チキンはぁと何本勝負?

□チキンはぁと何本勝負? 27
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≪リリン≫


力強く、全てを断ち切る様な凛とした鈴が、鳴る。






彼女は其の両手に、物騒な物を2つも、持って居る。其れは得物。小型の拳銃、2丁。



彼女は、スタスタと早歩きで歩いて行く。

襲い掛かって来る大勢の≪幽霊≫に怯(ヒル)みもせず、其の攻撃を物ともせず、手慣れた手つきで両手に持って居る小銃の引き金を引いて、次々と弾丸をぶっ放して行く。

一見、滅茶苦茶に撃って居る様に見えるが、其の放たれた弾は、遠かれ近かれ、標的の幽霊達へと全て命中する。


ガウンッガウンッと、鈍く大きな銃声が辺りの空気を震わせる。

そして其の銃声音と共に、何処からか鈴の音が鳴った。≪リリン、リン≫と、激しく鳴って、空間を彩り染めて行く…―――。





地に黒い血を流しながら、幽霊達が這い蹲る様に横たわる中、ただ1人、鈴が鳴る其の中を、彼女は歩いて行く。

暫く歩いた後、彼女は歩く事を止める。すると、其れに合わせるかの様に、鈴の音が、空気を震わせるのを止めた。


そして、≪リリン……≫と、最後の鈴の音の余韻が完全に消える。

一瞬の、静寂。そして…



バッ



素早く両手を左右横に向ける。





ガサッガサッ





其れと粗(ホボ)同時に、銃を向けた物陰から突然、黒い2つの影が飛び出して来た。

其の影に、何の躊躇(タメラ)いも無く、引き金を引く。





ガウンッ!ガウンッ!





だが、其の2つの影に、弾は当たらなかった。彼女が狙いを見誤り、外してしまったからと言う訳ではない。弾が当たるよりも速く、2つの影が避けたからだ。

彼女の視界の左右横の端から、一瞬の内に消えた其の影の姿は、彼女の前後…彼女が進まんとする道の前と、彼女が進んで来た後ろの道の、彼女から、やや離れた距離の所に在った。





(太郎神(仮))「おーおー、いきなりかよ。」



(枝折翔)「…俺達の気配に即座に気付くと同時に攻撃。大した勘の鋭さと反射神経だな。」





彼女の前後に立った影の正体である者達は、前方に1人、後方に1人、計2人居た。


肩から首を動かして、自分を間に挟んで居る其の姿を交互に確認すると、彼女は口の端を緩く吊り上げる。





(喧花)「あ?こんぐれーで怖気(オジケ)付いたのかよ。この、鬼姫 喧花様を前にしてよぉ?」



(太郎神(仮))「ハッ、んな訳ねーだろ!」



(喧花)「フンッ、なら良かったぜ。此処まで来て、怖気付かれちゃぁ、折角乗ってやった宴も、見窄(ミスボ)らしく興醒めしちまぁ」



(太郎神(仮))「宴だぁ?ハンッ、テメーの葬式の間違いじゃねェのかよ!」



(喧花)「クツクツッ…ほざき事は良いから、とっとと名乗れよ。俺は言葉でゴチャゴチャと殺(ヤ)る気はねェんだよ。」



(太郎神(仮))「2度も同じ事を言わすな。『罰当たり共に名乗る名等、持ち合わせてない』」



(茶摘)「フンッ、無作法な奴だ。そっちの奴はどうなんだ?」





太郎神(仮)から視線を外し、もぅ1人へと視線を移す。





(枝折翔)「…もぅ、名乗ったろ。」





喧花を見ない様、斜め下に顔を下げる様に項垂れて居る。

表情も口調も、覇気が無い。其れ所か、苦虫を噛み潰した様に苦々しい物言いだ。





(喧花)「分かってねぇなぁ。仕切り直しってヤツだよ。テメェが“そっち側”だったって事を含めて、な?」



(枝折翔)「――――ッ。」





ギリィ。





息苦しそうに息を一瞬止め、強く歯噛(ハガ)みをすると同時に明らかに動揺が走った様に枝折翔の肩が大きく揺れた。





(太郎神(仮))「まぁ、こいつを責めてやるなよ。こいつ等にも事情ってぇモンがあるのさ。問題児のお前等と違って異端児としての…な?」



(喧花)「へぇ、そうかい。」



(太郎神(仮))「…自棄(ヤケ)に冷静だな?」



(喧花)「そりゃな。花束所か最後の両手に花まで奪われちゃぁな。腸(ハラワタ)煮え返り過ぎちまって、逆にド頭は冷えまくりだ。」





発する言葉が何時も以上に支離滅裂だ。だが、其れは喧花に取っては至極当然の心情の流れだ。

今までに落として(仲良くなって)来た女性達、ある意味で特別な風鵺と摩耶も、今はもう居ない。

喧花に取っては、此の上無く最低最悪の状況だろう。地獄に居る気分と言っても過言では無い位だ。





(太郎神(仮))「お前、そりゃ此方(コッチ)の台詞だぜ、なぁ、おい!」



(枝折翔)「おい、」





喧花の言葉に太郎神(仮)が眉をピクリと動かし、反応を示す。

其れに対し、枝折翔の方が静止の声を掛ける。





(太郎神(仮))「俺様の賽銭は盗るわ、力の覚醒はしてないわで、そんなチンケな武器に頼るわ、なのに目だけは覚醒ってどんなアベコベだ!!」





ガウンッ!





(喧花)「チッ、外したか。だが…どうやら、テメェ相手にゃぁ、其のチンケな武器で十分の様だ。」





喧花は驚くべき速さで、上半身を鋭く返し、背後に居る太郎神(仮)の顔面に向けて、一発、ブッ放して居た。

しかし、惜しくも一歩横にずれて避けられてしまった其の弾は、太郎神(仮)の頬を少し掠(カス)り、血がタラリ…と流れ出ただけで、太郎神(仮)自身に致命傷を負わす事は出来なかった。





(太郎神(仮))「…テッメー!」



(喧花)「………もう一遍(イッペン)だけ、言っといてやる。ゴチャゴチャと言葉で殺る気はねぇんだ。」





双方の気に障った両者は、互いの赤い刃の様に光る眼光に、睨まれ、睨む。毒よりも遥かに鋭い眼差しだ。

ただの一般人であれば、殺傷してしまう程の凶器となる光。けれど、2人は泰然と其れをじっと見据える。逸らさない。



激怒の心情が渦巻く中、沈黙し合う。

空間に、肌が粟(アワ)立つ程の静寂が訪れた。





(太郎神(仮))「ブッ殺s…」



(枝折翔)「おい!!…少しは、静まれよ。」





枝折翔が太郎神(仮)の言葉を遮って、怒鳴った声を出し、殺気を籠(コモ)らせた低く危険な声音で、熱くなる太郎神(仮)を窘(タシナ)めた。





(太郎神(仮))「………チッ、分ァったよ。悪かったって。だぁから、そう怒るなよ、枝折翔ぉ。」





其の窘めにより、冷静さを取り戻す事と、本来の目的を思い出す事が出来た太郎神(仮)。

此れでは何方(ドチラ)が主人と従者なのか分からない。





(喧花)「話は纏まったか?つーかさぁ、勝手に決めんなよ。テメー等は俺が殺るんだ。潰し合われても困んだよ。…主催者は参加者を退け者にするんじゃなく、丁重に持て成すのが礼儀だろ?」





厚遇しろ、無責任な薄遇はするな!と、今度は喧花が2人を窘める様に言う。

喧花の其の『丁重に持て成せ』的な台詞に呆れ果て、溜息を零す枝折翔。

そして、其の台詞にフルフルと体を震わせ、滔々(トウトウ)打ち切れた太郎神(仮)。





(太郎神(仮))「だぁあぁああアアア!!!!やっぱし我慢ならねェーーーーッ!!!!!!!!!」





大音量ともとれる太郎神(仮)の怒鳴り声で、一気に今までの其れなりに保たれて来た温厚さの流れが破られ、切り捨て去られた。

喧花と枝折翔が、視線を、声を張り上げた人物が立つ、後ろへと、其の瞳を移した。


其処には、思いっ切り眉を、つり上げて、苛立ちを露わにし、憤然として此方を…いや、喧花を強く睨んで居る太郎神(仮)が居た。

強く、熱い眼差しに射られた喧花は、其の瞳に激しい怒りと焦燥の炎が轟々(ゴウゴウ)と燃えて居るのを見た。





(喧花)「?」





何故、自分が焦燥の対象として目の仇にされるのか分からない。(怒りなら兎も角)

身に覚えの無い喧花は、僅かに眉を顰める。

しかし太郎神(仮)は、そんな喧花に対して、お構い無しに、また口を開き、乱暴な声音で言葉を、一々(イチイチ)、勢い良く区切りながら投げつける。





(太郎神(仮))「大っ体っなぁッ!なんっなんっだよっ!?お前はァッ!!?」





烈(ハゲ)しい怒りと、微々たる戸惑いに、どうしようもなく太郎神(仮)の身体が震える。胸中が乱れる。

自然と、愛用の獲物のクナイを握って居る手へ、握り砕かんばかりの握力が籠る。





(太郎神(仮))「とっとと覚醒しやがれッ!!…此れじゃぁ、俺が良い笑い者じゃねぇかッ…あの2人より性質が悪ィったらねーよ!」





焦燥…いや、苛立ちによって真っ赤に燃え盛かる炎が、瞳の中にあった。激怒等の心火を集めて灯した業火(ゴウカ)だ。

地に打ち伏す幽霊達は、太郎神(仮)から発せられる並々ならぬ熱気と殺気でひりつく喉と震える身体を感じながら、成り行きを凝視する。


太郎神(仮)が語気を荒くしながら喚(ワメ)き散らす言葉の意味を、喧花は良く分からない。不可解過ぎて、理解が出来ない。

しかし、喧花の鼻白(ハナジロ)む様な表情や声を良く紡ぐ唇には、悦の色が隠しようもなく滲んでいた。





(喧花)「漸く殺る気になったのかよ。マジ遅過ぎだろ。……テメェ等2匹の今後の人生、此の俺が直々にブッ殺して、くたばらせてやるよ。」



(太郎神(仮))「上等だよ。おい、枝折翔、テメーは手を出すなよ。クソアマ冒涜者な上、落ちこぼれには、此の俺が直々に裁きを下さなきゃならねーからなっ!」



(枝折翔)「あー、もう勝手にしやがれ、バカ共が。」





枝折翔が先程、注意したのにも関わらず、数分と経たぬ内に本来の目的と冷静さを、あっと言う間に欠いた鶏並の鳥頭をした太郎神(仮)。

枝折翔はそんな太郎神(仮)に、ほとほと呆れ果てて、其れでも、にわかに覚悟を決め、そう吐き捨てて、壁に寄り掛かった。





(太郎神(仮))「言っとくが、激スパルタで行くぜ!!罪深きさもあるから、一切の容赦もしねぇっ。むちゃくちゃ痛てー激痛の施しを与えてやるッッ!!!」





片方は、其の瞳のレッドベリルに、激怒に歪んだ危険な光を灯しながら、邪悪な笑みを浮かべて。





(喧花)「ハッ!此の宴で酔い潰れて死ぬのは、テメーの方なんだよッッ!!!」





片方は、其の瞳のレッドベリルに、狂気に歪んだ鋭い光を灯しながら、邪悪な笑みを浮かべて。





1つ目の、饗宴が始まったよ!

(逢って、狂う、狂う。)






焦心する狂神は付き従う。神に背く、悪魔の存在に等しい反逆者を、冒涜者を、神の理の基に正せ、滅せと、己にとっての天の理(ルール)が命ずる侭に、武器を翳し、闘う。

そんな狂信陶酔する獲物を見て、猛々しくて烈々たる狂気を秘めた嘲笑を浮かべる。火よりも朱く鮮やかな艶の有る其の色の瞳に、愉悦の色を宿しながら、狂気と武器の矛先を獲物へと向ける…。










And that's all
(それでおしまい…?)

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