チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 47
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黒猫より花心に鈴が絡み鳴る






枝折翔の必死な叫び声、其の声を慌てて咎める様に名を呼ぶ鋭くも戸惑いのある仙祥の声。

訳が分からず、其の場が、混乱の状態に入りそうに成った時、其の鳴き声は…、聞こえた。





(?)「にょぉーーーん」





混乱しそうだった雰囲気が、一気に冷める。


いや、凍った…。


沸騰しそうな勢いだったモノが、一気に凝固した、そんな感じだ。

突如としてシン…と、響いた静寂。静まり返った空気。しかし、其の沈黙も、すぐに終わった。


ひゅぅ…と、風が鳴く。

空気が微かに、さざめいた。


其の後に続く様に、リン、チリンリン、シャンシャンシャン、と無数の鈴の音が何処からか響き出した。

そうして、鈴の鳴り音と共に、また、あの間延(マノ)びした独特の鳴き声が、耳に届くと同時に、ソレは姿を現した。





(?)「にょぉーーーん」



(摩耶)「ドキュキューーン♡♡」





ソレは、摩耶の頭上へと、降り立った。

覚えのある重さと感触に、再び胸貫かれる摩耶。





(喧花)「何だよ、黒猫擬きか。」



(風鵺)「やれやれ、チキン警報解除☆てか、空気読め、KY cat?ちゃんめ!」





摩耶の周りに集まる喧花と風鵺。

先程の緊張感の様なモノは何処へやら…。

和気藹々(ワキアイアイ)とした雰囲気が、其処だけに生まれる。


だが、本当に“其処”だけだ。

空気が和んだのは、女子達の辺りだけ…。


しかし、其れも仮初(カリソメ)。

黒猫擬きは呑気な声をニンマリと笑った口元から出しては居たが、爛々(ランラン)と輝く片目は、笑って居なかった。


笑って居らず、ジィ……と、男子達の方を見遣って居た。

男子達は、其の冷たく無機質で、突き刺す様な視線に、一斉(イッセイ)に身を引く。


双眸(ソウボウ)が、頬が、身体が、瞬時に強張(コワバ)った。

背筋には、じわり、じわりと、冷や汗が滲(ニジ)んで来る。

其処から、金縛りに遭った様に、身動(ミジロ)ぎ1つ、出来ないで居る。


其れに、比べたら、黒猫擬きの視線は、対照的な位、全く、揺るが無い。

鋭利(エイリ)な刃の様な光が、大きな片目の奥で、チラチラと、閃(ヒラメ)いて居る。


男子3人が、其の切っ先を向けられた“意図”に、否が応でも、瞬時に気付く。

其の眼差(マナザ)しは、己の支配から、逃げ出そうとする自分達を、牽制(ケンセイ)して居るのだと…。



そう、まるで……、





『裏切りは許さない。』






とでも言う様に……――――。。。



其の訴えに、思わず、ゴクリと、生唾(ナマツバ)を飲んだが、其れでも、畏怖の感情は、払拭(フッショク)されなかった。





(枝折翔)「――――ッ!」





だが、其れに気圧されながらも、自身の、そんな変化に戸惑いながらも、枝折翔の唇が、空回りを、する。

何かを、伝えようと、紡(ツム)ぎだそうとして…。でも、其の声は、結局、畏怖の感情に呑まれ、喉で、萎(ナ)えてしまった。


其れでも…と、枝折翔は頭の片隅で思う。

自分のすべき事は、遣りたい事は、あの笑顔を見て、あの言葉を言って貰った瞬間から…決まった。決まってしまった。





(枝折翔)「(そうで、在(ア)りたい!!!)」





自分の“花”に、相応しく在りたい。

其の為には、今の侭では駄目なのだ。



だから……――――、



枝折翔は、震えながらも何とか拳を握り締める。

皮膚が裂け、爪も割れそうな程に、強く、固く、握り締める。


奥歯にも、力が籠り、ギシリッと軋(キシ)む音がした。

金縛りの呪縛を、解かす様に、全身が、強く震えた。


其れは、先程の畏怖に因るモノでは無い。

全く、異なる衝動…いや、戦慄(センリツ)だ。


枝折翔の拳の間から、口端から、タラリ…と、血が滴(シタタ)った。

其の鮮血が、地に着く前に、枝折翔は、敷石(シキイシ)を蹴って居た。

蹴って、駆け出して居た。いや、駆けると言うより、跳んだと、表現する方が正しいか…。


ほんの1、2歩で、喧花と風鵺の間を掻(カ)い潜(クグ)り、摩耶と黒猫擬きとの間合いを詰め、枝折翔は黒猫擬きに向かって血滴る拳を突き出した。

其処には、先程までと違い、一瞬の躊躇(チュウチョ)も、迷いも無かった。





(?)「!」





黒猫擬きが、其れに気付き、拳が当たる瞬間、其れを避ける為、ヒラリ…と、摩耶の頭上から飛び上がった。

そうして、次に着地したのは、摩耶の後ろにあった、『菓子宮 摩耶』と書かれた墓石の上だった。

スタッと、飛び移った黒猫擬きは、クルリと枝折翔の方を向き、威嚇をする様に、低く、唸り声を上げる。


そんな黒猫擬きに対して、枝折翔は、前に居た摩耶を喧花と風鵺同様、自分の後ろへと隠す様に、守る様に、押し遣る。

そして、黒猫擬きに向かって、自分自身に対して、宣言する。





(枝折翔)「俺は…降りるぞ。俺は…こいつ等に、消えて欲しく無いからな。」





先程とは違い、今度は、激しく燃え上がる、情熱の炎の熱さを灯(トモ)した、ハッキリとした感情的な声で、そう答えた。

冷酷な凶器の刃をも、溶かしてしまう程に燃え盛った熱情的な反抗態度を示した枝折翔に対して、黒猫擬きが、更に眼光を強め、再度、低く唸る。


しかし、再(フタタ)び、黒猫擬きが、枝折翔を抑圧しようと、唸った瞬間、細い風切音(カゼキリオン)が、ヒュッ、と聞こえた。

聞こえたと同時に、また、黒猫擬きが、隣の『天囃子 風鵺』と彫られた墓石の上へと瞬時に飛び乗って、移動した。

黒猫擬きが、またもや視線を動かすと、其処には黒薔薇を構えたnilの姿。





(nil)「ったく、1人で突っ走ってんじゃねぇよ。」





nilの死んだ様な瞳には、感情の欠片(カケラ)等、全く見えないし、読めない。

だが、違う。声は何時も通り、無気力さを感じさせながらも、呆れ返って居る感じだ。

雰囲気も、何時も通り、気怠(ケダル)げだが、先程の黒猫擬きへの攻撃は、枝折翔の覚悟に賛同して居る様子が、確かな形で、伺(ウカガ)える。





(仙祥)「……本当、枝折翔もnilも、勝手だよねぇ〜。」





表情は、和顔愛語(ワガンアイゴ)。

穏やかで笑って居る顔付きと、優しい柔らかな声音(コワネ)だったが、雰囲気は寒冷化し、氷期(ヒョウキ)が訪れた様な気を発して居る。


自分勝手で、身勝手で、まるで日和見主義者の様な、豹変振りをした共犯者2人に対して、確実に、御怒りである様子が分かる。

しかし、幾ら寝返ったと言えど、彼等は、イソップ寓話の1つである≪鳥と獣と蝙蝠(コウモリ)≫とも呼ばれ、其の物語に登場する『卑怯な蝙蝠』とは違う。

そんな事は、分かり切って居る仙祥が、何故、静かに、激しく怒って居るのかと言うと、何の相談も無く、自分の意見を取り入れる所か、聞きもせずに、強制的に自分も離脱せざるを得ない状況に巻き込んだ事が原因である。


しかし、そんな仙祥を見て、2人はと言うと…、ニヤリと、悪(アク)どい笑みを浮かべた。

其れを見て、諦めた様に、観念したかの様に、溜息を吐き、同時に仙祥は、滔々(トウトウ)、覚悟を決める。



後戻りは、もぅ、出来ないのだと…。



しかし、不思議と、今は、霧が晴れた様に、スッキリとして居る。

結局の所、自分も、2人同様、後に戻る気は全く無いのだと、女子3人組を順番に見て行って、心の中で、認める。


普段は、気が合わない事ばっかりが多い男子3人組だが、今の気持ちは、一緒だった。

3人で目を交互に合わせ、其のアイコンタクトで、『異性は“×”だが、こいつ等は“別格”だ!』と言う、死なせるには、消滅させるのには、惜しい存在だと事実を、確認し合って、確信を持った。


そうして、男子3人組が、戦闘態勢に入る。

黒猫擬きも、其れに対して、応戦する様に、構える。



女子3人組はと言うと…置いてけぼりを、喰らって居る。

其れはそうだ。何が起こって居るかなんて、女子達には分かりっこ無い。

だから、只々、理解出来ない成り行きを、呆然と惚(ホウ)け、流れに身を任せるしか出来なかった。



が、ふと、摩耶が我に返った。





(摩耶)「ど、動物虐待ぃいいいっ!!」





そうして、口から飛び出た、第一声。

思わず、其の第一声の台詞に、ブフッと、吹き出す男子3人組。


だが、御蔭様で、畏怖の感情が、完全に吹っ飛び、良い意味で、余計な力が抜けた。

同時に、其れを合図に、男子3人組は、黒猫擬きに立ち向かって、駆け出して居た。










And that's all
(それでおしまい…?)

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