前日譚【後編】

□初花は久遠の約束 02
1ページ/1ページ


裏切者と冒涜者は光と闇を閉ざす呪歌を詠う







「見ツケタゾ。」



「漸(ヨウヤ)ク、来オッタ。」



「アァァ、憎ヤ、恨メシヤ!」



「我等ヲ裏切リ、此ノ世界ノ涯ニ追イ遣リ、縛リ付ケ様トシタ、忌マワシキ光ノ縁者共メ!」



「許シ難キ罪ヲ背負イシ存在!!!」



「貴様等モ、アノ星ニアル光、全テヲ八ツ裂キニシテシマオウ。」



「ソウダッ。根絶ヤシニシテ、クレヨウゾ!」



「我等ガ、恨ミ、思イ知レ!!」



(Sköll)「あっは。弱い奴程、良く吠える。」



「黙レェェ!貴様カラ血祭リニ、上ゲテ遣ルッ!!!!」





我が強くも、地球で過ごして居る時のSköllは、愛想が良く、フレンドリーだ。

特に、Hatiに関しては、其れにプラスして、スキンシップも多く、其処は少々、困り者な位。

と言っても、至高の存在に対しては、Hatiとは、また別の意味で特別扱いをして居るらしく、何時(イツ)も冷(ヒ)ややかで、素っ気ない態度を取りつつも、棘を含んだ物言いをする。


至高の存在も、また、Sköll同様、敵意を持って、毒を含んだ物言いで言い返しながら、応戦するかの様に、大人気なく、Sköllを、きつく見据(ミス)え、対抗する。

其の時は、両者、一歩も譲らずに、バチバチと火花を散らし合いながら、一触即発の冷戦状態に成るモノだから、Hatiが仲裁に入って、何とか地球に被害が出ない様に済むのが、もう、お決まりの定番と化して居る。


そんな普段は、ケロリと平然として居て、楽し気に、愉快そうに、飄々(ヒョウヒョウ)と過ごして居るSköll。

けれども、戦いと成ると、Sköllは何時も通りにニコニコと笑って居る筈なのに、其の表情と声は、温度も潤(ウル)みも無く、渇き切って居る。

そして、地球では見られない、両目に宿る眼差(マナザ)しの光だけは、彼自身も自覚し、認めて居るだろうが、他とは異なり、余計な不純物を、一切合切、取り除いた、何処までも強く鋭く輝く、純真無垢な灼熱を帯びた剣(ツルギ)の如く。





(Sköll)「弱い者苛めは、好きだよ。」



「我等ヲ見縊(ミクビ)ルナ!!!」



(Sköll)「だから、俺は君達を歓迎するヨ。」



「身代ワリ人形デアリナガラ、随分ト生意気ナッ!!」



「我等ニ歯向カウ者共ニハ、制裁アルノミ!!」





ジャンッ!





暗黒の闇が、怒り狂った雄叫びを、上げる。

其れを戦闘開始の合図に、直(ス)ぐ様(サマ)、Sköllが、闇との間合いを跳躍(チョウヤク)で一気に詰め、懐(フトコロ)に飛び込む。

鋭い爪が生えて居る足で、踏み付けた闇に、勢い良く、其の場に縫い付ける様に、突き立てた錫杖(シャクジョウ)の金の輪が、一際(ヒトキワ)、強く鳴った。





(Sköll)「『日の代行者たる大神Sköllの名のもとに、誓いを立てよ。』」





Sköllの薄い唇からは、残酷なまでに優しい呪歌が、紡(ツム)がれる。

Sköllの歌声は、暗黒の闇が発する邪気(ジャキ)を祓(ハラ)い清(キヨ)め、邪気に覆われて居た本体の姿を暴く。

Hatiも、両手で錫杖を持ち、其の先で、様々な闇の存在が1つに集結して居る暗黒の真上に位置する、ある1点の場所を指し示す。





シャラランッ





其の際、銀の輪がSköllの歌に続く様に歌う。





(Hati)「『月の代行者たる大神Hatiの名のもとに、祈りを込めよ。』」





次にHatiが、Sköllが剥き出しにした闇の集合体の内側にある“核の塊”を視通(ミトオ)す。

そして、訴えかける様に、Sköllの呪歌と、錫杖の音色に合わせて、Hatiも唱(トナ)える様に、高く澄(ス)んだ声で、歌い出す。


鈴の如き、優し気で、涼やかな、凛とした音色の呪歌に、合わせる様に、淡い光が、フワフワと、幾(イク)つも出現する。

頼りなさ気な光達は、どす黒い怨念の闇の塊の元へと昇って行き、周りを囲い、寄り添う様に、ホロホロと、溶け込む様に、闇の中へと入って行く。





「ヤ、ヤメヨ!!」



「中ニ入ッテ来ルナッ!」



(Sköll・Hati)「「『地に御座(オワ)す我等が天の主に、願(ガン)を懸ける為に、想い馳(ハ)せ参じたならば、星と成りて、満天下(マンテンカ)を鎮護(チンゴ)せよ!』」」





詠唱(エイショウ)が、終わる。


と同時に、Sköllは、錫杖の柄(ツカ)を掴み、引き抜く。

仕込錫杖だった其処から、現れたのは、血よりも濃い緋色の刃の直刀。


Sköllは、其の刀に太陽神と成った祖神(オヤガミ)から受け賜(タマ)りし“純陽の加護”を纏った、金色に輝く、一筋の火流を巻き付かせる。

轟々(ゴウゴウ)と勢い良く輝き燃える剣を、悠然(ユウゼン)と笑いながらも勇ましく、不浄な気を、一切寄せ付ける事を許さず、容赦無く、ぶった斬りにしようと、迷わず上段に構える様(サマ)は、まるで、修羅か武神の様だ。





「嫌ダ、嫌ダ、消エタクナイ。」



「助ケテ、助ケテクレ!」





闇達の命乞(イノチゴ)いにも全く耳を貸さず、Sköllは、Hatiが見つけた闇の“大本(オオモト)の核”がある頭上に向かって、其の剣を振(フル)った。

縦と横、合わせて、2度切った、其れは、まさしく、罪や罰、または、光と闇を背負う象徴とされる、十字架を体現した、正十字の、光の裁き。





「「「グァオォオオオオオオオォォ……!!」」」





暗黒の闇の力と、Sköllの力が、衝突し合って、空間を軋(キシ)ませ、混沌の歪(ユガ)みを生み、強大な力同士が、お互いを凌(シノ)ぎ合う。

押し負かされない様に、Sköllは、直刀を眼前に構え、更に力を上乗(ウワノ)せして、肉を裂き、血飛沫(チシブキ)が飛び散らぬ様、骨をも砕く様な衝突の波動に、無言で耐える。


やがて、其の、せめぎ合いにも、勝敗が決まる。

Sköllの光の力に押し負けた闇達は、其の輝きに捕らえられ、其の身を散り散(ジ)りにされ、幾(イク)つかの塊(カタマリ)に分断され、身動きが出来ぬ様、虚空(コクウ)で、磔(ハリツケ)にされた。

そして、膨張し切った、大いなる闇は、“大本の核”を斬り砕かれ、斬り刻まれ、切り離された漆黒の影の欠片(カケラ)達が、無数の漆黒の羽根の様に、ヒラヒラと頼りなく、躍(オド)りながら、1つ1つ剥(ハ)がれ落ちる。





シャン



シャン、シャン



シャラララ……





Hatiが、磔にされ、暴かれた個々の闇の本体達を視認すると、銀色の錫杖を左右に振り、其れに合わせて清い響きが、場の荒々しさを静める。

同時に、本体から切り離され、宙を舞う闇の片鱗(リンヘン)と成ってしまった其れ等を、1つも逃す事無く、翳(カザ)しながら左右に振る錫杖に、ゆっくりと貯(タ)めて居た浄化の力を解放し、放出した。


すると、淡い銀色の光が、まるで、大雪と成って降り注がん程に、小さな黒い光を発する影の欠片に当たっては、交じり合い、溶け合う。

やがて、不浄の闇の破片と浄化の光の珠は、1つと成り、赤橙黄緑青藍紫(セキトウオウリョクセイランシ)と、1つ1つが様々な色を持つ輝きに変わり、小さな星々へと生まれ変わる。


闇の化生(ケショウ)たる己達の体の、一部が、星屑程度とは言え、“星”に変えられた光景を目にして、磔にされて居る闇達は、畏怖と嫌悪に塗(マミ)れた悲鳴を上げた。

全身がゾッとする不快な悪寒(オカン)に襲われ、心が凍(コオ)る様な恐ろしさに打たれながらも、敗北を認める訳でも無く、受け入れる訳でも無く、次々と、拒絶を示す否定の言葉を吼(ホ)えながら、罵声を浴びせて来た。





「違ウッ、違ウッ!」



「我々ガ求メテ居タノハ、コウデハ無イ!!」



「悍(オゾ)マシイ、 厭(イト)ワシイ。」



「互イニ相容レヌカラコソノ対極ナノダッ。」



「其レガ交ワリ、1ツニ成ル等、在ッテハ成ラン!」



「其レデハ、孤独ニ戻ルノト同意義ゾ!!」



「オ互イ、共ニ、反発シ合イナガラモ共存ガ出来無ケレバ無意味ナノダ……ッ。」



「デナケレバ、世界ノ均衡ハ保テナイッ!!!」



(Sköll)「違うネ。」



「ナッ!?」



(Sköll)「只単(タダタン)に、君等が、寂しがり屋の弱虫だっただけだろう?」





光から拒絶されて、孤独に成った闇。

だから、恨みながらも、こうして、戻って来た。

嵐にも似た、激しい感情を伴(トモナ)った願いを抱えて。


拒絶され、引き離されても尚(ナオ)、自身の半身である存在の傍(カタワ)らに居たいと言う望みを諦め切れずに、御託(ゴタク)を並べて、何度でも、やって来ては、縋(スガ)って来る。

“至高の存在”に見捨てられた時も、始祖神が死んだ時も、太陽の帝国と月の王国を崩壊寸前まで追い遣った時も、そして……――――こうして、何度でも諦(アキラ)め悪く、地球に襲い掛かって来る時だって、そうだ。





(Sköll)「可愛らしいネ。」



「「「…………。。。」」」



(Sköll)「惨(ミジ)めでさ。」





呑気に、そして、容易(タヤス)く、言い捨てるSköll。

見事に、図星を指された闇達は、先程までの喚(ワメ)き声が、ピタリと止んだ。


否(イナ)、Sköllの的を射た発言に、沈黙せざるを得なかった。

詰(ツ)まる所、闇達は、光達が、大好きで、憧れ的な存在なのだ。


でも、だからこそ、悔しく、憎々(ニクニク)しく、そして、妬(ネタ)ましかった。

此(コ)れぞ、まさしく、『可愛さ余って、憎さ100倍』と、言うのが妥当だろう。





(Sköll)「あり?負け犬の遠吠えは、もう良いの?じゃぁ、Hati、後始末、宜しくネ☆」





散々、敵を、引っ掻(カ)き回し、相手を完膚なきまでに、徹底的に、打ちのめした後、遊び相手が居なくなった事を確認して、SköllはHatiに、後の処理を、全て放り投げる様に、押し付けた。





(Sköll)「先に地球で、君の帰りを、待ってるヨ♪」





磔にされた侭、打ち拉(ヒシ)がれる闇達には、もう、目もくれず、Hatiの肩を軽く叩き、横側(ヨコガワ)から、すり抜けて、後ろにある地球へと、陽気に、軽く鼻唄を歌いながら、向かって行った。










And that's all
(それでおしまい…?)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ