ウィンチェスター・ミステリー・ハウスを、ご存じだろうか?
此処から遥か海の向こうに存在する国に、混在として佇む迷宮の建物である。
其のホラー迷宮と似た様な建物が、此処、穂都万(ホツマ)の土地にはある。
閉じ込められた霊安室
襖を開けると壁
階下へ落ちる様になってる襖
階段の上は天井
水源不明の不思議に湧き出る炭酸水の御手洗
天井へ続くだけの階段
上って下りるだけの石段
拝殿の前にぶら下がるは無数の不揃いで歪な鈴
壁に取り付けられた雨戸
壁の至る所は回転式
墓に位牌や卒塔婆が整列された墓場部屋
掛け軸や絵画の裏には隠し通路
彼方此方に点在する教室や教材部屋
畳を取り外せば地下室へ続く隠し階段
底無しの井戸
誰も入る事が出来ない封印された呪い部屋
【偽葬殿】
(ギソウデン)
和のウィンチェスター・ミステリー・ハウスと言われる境内社に付けられた名前。
其の境内社は周りを、グルリと囲むように聳え立つ無数の透明石製で出来た灯籠に包囲されて居る。
此の境内社の出入り口は、東西南北の四方の方角の内、三方にあり、急傾斜の石段を登って行き、其々に佇む不揃いのサイズの鳥居達を潜った先ある。
3つの出入り口の名は総じて“空に三つ廊下”。
『晴れるだろうか』『曇るだろうか』『降るだろうか』という3つの「ろうか」を廊下にかけた洒落で、天候がはっきりしない時に用いる言葉を拝借した名称だ。
青い鳥居を潜った東口の廊下を“照廊下”
白い鳥居を潜った西口の廊下を“曇廊下”
赤い鳥居を潜った南口の廊下を“降廊下”
出入り口を無くした北口の黒の鳥居を除いた三方を、そう呼ぶ。
“照廊下”から入った境内社の中へ進めば、参拝者が拝礼したりする為の賽銭箱や大鈴や鰐口、神棚等がある神社の拝殿。
“曇廊下”から入った境内社の中へ進めば、外陣の境には焼香台や賽銭箱、内陣の奥まった所には黒や朱の漆塗りにされた須弥壇があるお寺の本堂。
“降廊下”から入った境内社の中へ進めば、祭壇や献花に山積みの骨壷と桐箱、壁には13の火葬炉が囲う。そして何故か、火葬炉より1つ少ない台車が12個ある葬儀場。
そんな荘厳の3つの大部屋を、簡単にカモフラージュして隠してある場所から其々抜けると、其処から先は、正に迷宮。
3つのどの入り口を選んでも、上記で挙げた驚愕の大迷路が、不気味さと奇怪さを孕む、途方も無く広がる空間へと繋がる。
何故、其の様な境内社が誕生したのか…、
一般に信じられている話によると、其の昔、廃仏毀釈と言う人々の仏教排斥運動から逃げる為に…だそうだが、確かな事実は不明。
しかし、其れが本当なら、正に和のホラー迷宮のウィンチェスター・ミステリー・ハウスに相応しい。
方や、幽霊等の呪いから逃げる為に未亡人の妄執に因り、作り上げられた迷宮。
方や、逆らえない生きた思想から逃げる為の信仰に因り、作り上げられた迷宮。
だが、此の国には、こんな諺がある。
“天網恢恢疎にして漏らさず”。
天が悪人を捕えるために張りめぐらせた網の目は粗いが、悪いことを犯した人は一人も漏らさず取り逃さない。
天道は厳正であり、悪いことをすれば必ず報いがある。
当たる罰は、薦着ても当たるのだ。
一言で言ってしまえば、天罰覿面。
そう、まさに、罰当たりな者達の様に…――――。
And that's all…?
(それでおしまい…?)