チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 50
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蟷螂の斧は誰が持って居る?






花が描かれた玉の正体……――――、

なんと、其れは、偽葬師の唯一共通する弱点の【生玉(イクタマ)】其の物だった。


まさしく、其の通りだったのだ。

喧花を、見せしめとして、黒猫擬きが実証して見せた。


≪生玉=本人の命≫と言う公式は、脅しでも、間違いでも無く、正確無比の法則だった。

男子達が生玉の事を、“花の鈴”と呼んで居たのは、玉から鈴の音が鳴る事から、安直に決めた、別称の様な暗号だったのだ。


生玉が奪われ、破壊されると、其の人物も同じ運命を辿り、消滅してしまう。

では、何故、子宮の奥深くに住み憑いて居る生玉が、体外に、其れも、意図も簡単に出て来てしまったのか?


答えは、簡単。


此処の墓場で、“とある条件”を満たせば、あっという間に其れが叶う。

“とある条件”とは、先程、男子達が、女子達にした様に、下腹部にキスをする事である。


何故かと言うと、そう成る様、強制発動を起こさせるに近い仕掛けが施(ホドコ)され、設定されてしまった状態にあるせいである。

其の様に、大掛かりなトラップの様な罠を、手間暇かけて、態々(ワザワザ)、偽葬殿の、一部屋を、丸々と改竄(カイザン)したのは、言うまでも無く、黒猫擬きだ。


先刻、男子達が反旗を翻(ヒルガエ)す前に、其の条件を満たした。

今だからこそ、男子達は、女子達の急所を露呈(ロテイ)させてしまった事に対する行為を、心底、悔いて居る。





(喧花)「俺、大ピンチ?」



(風鵺)「うん。絶体絶命の崖っぷち状態。」



(摩耶)「花、燃えちゃったね。」





顔にヒビが入りながらも、自分を指差し、風鵺に、呑気に確認する喧花。

似たような気楽な態度で、風鵺は、起伏の無い平坦な声で、喧花に返答する。


そして、摩耶は生玉よりも、燃えた花に目を遣って居た。

生玉を花から取り除くと、花は警告を示す様に、燃え枯れる。


花は、人体で例えるなら、命の卵を、守る子宮壁の様な存在。

柔(ヤワ)ながらも、普段は体内の下腹部の辺りで、蕾を作り、其の中で、生玉を包み込み、守る役割を担って居る。

謂わば、専守防衛(センシュボウエイ)みたいな役割を果たすと同時に、生玉に異変が起こるのを察知した時、持ち主である者に、危険信号として、知らせる、暗示の“印(シルシ)”でもある。



しかし、此処で、とある疑問が浮上する。

今までの経緯を、良く思い出して欲しい。



何故、男子達の花は既に、燃え果てて居たのか?

花に包まれて居た、男子達の生玉は、何処にあるのか?

少なくとも、風鵺が此の墓場を闊歩(カッポ)して居た時には、何も転がっては、無かった。



ならば、何処にあるのか?

本人達が隠し持って居るのか?



しかし、男子達の、あの表情さからは、其れは、考えにくい。

何より、男子達が態々(ワザワザ)、体外に、そんな大事な物を、自ら差し出すとは考えられ無い。

其処で、ふと、黒猫擬きの9本の尻尾の先に、男子達の視線が向いて居る事に気が付き、其処を見遣る。


やがて、喧花と摩耶も含めた、全員の視線が、喧花の顔と黒猫擬きの口元に咥(クワ)えられた玉から、尻尾に移る。

其れを見て居た黒猫擬きが、更に笑みを深くし、『待ってました』と言わんばかりに、9本の内、3本の尻尾が何かを包(クル)んで居る様にして居た先端をフワリッと、開く。



其処には、3つの鈴。

花柄は…薔薇、百合、菫の3種類。

男子達の燃え果てて居た花と、全く同じだ。





(枝折翔)「やっぱりか…」



(仙祥)「まぁ、僕達も露骨過ぎたしねぇ〜。」



(nil)「ハッ、高々(タカダカ)1回、一枚上手の状況に持ってかれただけだろうが。」





枝折翔が、冷や汗を流しながら、確信した声で言う。

仙祥は、苦笑いを零しながら、しょうがないと語った。

nilは、鼻を鳴らし、嘲笑して、弱音を吐くんじゃねぇと叱咤した。





(喧花)「何だよ、奪い返す生玉は、計4つかよ。」



(風鵺)「でも、なんで君達の生玉まで外に出てるNO?……ハッ!まさか、Bぇ…」



(枝折翔・仙祥・nil)「「「其れ以上、言ったら殺す。」」」





男子3人組の凄い剣幕から、女子3人組は悟ってしまった。

男子同士で、下腹部にキスをして、体外に出したのだと…。


ドン引きする喧花に摩耶。

そして、眼を輝かせる風鵺。

そんな女子達を見て、何とも言えない複雑な心境に陥(オチイ)る男子達。



しかし、弁解をさせて欲しい。

あくまで、仕方なく、なのだ。



黒猫擬きと交わした契約。

其れを裏切らない為、其の証として、生玉の付いた花を花立に入れて置いた。

だが、今回、此処に舞い戻って来た時には、生玉は無く、花は枯れ果てて居た。


『やられた!』と思った。

黒猫擬きは、6人の言動を監視して居たに違い無い。


背中の羽根は、無数の小さな蝶の群れへと、変じる事が出来、其れで監視も出来るし、藤の房が咲き誇ってる癖に、耳の良い黒猫擬きは、全てを悟ったのだ。

男子達が、自分を裏切り、女子達の味方に、助けになると…だから、黒猫擬きは、6人が、ゆっくりと、テンポドロップの長い廊下を歩いて居る隙に、此の墓場に来て、男子達の生玉を、もぎ取ったのだ。



裏切者には、制裁を…。

用済みには、消滅を…。



見限ったのは、お互い様だが、黒猫擬きの方が、1歩、早かった。

しかし、自分達なら、まだしも、何とか生玉を取り戻せたかもしれないが、まさか予想外の事態が起こるとは思いもしなかった。


懸念しなかった訳じゃ無い。

女子達の、喧花の、生玉が奪われる事を…。


男子達は、見限るのが遅かったのだ。

なんせ、上記でも記したが、完全に黒猫擬きを、見限ったのは、女子達にキスをした後だったからだ。





(喧花)「おい、ホモ野郎共。いい加減、あいつの正体を教えろ。何時(イツ)までも、『黒猫擬き』じゃぁ、呼びにきぃからな。」



(枝折翔)「ホモじゃねぇッッツ!!!」



(仙祥)「墓猫だよ、彼は。」



(摩耶)「墓猫って、『墓場・墓参りの道で転ぶと、仏の怒りに遭い、人が墓猫と言う怪物になる。』って言う、あの?」



(仙祥)「そうだよ。」



(喧花)「ぶひゃひゃひゃひゃっ!転んでって、案外、間抜けなんだな!」





喧花が、摩耶の解説を聞いて、思わず、爆笑する。

お腹を抱え、身体を『く』の字に曲げ、皮肉と揶揄(ヤユ)を込めて、可笑(オカ)しそうに、大きく、散々に嗤った。





ピキッ



ビキリッ





黒猫擬き…基(モトイ)、墓猫が、更に咬合力を加えると、喧花の生玉に、当然の事ながら、ヒビが更に入った。





(喧花)「サーセンでしたぁああアア!!」





其れと同時に、喧花の顔のヒビも、酷く成る。

其の瞬間、瞬時に態度を180℃変え、墓猫に対して、スライディング土下座を繰り出す喧花。

体育会系部活やらが昔から使って居る、『こんにちは=ちーっす』や『ありがとうございます=アザース』等の類(タグ)いと同様で使われる、『すみません』と言う謝罪の言葉が崩れた物である謝罪を共に述べて…。





(枝折翔)「アホかッ!!」





自身を人質に、基(モトイ)、玉質(?)に捕られて居ると言うのに、相手を挑発する様な、逆上させる様な事を言ってどうする。

…と、墓猫と、喧花以外の一同が、呆れた様な、まさに、アホを見る様な、かなり軽蔑した視線を、喧花に、一斉に、向ける。


すると、突然、其の後、何を思ったか、摩耶が動いた。

其れを、目撃した墓猫が、摩耶を見つめながら警戒の体制を取る。


すると、驚く事に、摩耶は、自分の墓に添えた牡丹の花から、生玉を、そっと取り外す。

当然、喧花の芍薬の花と同様、摩耶の牡丹の花も、ボッと、一気に、燃えて、焦(コ)げ焦げに成る。


しかし、摩耶は、然(サ)もありなん…とでも言う様に、流れる様な自然体で、墓猫に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

表情にこそ出しはしなかったが、無防備に、盾も付き人も無しで、1人で、自分の所へ歩いて来る摩耶を見て、墓猫は、僅かながら、空恐(ソラオソ)ろしさを感じた。

全く、何も、仕掛けて来る気が、更々無い、硝子細工で作られたかの如く、無機質な瞳を埋め込まれた、絡繰(カラク)り人形が、自身にとって、喉から手が出る程の御宝を、目前にまで持って来る…そんな、異様な光景に。


其れは、他の者達も同じだった。

摩耶の行動に、困惑の色を示して居た。

『何をして居るんだ?』、『何を考えて居るんだ?』、『止めろ!そいつに、近付くな!戻って来い!』…と、思う事は皆、似たり寄ったりだった。


だが、不思議と、其の台詞達は、叫び声に成らなかった。

只々、再び、訪れた、不自然な静寂に、辺りが呑み込まれた。










And that's all
(それでおしまい…?)

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