行きは…よいよい? 喪花から聞いた話によると、3人は、どう言う訳か、出入り口の無い偽葬殿の北方で、発見されたらしい。 成程、通りで皆が、一晩中探しても見つからない筈だ。 と、納得するのも束の間、直ぐに、其れが、あの人外共による仕返しと言う名の嫌がらせである事に気付く。 其の御蔭(オカゲ)あって、帰宅して風呂に入る事も寝る事も叶わず、喪花に学校へと強制連行されたのだから。 3人は直ぐ様、偽葬殿の北方へと向かった。 (喧花)「………おいおいおいおい、どーゆーこったこりゃ?」 (風鵺)「出入り口が…ぇ?見間違えじゃないよねぃ?」 (摩耶)「うん。出来てる。」 出入り口を無くした筈の北口の黒の鳥居の先に、扉が出来て開いていた。 扉の先に広がる無明の空間からは、冷たい空気が流れて出て居た。 ぽっ、 ぽつ、 ぽつり、 3人が来た事に“部屋”が気付くと、闇を焦がす様に、朧な鬼火の様な、狐火の様な小さな光が幾つも生まれ、闇の宙を遊ぶ様に、フワリと浮き泳ぐ。 まるで、其の様は、“部屋”の中へ彼女等が入って来るのを、誘って居る様にも、歓迎して居る様にも思えた。 (喧花・鵺風・摩耶)「「「…上等!(でも危なくなったら、即チキン!)」」」 チキンとは、イコール、退避と言う3人で決めた独自の図式である。 そう力んで、揃って1歩を踏み込んだ。 其の時だった。 (喧花・鵺風・摩耶)「「「ぅわっ――――」」」 一瞬、クラリとした目眩(メマイ)が、3人を襲った。 けれど、其れは、本当に一瞬だけの事。 反射的に視線を足元へ移すけれど、床へ打ち伏す事は無い。 何だったのかと思いつつも、再び視線を上げる。 そして、驚愕した…―――――。 (喧花・鵺風・摩耶)「「「……え???」」」 目から入り込み、脳へと駆け上がって来た視覚情報…其れは、暗闇でも、小さな灯りでも無かった。 信じられないと、≪目を疑う≫とは、正に此の事を言うのではないだろうか? 視界に入って来た景色は、良く見慣れた光景だった。 黒板と教卓、そして、規則正しく並んでいる机と椅子。 他のものと取り違えることが無い場景だ。 紛うことなき、“学校の教室”其の物。 (喧花)「まさかのリターンズ?」 (風鵺)「振り出しに戻る?」 (摩耶)「ダ・カーポ」 (?)「誰だ?」 学校の教室へと舞い戻って来てしまったのかと思いきや、聞こえて来たのは、ソプラノに近いアルトの、やけに淡白な響きの、そんな声。 (喧花)「ん?」 (風鵺)「ぬん?」 (摩耶)「うよ?」 気付けば、何時の間にか、教室の中には自分達以外の者達が居た。 同年代らしき男子が3人。 1人は、前の出入り口のドアに寄り掛かって立って居る。 1人は、窓側の一番前の席の机に行儀悪く足を組んで、座って居る。 1人は、3人に一番近い席の机に、手を置き、此方に体を向けて驚いた様に立って居た。 (喧花)「………女?」 喧花が、自分達に近く、声を発したであろう人物…髪色が一房ずつ黒と緑が交互に成って居て(近い表現をするなら西瓜(スイカ)頭)、横髪だけ長髪の中性的(女顔寄り)な人物に近付き、片方の胸を鷲掴む。 (?)「何しとんじゃわりゃぁああああッ!!!」 ズザザザザッ 喧花の魔の手から逃げる様に、胸元を手で隠し、後ろに後退り、距離を取る男児。 (喧花)「……女子のハートを鷲掴み☆」 (?)「死ねッーッツ!!!!!!!!!」 ドゲシッ! 先程、勢い良く広げた距離を、胸を触られた女顔の人物が凄い勢いで距離を縮める様に走って来て、喧花の顔面に跳び蹴りをクリーンヒット☆させる。 (喧花)「ゲフッ」 顔面を蹴られドサッと床に尻もちをつく自業自得の男…いや、女、喧花。 (喧花)「痛ってーッ!何すんだゴラァ゙!!」 (?)「それは俺のセリフだぁッ!!ブッ殺されてーのか!?ぁあ゙?」 (喧花)「んだよ男かよ!」 (?)「当たり前だッツ!!!!」 (喧花)「紛らわしいな、オイ。損したよ。」 (?)「損って何だ!何が損したってんだ!」 (風鵺)「はい☆残っ念っでしったっ!」 (摩耶)「……ドラァグクイーン?」 (?)「ホモセクシュアルパフォーマンスでもねーよ!!!!!つーか、良くそんな難しい言葉知ってんな!」 ボフッ ガンッ ポーーン… パシっ 中性的な男の頭部へ、何かが凄まじいスピードでヒットして、其の勢いの侭、反動で喧花に当たった。 “ソレ”は、天井の下で大きく弧を描きながら投げた持ち主の手の中へ落ちる。 突然の事に4人は大きく目を見張り、投擲者へと振り返る。 犯人は、机に行儀悪く足を組んで、座って居る、男。 男は微笑(ワラ)って居た。いや、元々が温和な顔立ちなので、其れは、もしかしたら目の錯覚かもしれないが…。 其の少年の手にあるのは…黒板消し。 赤いチョークを頻繁に消した黒板消しだったのか、西瓜色の頭は、やけにピンク色をした粉を盛大に被って居る。 喧花の額は、黒板消しの角が当たったのか、赤くなっている。 しん…っと周りが静まり返る中、ゆっくりと少年が口を開いた。 そして、淡々とした口調で、声を発した。 (?)「取り敢えず、自己紹介から始めようか。」 其の少年は、穏やかな笑みを浮かべるも、眼差しは鋭く、突き刺す様に4人へと向けて居た。 そう、自分達の前に突如、現れた3人に対する警戒心と、ぎゃあぎゃあと騒ぐ4人への不愉快な煩わしさの、両方が混ざり合った、鋭く冷めた眼差しを…。 And that's all…? (それでおしまい…?) |