チキンはぁと何本勝負?
□チキンはぁと何本勝負? 44
1ページ/1ページ
ほんの少しばかりの勇気よりも心の準備を…!
喧花は枝折翔に手を引かれ、風鵺は仙祥に手を引かれ、摩耶はnilに手を引かれ、不思議な廊下を歩いて居た。
其処等には、万有引力の法則を無視してフワフワと無重力に浮かぶ、無数のテンポドロップ。
テンポドロップとは、19世紀に西洋の航海士等に天候予測器として使用されて居た天気管(ストームグラス)から発展したインテリアオブジェの事だ。
雫(シズク)型の硝子(ガラス)の中に、複数の化学薬品をアルコールに溶かして硝子管に詰めた物。
溶液や沈殿の状態に因って、近未来の天気が分かる、とされるストームグラス。
(枝折翔・仙祥・nil)「「「気に成る/か?」」」
素直に頷く女子3人に、男子達はテンポドロップを取って行く。
すると、テンポドロップに変化が現れた。
枝折翔が手にしたテンポドロップの中身の液体は、縦に、真っ二つに現象が割れた。左半分は完全に透明に澄み切り、右半分は、結晶が高い位置まで積もり、液体は白濁した状態に成った。
仙祥が手にしたテンポドロップの中身の液体は、シダの葉っぱの様な、羽根の様な形の結晶が容器一杯に埋め尽くされた状態に成った。
nilが手にしたテンポドロップの中身の液体は、チラチラと浮遊する結晶は、まるで金平糖の様に、ゆっくりと降り積もって行く状態に成った。
感嘆の声を上げる女子3人に、其々、手渡しで、テンポドロップを渡す男子達。
喧花が手にしたテンポドロップの中身の液体は、中の固形物が沈み、液体が透明に澄み切った状態に成った。
風鵺がテンポドロップに触れた瞬間、其れは勢い良く割れた。いや、シャボン玉が弾け飛ぶ様に、パァン!と、砕けてしまい、只のガラクタと化した。
摩耶が手にしたテンポドロップの中身の液体は、nilの時と同様に、チラチラと浮遊する結晶は、まるで金平糖の様に、ゆっくりと降り積もって行く状態に成った。
其々のテンポドロップの反応に驚きながらも、足を止める事無く、出口とは正反対の、奥へ奥へと進んで行く。
そうして全員が、辿り着いたのは、1つの古い井戸の前。
(喧花)「風鵺!摩耶!会いたかったぜっ!!」
(風鵺・摩耶)「「いや、別に。」」
(喧花)「がーんっ!ダブルショック!!!」
風鵺と摩耶に、抱き付こうとすると、枝折翔に首に片腕を回され、止められる。
風鵺は仙祥から、魔の手(喧花w)から守る様に、仙祥の背後に素早く隠される。
nilもnilで、空いて居る片腕で、摩耶の体を易々と、自分の方へと抱き寄せる。
(喧花)「おい、俺の両手の華に、手ェ出してんじゃねぇぞッ!」
今にも枝折翔を振り払い、仙祥とnilをブッ飛ばしに行きそうな剣幕だ。
(枝折翔)「落ち着けって!」
其れでも、『2人に、くっ付き過ぎだ!!』と、暴れる喧花に、枝折翔が、裸絞(ハダカジメ)の技で有る、腕を相手の首に巻きつけるチョーク・スリーパー・ホールドを掛けながら言う。
(nil)「おいおい、戯(ジャ)れ合って無いで、次に行こうぜ。」
(喧花・枝折翔)「「戯れ合ってねぇ!!」」
『牽制して居るだけだ』、『離れようとして居るだけだ』と異議を唱える2人を無視する。
そして、nilは摩耶を抱き寄せた侭、井戸の縁に手を掛け、四角い口の中を覗(ノゾ)き込む。
(摩耶)「あーーーーーーーっ!」
甲高い声がワンワンと反響しながら暗闇へと吸い込まれる。
しかし、山彦(ヤマビコ)の様に無機質で、のんびりとした声は返って来なかった。
(nil)「何やってんだ、ボケ」
呆れた様子で溜息を付きながら摩耶を見やる。
そんなnilに、『ぇ?やってみたくならない?』と、天然ボケを発揮する摩耶へ、『ねぇよ』と否定の返事を返すnil。
(風鵺)「も、もしや……付かぬ事を伺いますが、仙祥さん?」
(仙祥)「何だい?セニョリータ。」
何かを悟った様に、顔を少し強張らせ、妙に畏まった言い草で、仙祥に尋ねる。
そんな風鵺の様子を見て、風鵺の心情を察したのか、ワザとらしく、戯(オド)けた口調で答える仙祥。
(風鵺)「まさか、此処から飛び降りるって事は…」
(仙祥)「That's right♡」(訳:其の通り♡)
(風鵺)「Oh no please!!」(訳:勘弁してよ!!)
風鵺が、もぅ散々だと言う声色で叫ぶも、仙祥は爽やかに、スルーする。
風鵺を横抱き(お姫様抱っこ)にし、仙祥は風鵺に構うこと無く、縁に足を掛けた。
そして、無造作にポイッと、飛び降りた…。
(風鵺)「ああぁああっ、不思議の国のアリスゥウウッ!!」
落下して行く、乾いた音は、風鵺の悲鳴に掻き消され、井戸の中へと、吸い込まれて行く。
だが、風鵺の悲鳴が聞こえなくなっても、底へ辿り着いた音は、何時までも返らなかった。
そう、グシャリとも、ドッボーンとも、2人が着地した音は、ウンともスンとも言わない。
何の音も無い。
只々、無音ばかりがある。
(喧花)「おい、まさか俺達も?」
口元をヒクヒクと引き攣らせながら、枝折翔に尋ねる。
そんな喧花に、ニヤリと性悪に唇を三日月形に歪めて答える。
(枝折翔)「Of Course.」(訳:もちろん。)
ギャーギャーと騒ぎ、手と手、足と足が、喧嘩腰に突っかかって、もつれ合う。
落とそうとする枝折翔と、落ちまいとする喧花。傍(ハタ)から見れば昼ドラの殺人現場での揉み合いに見える。
(摩耶)「南無八幡大菩薩、わが国の神明、日光権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、願はくはあの扇のまん中射させて賜ばせたまへ。此れを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に再び面を向かふべからず。今1度本国へ迎へんとおぼし召さば、此の矢はづさせたまふな。」
(nil)「普通にOh, My Gad.って言えよ。」(訳:なんてこった!)
摩耶が、かなりマイナーな知識を絞り出し、震える小声で、かなりマジで神様(主なる神)に、祈りを捧げて願いを請う時に使用する呪文らしき物を唱えると、其処にnilの冷静なツッコミが入る。
(摩耶)「…おーまいがー。」
(nil)「ククッ、酷ぇ発音。」
抵抗されると面倒だとnilは思い、素早く摩耶を俵担ぎにする。
(摩耶)「ひっ……。」
(nil)「枝折翔、先、行ってるぜ。」
(枝折翔)「おぅ!」
(喧花)「離せ!摩耶ッ!!」
短く悲鳴を上げる摩耶。
そんな摩耶に御構い無く井戸の縁に足を掛けるnil。
頬をガリガリッと引っ掻かれながらも返事をnilに返す枝折翔。
枝折翔の無駄に大きい体格に阻まれながらも、摩耶へと手を伸ばす喧花。
(摩耶)「喧花…本当になった。おむすびころりん。」
(喧花)「ボケ言ってる場合かぁああアアアAAA!!!!」
案外余裕?と摩耶を見やるが、其の顔は既に蒼白だった。
其れを喧花が視認すると同時に、摩耶とnilは、ひょいっと、井戸の中へと姿を消した。
(枝折翔)「おらっよと!」
(喧花)「ぅおっ!?」
摩耶へのツッコミが、仇(アダ)となった。
つまり、枝折翔に対して隙を作ってしまったのだ。
脇(ワキ)にしっかりと抱えられ、即座に井戸まで運ばれて行く。
(喧花)「おいおいおい、マジ、巫山戯(フザケ)るな!降ろせ!!」
(枝折翔)「だが断る。」
(喧花)「ゴルァ!!」
何とか気合いで、枝折翔の脇から、脱出し再び、もつれ合うも、前からは枝折翔の重圧、後ろに寄り掛かるは井戸の縁。
…落ちるのも時間の問題だ。
(枝折翔)「もぅ、俺に勝てねぇよ!」
(喧花)「ほざけ!!」
猛々(タケダケ)しく吠える様に言い放つも、最早、落ちるのは時間の問題だ。
数十分の格闘の末、押し負けた喧花がバランスを崩し、後ろ向きに井戸へと吸い込まれる様に落ちて行く。
透かさず、間を置かずに直(ス)ぐ様、枝折翔も落ちて来る。
其の枝折翔に、きつく抱き締められる。普段なら突っ撥(パ)ねて、『男に抱き締められる趣味はねぇ!』と怒鳴る所だが、其れ処では無い。
(喧花)「結局、落ちるのかよぉおおおオオオオオオッッツ!!!」
其の言葉を最後に、井戸の周りに、元の静寂が訪れる。
だが、其れも束の間、6人を呑み込んだ井戸から、ボコリ、コポリと炭酸水が湧き出て来て、じわじわと溢れ、滴る頃には鮮やかな緋色へと染まる。
まるで、血が凝固(ギョウコ)する様に、緋色の水は、褐色色(カッショクイロ)へと変化し、上へ上へ浸食し、最後には井戸の中までも浸食が達し、固めてしまった。
其の様は、土饅頭、土を丸く盛り上げた粗末な墓にも見えた。其の不気味で不思議な光景を見つめて居たのは、薄暗い暗闇だけ。最後に、ざわり、と闇が揺れた…。
And that's all…?
(それでおしまい…?)