チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 48
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憧(アクガ)らす、一朶(イチダ)は、匙(サジ)を投げ出した






一刻前の、決して穏やかとは言えなかったが、和やかな雰囲気は何処へやら…。

穏やかさも、和やかさも、あの仮初の平穏さは、もう既に、消え去って居た…。


其の代わりに、軋(キシ)む様な緊張感が漂(タダヨ)い、戦いは始まって居た。

其の様な中、枝折翔、仙祥、nilの3人は、見事な攻撃の連携プレイを、披露する。


だが、戦闘は圧倒的に圧(オ)され気味だった。

何故なら、黒猫には一切、其の攻撃が効いて居ない。



いや、届いて居ない。



3人の其々(ソレゾレ)の攻撃が、黒猫に届く前に、其れ等、全てを、優雅(ユウガ)とも湛えられる素晴らしい動きで、躱(カワ)して居るからだ。





(枝折翔)「ったく、化け物が!」





枝折翔が、悔しそうに歯噛みする。

其の言葉に、黒猫擬きの頬は、ピクリ、と震える。


でも、其れだけの仕草(シグサ)のみで、表情は変わらない。

圧倒的なまでの力の差を知りながら、立ち向かって来る愚かしい生き物を、冷たく無機質に、墓石から見下ろして居た。


只々、非常なまでの、冷たさだけを感じさせる温度だけを含ませた視線。

感情なんてモノは、一切合切、許容させない、何処にも宿らせはしない、無情なまでの、何処までも冷ややかさだけを宿した其の片目。



だからこそ、否応(イヤオウ)なく、男子3人組へ、先程までの、圧倒的な畏怖(イフ)の念を彷彿(ホウフツ)させ、より一層(イッソウ)、根強く、植え付ける。



しかし、男子3人組も、必死に、抗(アラガ)った。

気を抜けば、怖さで、強張(コワバ)り、動かなくなってしまいそうな体。

緊張が途切れれば、寒さで、震えそうになり、逃げ出してしまいたいと叫ぶ心。


そんな己の弱さに負けまいと、虚勢(キョセイ)を張る。

そして、己を奮(フル)い立たせて、勇猛果敢に立ち向かって行くのだ。


枝折翔が、必死に、両手の指で、長さの異なる太鼓バチを掴(ツカ)み、構えた。

そして、仙祥とnilに、コミュニケーションの、一形態である、アイコンタクトを、指示として、合図の視線を送る。

其れの意図を、寸分(スンブン)も違わず明確に、キャッチした2人を、確認すると同時に、枝折翔は両手にある太鼓バチを、地面に叩き付ける様に、振り下ろす。





カガンッ!



バチバチバチッ!!



ドガガガガガッ!!!



ドウッ!!!!





其の瞬間、太鼓バチは、強烈な衝撃を生み、地面を抉(エグ)りながら、一直線上に居る黒猫擬きに襲い掛かる。

其の衝撃で、発生した、砕かれた敷石の石つぶてと、其の太鼓バチ特有の花火の衝撃波のダブル攻撃を、対象の黒猫擬きに、衝突させ、黒猫擬きを制し様とする。


仙祥は其の隙に、船の舵(カジ)を操作する輪状の操舵輪(ソウダリン)を真っ直ぐに構えた。

そして、ビュオッと投げ付けた。

距離はあったが、枝折翔の攻撃の速さならば、僅かに、タイムラグが発生し、“タイミングが合う”筈だ。


其の間、nilは、自分達の後ろに居る女子3人組との間に、守る為に、両手を勢い良く地面へと叩き付け、隔(ヘダ)てと成る薔薇の茨の蔦(ツタ)を出現させる。

下から上へ、真っ直ぐに、突き上げた、太くて固い蔦達は、平行に並び、壁と成り、鋭い棘同士が、隣接の蔦へと突き刺さり合い、結果、牢獄の網目状の鉄格子の様な壁と成る。


茨の壁が完成すると同時に、壁の茨から、色取り取りの薔薇達が、一斉に咲き誇り、一瞬で其の姿を散らす。

nilは、間髪入れず、枝折翔と仙祥に続く様に、両手を上げ、黒猫擬きに向かって、腕がクロスする様に、静かに、しかし、思い切り、且(カ)つ、音を立てない様に、振り下ろす。

元からnilの“能力”で、出来て居る、散った花弁達は、1枚、1枚、全てが、鋭利(エイリ)な刃達へと、性質を変え、nilの動きに同調する様に、2つの花吹雪の旋風(センプウ)へと成り、黒猫擬きに、風の音を伴(トモ)わずに、向かって行く。



3人は、黒猫擬きの、次の動きを予測して居た。

そして、約100%の確率で、確信しても、居た。


だからこそ、コラボ3連チャンの方策(ホウサク)を取った。

同時では無く、1、2と、一瞬のタイムラグが生じる2段階の攻撃に加え、更に数瞬間遅れて3つ目として、続けて放たれた、合計3段階攻撃の連携スキルが強い、連続攻撃技。



黒猫擬きは、独裁主義者だ。

恐怖政治的な行為を、好んで居る。

其れを証明し続ける為にも、恐らく、いや、絶対に、避けないだろうと…。。。



1対3。

1対1なら、断然に、向こうが上。

質より量で勝って居ても、まだまだ勝機には程遠い。

其れでも、3人で力を合わせ、見事に最大限に攻撃が発揮出来るのなら、粗(ホボ)、互角。

上記に追加して、更に、相手を出し抜く様な、裏をかく様な作戦を成功されられれば、間違い無く、此方に、軍配が上がる。



そして、其の予測は、見事、当たる事に成る。

案の定、更なる畏怖の念を与える為に、黒猫擬きは、其のフサフサした長い9本の尻尾で全身を守る様に巻き付けて、枝折翔の攻撃を完膚なきまでに防いで見せた。


だが、全身を、顔を覆って居た為、土煙の中から、先程、仙祥の投げた操舵輪と、其の後ろに続く花吹雪の2つの交差する旋風に、気付くのが、遅れた。

尻尾の防御壁を解いた時には、視界に、迫り来る輪と、無数の花弁達を見た。





(?)「(!)」





『しまった!』と、黒猫擬きは思った。

迫り来る、其の攻撃を、躱しきれない。





ガンッ!!



ザシュシュシュシュッ!





高速回転をする操舵輪が、黒猫擬きに、当たった。

続けて、花弁の刃達が、黒猫擬きの身を、切り裂いた。


枝折翔達は、土煙の見えない向こう側から、確かに、攻撃が決まったと思える、“手応(テゴタ)えのある”音を聞いた。

空かさず、仙祥は呪文を唱える。





(仙祥)「正すは運命の面舵、宜しく候(ソウロウ)『フォルトゥーナ』」





両手を前へ突き出し、空中で、舵を右の時計回りに回す様な回転させる様な動作を取る。

そして、続けて、第二の呪文を唱える。





(仙祥)「覆すは意志の取舵、宜しく候(ソウロウ)『フォルトゥーナ』」





今度は、左の、地獄回りとも呼べる反時計回りに、両手を突き出した侭、回す様に、回転させる。



黒猫擬きと、“特別”長い付き合いの仙祥だけは、黒猫擬きの正体に気づいて居た。

今の姿は、あまり、人を怖がらせない偽りの姿で、本当の、本性の姿は2種類あると…――――。



多分、1つ目の姿は、“生前”の本来の姿。

そして、もう1つは、“呪い”を受けた姿。



其の憶測が合ってるかどうか、確かめる為に、2つの呪文を唱えた。

さぁ、果たして、結果は…――――?





ポーンっ





土埃が収まり、辺りの視界がハッキリとして来た頃、仙祥の手元に、暗闇の天井を弧を描く様に、投げ出された、操舵輪が戻って来た。其れを目で追わずに、両手で、ふわりと、受け止める。

操舵輪は、未だに仙祥の手の中で、回り続けて居る。其れは能力が発動して居る証だ。しかし、仙祥の視線は、黒猫擬きが居る、前方から、外さない。其れは、他の者達も一緒だった……――――。。。



黒猫擬きの姿は、其処には、無かった。

代わりに其処に居たのは、美男(ビナン)と言っても過言では無い青年の姿が在った。



僅かに伏せられた目元と、長い睫毛(マツゲ)が、麗しい。

奥二重(オクブタエ)で、少々、吊り目気味の瞳は、涼し気に光って居て、山猫を連想させる様な印象だ。


肌は、白い方だが、かと言って、軟弱さは微塵も感じられ無い。

逆に、其の白さ故、眉や、眼鼻立ちや、口元の凛々(リリ)しさを、際立たせて居る。

だからからか、花弁の攻撃に因って出来た、切り傷を証明する、全身にある無数の緋色の線達が、尚更、痛々しく見えた。


髪は、腰まである射干玉色の黒髪で、1つに高く結い上げられて居り、女子力が高い女性から見ても、申し分ない艶(ツヤヤ)やかさだ。

結い上げられた後ろ髪より、短い上に、不揃いの横髪は、纏め切れずに、其の侭、無造作に、真っ直ぐ垂らした侭で、輪郭を、なぞる様に流れて居るのが、妙に、艶(ナマ)めかしい。



――――、此れが、黒猫擬きの、本来の姿。



そう、理解した時、其の姿が歪んだ。

そうして、見て居る目の前で、美男の青年は、姿を変えた。

薄暗い霧の中の風景に、身体を滲(ニジ)ませ、やがて、また、姿を造り、模(カタド)る。


元の黒猫擬きの姿に、戻る。

だが、其れは、ほんの一瞬の事。



操舵輪が、時計回りから、地獄回りに変わる。



こじんまりとした姿が徐々に、大きな、真っ黒な黒豹へと変化して行く。

其れでも、耳から生え出て居る藤の房と、大きく、長く、成った9本の尻尾は健在だ。

片目は、黒猫擬きの姿の時より、強く輝き、怒りと、険呑(ケンノン)の色に染まって居る。


黒豹擬きと成った、黒猫擬きは、すぐに、立ち上がり、毛を逆立てる。

そして、ドスの効いた、低い唸り声を上げながら、威嚇(イカク)をする。

…と、同時に、四肢(シシ)が、雄々(オオ)しく成った黒豹擬きが、跳んだ。


爪先が地面から離れた瞬間、黒豹擬きが仙祥へと飛び掛かり、襲い掛かった。

仙祥は避けようとするも、黒豹擬きの素早さに叶う筈も無く、其の侭、地面へと押し倒される。


其の際、武器である操舵輪を手放してしまった。

慌てて拾おうとするも、黒豹擬きが前足を素早く動かし、武器を遠くへ放り遣った。


地獄回りに回って居た操舵輪が、ピタリと、止まる。


すると、また、黒豹擬きの姿が揺らぐ。

そう、仙祥の能力の発動が止まったのだ。

能力の影響を受けない様に成った黒豹擬きは、また、黒猫擬きの姿に戻ろうとし始める。







(枝折翔・nil)「「仙祥!!」」



(仙祥)「くッあ!」





黒豹擬きに、組み敷かれた仙祥。

其れを見て、助けようと、枝折翔が、駆け出す。

nilも、仙祥の上から黒豹擬きを退(ド)かそうと、攻撃を繰り出そうとする。


だが、間に合わない。


仙祥は、何とか、身を捩(ヨジ)らせて、もがいて、足掻(アガ)いて、黒豹擬きから逃れようとするが、黒豹擬きからの重圧が強く、ビクともし無い。

そんな惨(ミジ)めな獲物を見て、次に姿が黒猫擬きに戻ろうとして居るのを感じ、黒豹擬きは、時間が無い事を悟り、ならばと、口が大きく開き、仙祥の頭を、一気に、喰い千切ろうと、牙を振り下ろした…――――。。。










And that's all
(それでおしまい…?)

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