前日譚【前編】

□星影に供花の十字架 09
1ページ/1ページ


命溢れる“星”の懐に抱かれる







何か、温かいモノに、包まれる。

其の温かいモノが、触れて来る。


其れが、一体何なのかは、分からない。

だが、不思議と心地良くて、落ち着く。





(?)「いい加減、起きないと、チューしちゃうぞ☆」





きっぱりと、そして明るいセクハラ発言が、耳に飛び込んで来た。

いきなり舞い込んで来た言葉に、重い瞼を、ゆるゆると、ゆっくりと、持ち上げる。





(?)「あ、残念。おはよー。」





目を開けた視界の先の、ど真ん中に、上機嫌な上、愉快犯の様な笑みをニコニコと浮かべる男神、基(モトイ)、“Sköll”の顔が、あった。





(Hati)「!?……此処、は?」



(Sköll)「地上だよ。」



(Hati)「あれ?でも、“聖地”に居た筈じゃ…、」



(Sköll)「お帰り。」





Hatiの言葉を、強く遮りるSköll。

そんなSköllに気圧されて、口を閉ざすHati。





(Sköll)「お帰り。」





Sköllは、御返しの返事を促(ウナガ)す様に、もう1度、同じ台詞(セリフ)を口にする。





(Hati)「……ただいま。」



(Sköll)「じゃぁ、歓迎会でも、しようか。」



(Hati)「え?」





コロコロ変わる話の脈絡(ミャクラク)の流れに付いて行けず、戸惑ってばかりのHati。

どう反応し、対応すれば良いのか分からないHatiを無視して、Sköllは、Hatiを抱き上げて居た手を離す。





(Hati)「!?」





ドサリッ





(Hati)「〜〜〜〜〜ッ!!!」





幾(イク)らか地面が柔らかい砂の上とは言え、そこそこの高さから落とされれば、其れなりの固い衝撃(ショウゲキ)を感じ、痛みも襲って来る。

Hatiが文句を言おうと、Sköllを見上げると同時に、彼は、指を、くわえ、口笛を吹いた。





ピューーーーイ!





其の音色は、楽器道具でも使って居るのかと思わせる程、最も美しく、空気を大きく震わせ、高らかに大きく響き渡る。

其れに答える様にして、四方八方から、大自然にも負けない、色鮮やかで、様々な形を成した“命”を持った、生命体達が姿を見せた。





(Hati)「!?!?」





穏やかな気持ちに成る野鳥達の囀(サエズ)りが、其の身と共に、空から柔らかな羽根を散らしながら、舞い降りて来る。

たった今、降りて来たばかりの山からは、猫に犬、狐に狸、猪(イノシシ)に熊、鹿に栗鼠(リス)等の陸上動物達が、一声鳴いて、温かさを伴(トモナ)った体を順番に、擦り寄せて来る。

カラフルな蝶達や、蜻蛉(トンボ)に蟷螂(カマキリ)、兜虫(カブトムシ)に鍬形虫(クワガタムシ)、蛍(ホタル)や飛蝗(バッタ)、蜂や天道虫(テントウムシ)、蟻(アリ)や蝉(セミ)等の陸上昆虫や、蛙や蛇、蜥蜴(トカゲ)やカメレオン等の爬虫類も、木々や草花の中から出て来る。


砂浜には、海老(エビ)や蟹(カニ)等の節足動物や、亀(カメ)やアザラシが姿を現し、海の中からは、水飛沫を上げながら、魚達が存在を主張するかの様に、跳ね続け、其の度に、日の光を浴びて、鱗(ウロコ)が、僅かに、キラキラと反射して閃いて居た。

魚達の他に、広がる海では、フワフワと浮かぶ海月(クラゲ)や蛸(タコ)やイカに、綺麗な弧(コ)を描く海豚(イルカ)や、潮を吹く鯨(クジラ)に、腹に石を乗せて、其の上に貝をリズミカルに叩き付けるラッコ等の、海洋生物達に因るショーが開催されて居た。





(Hati)「…………。」





地球に降り立ってからと言う物、次々と絶え間無く、目の前に姿を現す、様々な姿を持った数多の生命体が生存する、大自然。

其の雄大な大自然を、集結させたSköllの御蔭で、一挙に、とことん全身全霊で感じる羽目に成った、Hatiにあるのは、途方(トホウ)も無い、驚き。

Hatiは、呆然と、否(イナ)、愕然(ガクゼン)として、瞬(マバタ)きすら忘れ、大きな目を更に見開き、眼福に恵まれ過ぎる光景を前に、座った侭、只々、硬直するしか無かった。










And that's all
(それでおしまい…?)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ