チキンはぁと何本勝負?
□チキンはぁと何本勝負? 40
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(枝折翔)「僕は、無力だ。」
(喧花)「は?」
(枝折翔)「救う処か、守れもしない。」
(喧花)「で?」
(枝折翔)「どうしたら、良い?」
其の弱気な発言の後に、枝折翔には、由々(ユユ)しき事態が待ち受けて居た。
バキッ
懸命に負の感情を言の葉に乗せ、言い募(ツノ)っては動く幼い頬を、喧花は豪快に撲(ブ)つ。
まるで、『餓鬼だとて容赦無しだ!』と言う様に、喧花の拳が幼き枝折翔の頬に、のめり込んだのだ!
だがしかし、もし此処が偽葬界では無かったら、傍から見ても、何処から見ても、児童虐待として、訴えられて居ただろう。
(喧花)「そんくれぇ、自分で考えて決めろよ。大体なぁ、救うとか守るとかは簡単な事じゃねぇんだよッ。糞野郎!」
一瞬、喧花の脳裏に、過去の苦労した記憶の残影が走り去り、不快そうに目を細め、顔を顰(シカ)める。
しかし、直ぐに、其れを振り払う様に、一層、きつく、眉根を寄せ、妙に熱の入った声音で、威圧的に吠える姿は、珍しく、真剣だった。
(枝折翔)「…痛い。」
(喧花)「そりゃそうだ。痛くなる様、殴ったからな。」
(枝折翔)「ふぇ……」
(喧花)「!!?」
枝折翔の表情が、悲し気に歪む。
喧花が、細く息を呑み、頬を強張(コワバ)らせる。
そして、涕涙(テイルイ)。
涙腺(ルイセン)の崩壊だ。
涙腺が壊れたかの様に涙が止まらなくなった枝折翔に、あたふたと慌てる喧花。
先程までの叱咤(シッタ)する態度は、すっかり鳴りを潜め、枝折翔を泣きやまそうと躍起(ヤッキ)になった。
―――― ★ ――――
(仙祥)「どれだけ此の身を穢(ケガ)しても、まだ死ねないのに…」
(風鵺)「死ななきゃ良いじゃん。」
(仙祥)「なのにどうして死人みたいに冷たい。体が言う事を利(キ)かない。。。」
(風鵺)「其れ、石化してたからじゃね?今は、ほら、大丈夫っしょ?ちゃんと体温感じるっしょ?」
空いて居る両手の内、片手を仙祥に差し出した。
一瞬、仙祥は、不思議そうな、そんな表情をする。
けれど、直ぐに必死に、ギギギッと、ぎこちなくも、懸命に動かないと言った片手を動かして風鵺の其の手に自分の片手を重ねた。
手を繋ぎ合った。
繋いだ手は、冷たさなんて微塵(ミジン)も無く、只々、柔らかく、温かかった。
(仙祥)「……温かい。」
(風鵺)「ね?体温感じ取れるなら、生きてる証拠っしょ?」
返事の代わりに仙祥は、繋いだ指先に、ほんの少しだけ、力を込めた。
―――― ★ ――――
(nil)「俺は、ずっと劣ってる。弱い。なのにアイツは、天から二物も三物も与えられやがった。」
俯(ウツム)きながら、と独りごちる。
更に項垂(ウナダ)れると、散切(ザンギ)りの髪がサラッと前へ流れて来て、幼さを残す輪郭(リンカク)を僅(ワズ)かに隠した。
(摩耶)「?」
(nil)「俺は、必要の無い人間だ。どうして、俺は…――――。」
愚痴(グチ)にも等しい感情の吐露(トロ)。
きつく歯噛(ハガ)みをして居るせいか、口の中で血の味が広がる。
明らかに口の中を切って居る。其れでも力は抜けない。顔を、上げられない。
(摩耶)「寂しい?…私も、時々、寂しい。」
不意に、nilの目の前が暗闇色の床から切り替わる。
其れが、彼女の服の色だと気付くのには、少々、掛かった。
彼の頭は、彼女の2本の腕に因り、すっぽりと抱き込まれて居た。
(nil)「寂しい?……違う。」
『俺は、怖かった。』そう畏怖(イフ)の念を込めて反論しようとしたら、きつく抱きしめられた。
そして、刹那に抱きしめられて、直ぐに腕と身体が離れた。
思わず、顔を上げる。
まず、目にしたのは、寂し気な色を宿した瞳。
其の双眸を目にした途端、何も言えなくなった。
其れを見て、大きく目を剥(ム)いて居たのを止(ヤ)める。
気付けば、歯噛みも身体の強張(コワバ)りも、驚きに因り、解(ホド)けて居た。
And that's all…?
(それでおしまい…?)