前日譚【前編】
□星影に供花の十字架 09
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命溢れる“星”の懐に抱かれる
何か、温かいモノに、包まれる。
其の温かいモノが、触れて来る。
其れが、一体何なのかは、分からない。
だが、不思議と心地良くて、落ち着く。
(?)「いい加減、起きないと、チューしちゃうぞ☆」
きっぱりと、そして明るいセクハラ発言が、耳に飛び込んで来た。
いきなり舞い込んで来た言葉に、重い瞼を、ゆるゆると、ゆっくりと、持ち上げる。
(?)「あ、残念。おはよー。」
目を開けた視界の先の、ど真ん中に、上機嫌な上、愉快犯の様な笑みをニコニコと浮かべる男神、基(モトイ)、“Sköll”の顔が、あった。
(Hati)「!?……此処、は?」
(Sköll)「地上だよ。」
(Hati)「あれ?でも、“聖地”に居た筈じゃ…、」
(Sköll)「お帰り。」
Hatiの言葉を、強く遮りるSköll。
そんなSköllに気圧されて、口を閉ざすHati。
(Sköll)「お帰り。」
Sköllは、御返しの返事を促(ウナガ)す様に、もう1度、同じ台詞(セリフ)を口にする。
(Hati)「……ただいま。」
(Sköll)「じゃぁ、歓迎会でも、しようか。」
(Hati)「え?」
コロコロ変わる話の脈絡(ミャクラク)の流れに付いて行けず、戸惑ってばかりのHati。
どう反応し、対応すれば良いのか分からないHatiを無視して、Sköllは、Hatiを抱き上げて居た手を離す。
(Hati)「!?」
ドサリッ
(Hati)「〜〜〜〜〜ッ!!!」
幾(イク)らか地面が柔らかい砂の上とは言え、そこそこの高さから落とされれば、其れなりの固い衝撃(ショウゲキ)を感じ、痛みも襲って来る。
Hatiが文句を言おうと、Sköllを見上げると同時に、彼は、指を、くわえ、口笛を吹いた。
ピューーーーイ!
其の音色は、楽器道具でも使って居るのかと思わせる程、最も美しく、空気を大きく震わせ、高らかに大きく響き渡る。
其れに答える様にして、四方八方から、大自然にも負けない、色鮮やかで、様々な形を成した“命”を持った、生命体達が姿を見せた。
(Hati)「!?!?」
穏やかな気持ちに成る野鳥達の囀(サエズ)りが、其の身と共に、空から柔らかな羽根を散らしながら、舞い降りて来る。
たった今、降りて来たばかりの山からは、猫に犬、狐に狸、猪(イノシシ)に熊、鹿に栗鼠(リス)等の陸上動物達が、一声鳴いて、温かさを伴(トモナ)った体を順番に、擦り寄せて来る。
カラフルな蝶達や、蜻蛉(トンボ)に蟷螂(カマキリ)、兜虫(カブトムシ)に鍬形虫(クワガタムシ)、蛍(ホタル)や飛蝗(バッタ)、蜂や天道虫(テントウムシ)、蟻(アリ)や蝉(セミ)等の陸上昆虫や、蛙や蛇、蜥蜴(トカゲ)やカメレオン等の爬虫類も、木々や草花の中から出て来る。
砂浜には、海老(エビ)や蟹(カニ)等の節足動物や、亀(カメ)やアザラシが姿を現し、海の中からは、水飛沫を上げながら、魚達が存在を主張するかの様に、跳ね続け、其の度に、日の光を浴びて、鱗(ウロコ)が、僅かに、キラキラと反射して閃いて居た。
魚達の他に、広がる海では、フワフワと浮かぶ海月(クラゲ)や蛸(タコ)やイカに、綺麗な弧(コ)を描く海豚(イルカ)や、潮を吹く鯨(クジラ)に、腹に石を乗せて、其の上に貝をリズミカルに叩き付けるラッコ等の、海洋生物達に因るショーが開催されて居た。
(Hati)「…………。」
地球に降り立ってからと言う物、次々と絶え間無く、目の前に姿を現す、様々な姿を持った数多の生命体が生存する、大自然。
其の雄大な大自然を、集結させたSköllの御蔭で、一挙に、とことん全身全霊で感じる羽目に成った、Hatiにあるのは、途方(トホウ)も無い、驚き。
Hatiは、呆然と、否(イナ)、愕然(ガクゼン)として、瞬(マバタ)きすら忘れ、大きな目を更に見開き、眼福に恵まれ過ぎる光景を前に、座った侭、只々、硬直するしか無かった。
And that's all…?
(それでおしまい…?)