チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 45
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立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花






(喧花)「ぃてッ!」





頭に鈍い衝撃を受ける。





(喧花)「何だ?」





と、喧花は反射的に起き上がった。

そして、辺りを見回して、喧花は、呆然とする。

出口の無い密室の大部屋の、大部分を占めて居るのは沢山の御墓。





(喧花)「……墓場?」





そんな呟きを追い掛ける様にして、ヒュオッと、冷たく、濁って居る空気の風が押し寄せ、腐臭が、鼻腔(ビコウ)を付いた。





(摩耶)「の鬼太郎。」



(風鵺)「ハイハーイ!墓場の鬼太郎、改め、ゲゲゲの鬼太郎☆」



(喧花)「いや、別の二次元ネタ発言を、求めた訳じゃねぇしっ。つーか2人共、無事だったんだな、良かったぜ!」





喧花の呟きを拾ったのは、親しい2人の声だった。

其れに安堵しつつ、上半身だけ起き上がって居る自分を見下げて来る風鵺と、1つの墓の前に座り込んで居る摩耶の姿を確認する。


そして、2人をじっくりと眺め、何処も怪我して無い事を確認してから、自分の体を見て、怪我も異変も無い事も確認する。

自分よりも、2人を優先する当たり、紳士か、将又(ハタマタ)、フェミニストか…或(アル)いは、只の馬鹿か、其れとも、日本人特有の自己犠牲的な精神力か…。





(風鵺)「あっ!つーか喧花たん、めんごめんご。散歩がてら歩いてたら、蹴っちゃった♡」



(喧花)「は?散歩?」





如何にも、『何らかの心霊現象が起こっても奇怪(オカ)しくない様な雰囲気が漂って居ます。』とでも言う様な、ヤバイ危険さを孕んだ此処を、何とも陽気に闊歩する風鵺の姿が目に浮かぶ。…ミスマッチにも程がある。

しかし、其の危険性に眉を顰めるも、風鵺の底知れない能天気なポジティブシンキングな思考回路と、頭脳明晰な頭と、何より持ち前の逃げ足なら、大丈夫か?と、根拠の無い考えに達し、御咎(オトガ)めは無しとする喧花。


基本、風鵺は、死んだモノに興味は無い。

だから、此の恐ろしくも虚無な墓場には興味が無く、暇潰しがてら、ウロチョロと歩いて居たのだろう。

そして、其の過程で、喧花の頭を、偶々(タマタマ)、蹴飛ばしてしまったのか…此れには先程同様とは行かず、許容出来ず、立ち上がって、ボカッと、風鵺の頭をグーで殴る。


『痛い!痛い!』を大袈裟なまでに連呼し、敷石道の上にゴロゴロと転がる風鵺。

『フンッ!』と鼻を鳴らし、仕返しに成功し、清々したと踏ん反り返り、今度は喧花が、風鵺を見下ろす。


そんなこんなで、風鵺との遣り取りは、一件落着。

次に喧花は、さてと、と、辺りを見回すと、自分と風鵺と摩耶以外にも、人が居る事に気が付いた。

此処…訳の分からん、不気味で、不吉な墓場に、自分等を連れて来た、枝折翔と仙祥とnilの、男子3人組だ。





(喧花)「何が如何(ドウ)成ってるんだ??」





男子達は沈黙を守って居る。

代わりに其の問いに答える様に、またヒヤッとした澱(ヨド)んだ空気が押し寄せて来る。

混乱して、クエスチョンマークを頭上に沢山、浮かべる喧花に、追い打ちを駆ける様に、摩耶が独り言を呟く。





(摩耶)「私達の、御墓。」



(喧花)「は!?」





摩耶の方へと視線を動かす、摩耶の後ろの立派な墓には、確かに『菓子宮 摩耶』と彫られて居る。

其の隣へと視線をちょっと、ずらすと、『鬼姫 喧花』と『天囃子 風鵺』の名前の彫られた墓も、あった。





(喧花)「……は?!悪趣味な悪戯にも程があるぜ!」





自分の名前が彫られた墓に近付き、摩耶に習って、腰を屈め、墓を、まじまじと見つめる。

そして、不慣れた手付きで、墓を弄繰(イジク)り回す。


其の光景は、正(マサ)しく、初心者の墓荒らしと呼ぶに相応しい。

そうして、台座の前部分を外した喧花は、思わず、『ひぃッ』と短い悲鳴を洩らした。



何があったのか?



其れは、台座の前部分を外して、カロート(御墓の納骨スペースの事)の部分を覗き込めば、答えは出た。

沢山の真っ白な骨達の積まれた残骸の1番、天辺(テッペン)に乗っかった、肉が落ちて白骨になった頭蓋骨(ズガイコツ)…髑髏(サレコウベ)が鎮座して居た。


珍しく女らしい悲鳴を上げてしまった喧花。

しかし、そんな失態(?)にも目もくれず、ガクブルと震えて、口を陸に上がった魚の如くパクパクとさせる。


そして、青褪(アオザ)めた顔で摩耶を見遣る。

摩耶は、静かに、コクリと頷き、肯定を示す。

続いて、殴られた痛みから解放され、復活した風鵺と目を合わせると、予想だにしない、ビックリ仰天する返事が返って来た。





(風鵺)「勿論、ウチと摩耶たんの所にも入ってるさ。其処で、喧花たんがSleepingしてる間に2人で骨を取り出して、元通りに、並べてみたんだけど…」





『喧花たんが寝てる間、暇だったから、摩耶たんとパズルをしてたんだけど…』とでも、言う様な、軽快な口調に少々、たじろぎながらも、続きを促(ウナガ)す。





(喧花)「…あぁ。」





そんな喧花とは、違い、変に度胸の有る風鵺は、淡々と其の先の話を続ける。





(風鵺)「大腿骨(ダイタイコツ)や骨盤の大きさや形とかを確認するとね、まるっきし、完膚無き迄に、ウチ等と同じなんだよね〜。」



(喧花)「……………はぁ!!??」





風鵺の台詞に、摩耶もまた、肯定の意を無機質に頷(ウナズ)き、示す。





(風鵺)「詳しくは、DNA鑑定とかしてみないと分かんないけど…恐らく、ウチ等の“生前”の骨だと思うYO?憶測だけどね。」



(喧花)「いやいやいやいやいや、じゃぁ、今の俺達は何だよ?全身の骨を取った蛸(タコ)状態って訳でもねぇじゃねぇか!」



(風鵺)「蛸状態って、ウケるww」



(喧花)「いや、ウケてる場合じゃねぇよッ。じゃぁ、今、俺達を支えて居るのは…姿を保ててるのは何なんだ!?骨は?筋肉は?器官は?組織は?細胞は?」



(風鵺)「もぅ、喧花たんの、お・馬・鹿・さ・ん!忘れちゃったの?」



(摩耶)「【自殺】と【ツノゴ】と【相生(アイオイ)】」



(風鵺)「そして、【偽葬界】にて、誕生する【偽葬師】」





混乱する喧花。

其れに構わず、2人は近頃、与えられた知識の名称を、言葉を吐いて行く。

摩耶が無機質に名称を並べて行き、そして、確信めいた様に、風鵺が締め括(クク)る。

つまり、今、彼女達を構成して居るのは、自身の魂魄と、偽葬界に彷徨って居ると言うツノゴが相生で繋がれた状態…死人の真似事に等しい偽葬師と言う存在に成る。





(喧花)「……あっ!そう言や、もぅ俺等、偽葬師にカテゴリーされてるんだったぜ。ウッカリしてたぜ。」





2人の説明に納得し、そして思い出した様に、合点が行った様に、片手をグーにして、もう片方の手の平にポン!と叩く喧花。





(仙祥)「状況確認は済んだ?」



(枝折翔)「今度は、俺が襲わせて貰うぜ。」



(nil)「ま、端(ハナ)っから文句は受付ねぇけどな。」





そんな事の次第を見守って居た男子3人が、口を次々に開き、言葉を発し終えると同時に、動いた。


寝起きの鈍い頭で、状況確認で、忙しかった喧花。

フラフラと、身体を揺らして、突っ立ってた風鵺。

自分の、御墓を、見つめるのに、一意専心な摩耶。

女子3人組は警戒心が無い、無防備な状態だった。


其処の隙に、男子3人組は、付け入った。

枝折翔は喧花を、仙祥は風鵺を、nilは摩耶を取り押さえ、上着を捲り上げ、露わに成った下腹部に一瞬のキスをする。





(喧花)「な゙!!??」


(風鵺)「Wow!?」


(摩耶)「んっ!」





文句を言おうと、あわよくば、殴るか蹴りを打ち噛まそうとしたが、其れよりも早く、其々の下腹部に、キスをされた所から花が1輪、咲いた。


其れにより、怒りより、驚きの方が勝った。

目から鱗が落ちると思う程、目を見開き、顎が外れるかと思う程、口を大きく開けては、驚愕した。



喧花の下腹部からは、芍薬の花が、咲き誇った。

風鵺の下腹部からは、百合の花が、咲き誇った。

摩耶の下腹部からは、牡丹の花が、咲き誇った。










And that's all
(それでおしまい…?)

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