前日譚【前編】

□星影に供花の十字架 01
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会うは別れの始め






暗闇が何処までも何処までも無限に広がって居るの中に、ぽつんと、唯一無二の存在が1体。

永遠とも永久とも言える、まさに不老不死の絶対的な完全体の其の存在は、到頭(トウトウ)、暗い世界に、独りぼっちで居るのが、耐えられなくなり、我が身の一部を、2つに分けとり、自分に似た形を模(カタド)った。





「光あれ」





1番目に模ったモノに、そう穏やかに、希望を込める様に祈ると、熱く、情熱的で、焦がれる様な、神々しい深紅の髪と、白金色の瞳を持った男神が誕生した。





「闇よ、去れ」





2番目に模ったモノに、そう冷たく、忌避を込める様に願うと、明るく、優しい、華やかで、美しい、神秘的な金色の髪と、銀色の瞳を持った女神が誕生した。



2神の親である“至高の存在”は、其の誕生に大層喜んだ。

しかし、其れは、束(ツカ)の間の至福にしか、成らなかった。



“至高の存在”の“心”から生まれた2神には、決定的な違いが、あったのだ。



1つ目は、寿命。

男神である御子(ミコ)は、常盤(トキワ)の岩の如くに永遠の命を宿して居た。

対して、女神である御子は、花が咲き匂(ニオ)うかの如くに儚い命を宿して居た。



そして、もう1つ。

男神は女神に、女神は男神に触れ合う事が出来なかった。

“至高の存在”の“心”の熱量の均衡が、上手く振り分けられなかったのだ。

男神の褐色色(カッショクイロ)の指先が、女神に触れると、男神の紅蓮(グレン)の如き猛火の炎に焼かれ、大火傷(オオヤケド)を負ってしまう。

逆に、女神の色白(イロジロ)の指先が、男神に触れると、女神の万年氷の如き凛冽(リンレツ)の氷塊に包み込まれた様に凍傷(トウショウ)し、細胞が壊死(エシ)してしまう。

お互いを想い合って居た2神は何とか、お互いに触れようと、何度も何十回も何百回も試し見たが、互いの温度を相殺(ソウサイ)させる事は、終(ツイ)ぞ、叶わなかった。



“至高の存在”は、確かに平等に2神を造ったつもりで居た。

しかし、寸分の狂い無く、全く同じモノは、“至高の存在”と云う力を持ってしても、造れなかったのだ。

“至高の存在”は、無意識の内に、1番目に造った男神には、己が夢見た独りぼっちでは無い希望の世界を思い描きながら、2番目に造った女神には、己が味わって来た独りぼっちだった時の絶望を思い描きながら造ってしまった居たのだ。





「何と言う事だ…。身勝手と知りながら、独りぼっちでは無い世界の繁栄を願ったからこそ、お前達を造ったと言うのに、己が不甲斐ないばかりに…すまぬ…――――。」





“至高の存在”は、自分の過(アヤマ)ちに、深く嘆(ナゲ)いた。

本来ならば、上手く行って居れば、2神は、結ばれる筈だったのだ。


男神と女神が、結ばれ、契(チギ)りを交わし合えて居たのならば、2神の間に、生まれて来る御子の命は、永遠に続く至福の繁栄の象徴と成る予定だった。

男神の持つ、常盤の岩の如くに、永遠に揺るがぬ命を得ち、更には、女神の持つ、花が咲き匂うかの如くに、栄える筈だった未来は、“至高の存在”の誤算に因って、実現が不可能の夢止まりで終わった。



しかも、もう、手の施(ホドコ)しようが無かった。

やがて、花の様に儚く、刹那(セツナ)の如く、ほんの短い、束(ツカ)の間の『幸福(シアワセ)』は去り逝き、無くなる。

再び、常盤の如く続く、独りぼっちの『宿命』を背負い、暗闇と自身の存在だけが、世を統べる世界へと、戻る。



ついに、其の時は、直ぐに、やって来た。

女神の命は、咲いても実を結ばない徒花(アダバナ)の様に、儚く短く散って逝った。

そして、男神は、愛する女神の後を、直(ス)ぐに追う様に、不死を捨てて、自らの其の手で、命を絶った。



2神は決して、親であり、創造主である“至高の存在”を1度たりとも責めたりはしなかった。

体温も輝きも無くしてしまった2つの亡骸を、“至高の存在”は、寄り添う様にして、手を繋がせる。



其れは、とても、皮肉な光景だった。



生前には、叶えて遣れなかったと言うのに、こうして命の灯が消えてしまえば、叶えて遣れてしまうなんて…。

2神の、そんな姿ばかり眺めて居ても“至高の存在”の心は、暗闇に蝕(ムシバ)まれて沈み、奈落の底へと只々(タダタダ)、堕ち行くばかり。


すると、其の瞬間、“至高の存在”と2神の亡骸を喰らい尽くそうとする暗闇を、退(シリゾ)ける様に、眩(マバユ)い光が辺りを覆(オオ)う。

“至高の存在”が目を見開き、どうした事かと、2神の亡骸を見る。


爛々(ランラン)と2神の亡骸が輝き、みるみる形を変えて行く。

2神の亡骸は、2つの、光り輝く丸い球体の発光体へと姿を変えた。

2つの球体は、まるで、暗闇から“至高の存在”を守る様に、其の周りを円を描く様に、回り始めた。


死しても尚、2神は“至高の存在”を、孤独から守ろうとして居るのだ。

其れを理解出来た時、やり場のない思いが、胸中を掻き乱し、“至高の存在”は涙を零した。





「お前達の様に、成れるだろうか……――――」





“至高の存在”は、意を決した。

男神の“星”へは、全てを照らす強さを…。

女神の“星”へは、全てを包む優しさを…。


そして、“至高の存在”も、自らの全てを捧げて、2神と同じ様な“星”へと成った。

己の御子達が教えてくれた、命の誕生の喜びを忘れない様、様々な命を生み出し続けて行ける立派な“星”へと……――――。。。










And that's all
(それでおしまい…?)

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