前日譚【前編】

□星影に供花の十字架 05
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来し方行く末






時を同じくして生まれ、皆の穢れを、一身に受け合った仲である男神は、女神の腕を引っ張り、立たせて、手を繋いだ侭、スタスタと迷う事無く、歩いて行く。


“祈りの塔”から出た瞬間、女神は引っ張られてるのにも関わらず、一瞬、立ち止まった。


息を呑んだ。

息を呑んだ御蔭で、悲鳴は、喉の奥で、押し潰された。



無残、残酷、悲惨、凄惨。

蹂躙、餌食、凌辱、殺戮。

征服、冒涜、反逆、破壊。



どの言葉も相応(フサワ)しい光景が、眼前に広がって居たからだ。


床に視線を落とせば、無数の血だまりと、肉や骨の破片(ハヘン)。

恐る恐る、だが、ゆっくりと、続いて、壁や天井も、見回した。

何処を見ても、緋色の液体が、ブチ撒(マ)けられ、女神達の体の中に、詰(ツ)まって居た内臓やら骨やらが、飛び散り、グチャグチャに散乱して居たからだ。



肉の破片。

血の悪臭。

骨の純白。



赤と白に塗り潰され、錆び付いた香りに包まれた月宮殿を、男神は意気揚々と上機嫌に突き進んで行く。

同じく、引っ張られて行く女神も、赤と白に彩(イロド)られた世界に、素足で踏み入った。


まだ、全っ然、渇き切ってはいない、清新な血だまりに足を踏み浸せば、ビチャリッと音がした。

まだ、新鮮で、柔らかく、僅かに弾力の残る肉片に、足を踏み入れれば、グニャリと、へこんだ。

まだ、硬さが残る骨を、足で踏み潰せば、ポキポキと、軽快な音を立てて、更に小さく砕かれた。





(女神)「あッ……ぅ」





気持ち悪い。

気分が悪い。


冷や汗が滲み出る。

心臓が、ばくばくと割れる。


皆が、責め立てて居る様だ。


きりきり

ぎりぎり


首を絞められて、苦しめられてる感じだ。


殺されそうだ。

怖いよ。

恐い。





(男神)「大丈夫だよ。俺が居る。」





“祈りの塔”には、自分しか、居なかった。

世界から、隔絶された様に、ずっとずっと、孤独だった。





(男神)「此れからは、2人だよ。」





(女神)「2人…。」





男神が、前を見て居た顔を、此方に向ける。

独りぼっちでは無いと、遠回しに告げて来る。


ふっ、と僅(ワズ)かながらも、柔らかく歪む口から、発せられる言葉に、嘘は、微塵(ミジン)たりとも、含まれて無い。

此方(コチラ)を見つめて来る、宝石の冷たさ、太陽の熱さ、其のどちらからも縁遠く、感情の欠片(カケラ)等、全く感じ無い漆黒の瞳の眼差(マナザ)しに、偽(イツワ)りは、見当たら無い。



そんな彼に、手を引かれ続けて、“月宮殿”の最上階の屋上へと、足を踏み入れた。





(男神)「見える?」



(女神)「ぞよ?」



(男神)「あれが、“地球”だよ。」





様々な命の希望と、可能性を秘めた、青い星。

深い、吸い込まれそうな、青い水晶球の様に、綺麗に輝いて見える。





(男神)「気に入った?」



(女神)「……見た目は気に入ったぞよ。」



(男神)「ははっ。でも、降り立ったら、更に気に入ると思うよ。」



(女神)「本当ぞよか?」



(男神)「ま、結局は君次第だけれどね♪」





見惚れながらも、未知の領域へ足を踏み入れる事に少なからず、不安を感じる。

そんな女神の胸中を感じ取ったのか、其の背中を、男神が優しく、ポンポンと叩く。





(男神)「でも、保証してあげる。大丈夫だよ。君には、俺が居るんだから。」





男神は、クックッと喉を鳴らして、軽く身を折った。

其の両肩は、僅(ワズ)かながらも、小刻(コキザ)みに震えて居る。

そして、くしゃりと、顔を歪め、まるで無邪気な子供の様に笑う。





(男神)「あーぁ、楽しみだなぁ。」





そうして、より一層、楽し気に笑った。










And that's all
(それでおしまい…?)


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