて居ます、クソ堅いお菓子の1つです。


さて、堅パンの事は、此処までにして置きましょう。

此の現象は、間違い無く、十中八九(ジュッチュウハック)、摩耶の“能力”の仕業(シワザ)だ。





(摩耶)「【甘党革命(アマトウカクメイ)】そう名付ける事にしたの、私の能力。此の『甘味特集大辞典』の本に載って居るお菓子なら、ご都合主義で自由自在に具現化出来る能力。」





こんなに、自分の事で喋(シャベ)る摩耶は、何時振(イツブ)りだろうかと、喧花は考える。





(風鵺)「其れって、償(ツグナ)いか、餞別(センベツ)のつもり?墓猫さん側に付く為の。」





そんな的外れな喧花とか違い、風鵺の頬がピクリと、何かを察した様に動き、口を開き、冷ややかに、鋭く尖らせた言葉を、疑問形だが、確信を持って、零して行く。





(摩耶)「ううん、違うよ。でも……――――、」



(風鵺)「でも?」



(摩耶)「『恋は何時(イツ)でもハリケーン』だからなの!」



(喧花・風鵺)「「いや、だから、ONE PIECEの名言が何っだつーの!?」」



(枝折翔)「だから、お前等は、他の二次元を、露骨に、持ち込み過ぎだッ!!」



(仙祥)「ぇ?まだ諦めて無かったの?一方通行の片想い!」



(nil)「阿呆(アホウ)か。」





多分、キラキラとした表情と声音(コワネ)で、壁の向こうで、心の底から、輝いて居るであろう摩耶。

そんな摩耶に、訳が分からないと、いい加減にしてくれと、思いを込めて、喧花と風鵺が、叫び声を上げる。

其処に、枝折翔が、此れ又(マタ)、何処かズレたツッコミを、ぶちかますが、其れも、空(ムナ)しくスルーされる。

そして、仙祥は、摩耶の発言に、まだ墓猫の事を諦めてなかったのかと、本心から、驚いた様に、不思議そうに、言った。

またまた、和気藹々な雰囲気に引き戻される展開と成った状況に、nilが、心底、呆れた様に、締め括りの、一言を呟いた。










And that's all
(それでおしまい…?)

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