前日譚【前編】

□星影に供花の十字架 03
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黒い影は暗黒の星を求む






長々しい戦争に因(ヨ)って、両国の神々は疲弊(ヒヘイ)して行った。

“星”も、神々しい光を、とうに失い、天鵞絨(ビロード)の布の様な暗黒に覆われて居た。

国の城も、黒ずんだ色へと変色し、ボロボロに崩れた柱等の残骸が地に落ちて居て、廃墟(ハイキョ)と化して居た。



かつての栄華を極めた、太陽の帝国である金烏帝国も、月の王国である玉兎王国も、絶滅寸前だった。

闇は、戦争を招来(ショウライ)させた事に因って、生まれた暴力、憎悪、悲哀等、負の感情に充ちたエネルギーを、一滴残らず搾り取り、大いなる暗黒へと進化を遂げて居た。



そして、大いなる暗黒は、自らを“荒振神(アラブルカミ)”と名乗った。





「此れは、復讐なのだ!我等を裏切った“至高の存在”と、忌々しい男神と女神に対する!!男神と女神の光は消えた!残るは、“至高の存在”の星の光、唯1つ!!!」





そう禍々(マガマガ)しくも、晴れ晴れとした荒振神が、嘲笑しながら、高らかに宣言をした時だった。





ゴオォ……ッ!!



カッ!!





激しい轟音(ゴウオン)。

眩(マバユ)い光。

一点の曇りも無かった頃の太陽と月が、一斉に砕けたかの如き光が、世界を照らす。





「がぁァ!!!」





荒振神の血を吐く様な悲鳴。

そして、強烈な光は、其の場から、世界の外側の端まで、荒振神を、弾き飛ばした。





カアァァッッ!!!





光が荒々しい乱反射を起こす中、荒振神は、弾き飛ばされる瞬間、確かに見た。

勇(イサ)ましさと慈(イツク)しみさと同時に、不浄な気を、一切寄せ付けない清さを纏い、凛と佇み、此方(コチラ)を厳しい目で見据(ミス)えた男神と女神の姿を…。





「おのれ、おのれぇ、許さん、絶対に許さんぞぉぉう…!!」





強い怨嗟(エンサ)の籠(コモ)った声の絶叫を最後に、荒振神は、撃退させられた。



強烈な光は、渦潮(ウズシオ)の様な、うねりを造り、やがて、2つの球体へと転(テン)じた。

1つは、太陽の帝国である、金烏帝国の日照殿の中心部にある“誓いの塔”へと落ちた。

もう1つは、月の王国である、玉兎王国の月宮殿の中心部にある“祈りの塔”へと落ちた。



鮮烈(センレツ)な輝きの光の珠(タマ)。

新しい、男神と女神の誕生だった。










And that's all
(それでおしまい…?)


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