―― 鬼姫 喧花の場合 ――
黒猫擬きに言われた通り、荘厳たる大部屋に辿り着くと、中央の真ん中の辺りに石碑が建って居た。
横に並んで見ると、頭1つ分位、高かった。
けれど、何か、何処かしら、覚えの有る高さだ。
彼女は其処ら辺に転がる男子達よりも背が高いと自負して居る。
そんな彼女の背を易々(ヤスヤス)と超す者が居ただろうか?と、彼女は、ふと首を捻った。
(喧花)「(……あ!十 枝折翔ってー奴と同じ高さだ!)」
よっと、石碑の横から前に移動して、よくよくと、見つめる。
荒々しく削られた石碑…其れが、顔も体格も姿も十 枝折翔に似て居る様に視えて来た。
黒猫擬きは確かに『口付けろ』と言った。
もぅ、どう反応して良いのか分からない。
喧花は頭を抱え込み、ウンウンと唸(ウナ)り出した。
―――― ★ ――――
―― 天囃子 風鵺の場合 ――
黒猫擬きに言われた通り、荘厳たる大部屋に辿り着くと、中央の真ん中の辺りに石碑が建って居た。
横に並んで見ると、頭半分位、高かった。
よっと、石碑の横から前に移動して、よくよくと、見つめる。
荒々しく削られた石碑…其れが、顔も体格も姿も壱番合戦 仙祥に似て居る様に視えて来た。
黒猫擬きは確かに『口付けろ』と言った。
其処で、聞いておくべき事に気が付いた。
(風鵺)「(……何処にキスすれば良いんだろう?)」
手の上なら尊敬のキス
額の上なら友情のキス
頬の上なら満足感のキス
唇の上なら愛情のキス
閉じた目の上なら憧憬のキス
掌の上なら懇願のキス
腕と首なら欲望のキス
さて其の他は、みな狂気の沙汰
此の元ネタは、劇作家フランツ・グリルパルツァーの“接吻”の台詞だ。
其れが、風鵺の頭を駆け巡った。
(風鵺)「(正解は、どぉれ??)」
―――― ★ ――――
―― 菓子宮 摩耶の場合 ――
黒猫擬きに言われた通り、荘厳たる大部屋に辿り着くと、中央の真ん中の辺りに石碑が建って居た。
横に並んで見ると、粗(ホボ)同じ位の高さだった。
石碑の横から前に移動して、よくよくと、見つめる。
荒々しく削られた石碑…其れが、顔も体格も姿も幻夜庵 nilに似て居る様に視えて来た。
黒猫擬きは確かに『口付けろ』と言った。
彼女は大きく息を吸い、深く吐き出す深呼吸を1回した。
(摩耶)「(大丈夫。ファーストキスは黒猫擬きさんに捧げて来たもの!)」
―――― ★ ――――
喧花が諦(アキラ)めて、観念して、状況を受け入れ、覚悟するまで、後30分。
風鵺が菊の花を1輪、手に取って、花占いで口付けする場所を決めるまで、後30分。
摩耶が、『でもやっぱり、ファーストキスに上書きしたくない。』と悶々(モンモン)と悩み終えるまで、後30分。
乙女の口付けは安く無いのよ!
And that's all…?
(それでおしまい…?)