前日譚【後編】

□初花は久遠の約束 07
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爆速3秒圏内







(Hati)「……桜の妖精ぞよね」



(Sköll)「ん?」



(Hati)「Sköllが、桜の妖精みたいだなって思ったんだぞよ。」





大方、Sköllの髪の色と、住処(スミカ)として居る此の桜の木の花の色を、結び付けたのだろう。

Sköllは突拍子も無い頓珍漢な思考回路をして居ると、常々、Hatiは小言の様に文句を言うが、Hatiだって、似た様な物だと、Sköllは思う。





(Sköll)「男の俺が?」



(Hati)「ぞよ?妖精に性別は……あると思うぞよ。」



(Sköll)「今の間は?」



(Hati)「ゔ……」





Sköll同様、知恵の樹に成った禁断の果実である林檎を食べたと言うのに、未だにHatiの頭の中は、お花畑だと、毒舌気味にSköllは評価して居る。





(Sköll)「せめて、桜人にして欲しいな。」



(Hati)「寝床にしか思って無いクセにぞよか?」



(Sköll)「花見をしてるんだヨ。」



(Hati)「ふふっ…嘘吐(ウソツ)きぞよね。」





此の世の全ての幸せを詰め込んだ様に微笑する声音(コワネ)で、そう優しく反論して来たHati。

そんな小生意気なHatiを横目にして、起き上がり、珍しく淡く微笑み、腕を翼の様に、ゆっくりと広げて、其の温かい翼に、幸せの者を静かに包んだ。


Hatiの笑いが、一瞬止まり、無言で目を見張る。

しかし、Hatiは、またクスクスと、本当に楽し気に、笑い始め、Sköllが、何が其れ程までに、楽しいのかと、謎に思った。


与える事は当然であって、与えられる事など、皆無だった。

いつもいつも、不要なゴミを入れられ、処理する様な、腐った役割を、こなす日々。

そんな世界のゴミ箱扱い的な虐げを受けて来た、此の世で、たった唯一無二の存在同士。



だからだろうか?

彼女の聲(コエ)が、聞こえ始めたのは。





(女神)『醜(ミニク)いぞよ。』



(女神)『嫌(イヤ)だぞよ。』



(女神)『もう沢山だぞよ!』





悲しさと切なさから生まれた、哀願(アイガン)の嘆(ナゲ)きに、自分には無い愛しさを感じた。

そして、同時に、腹立たしい様な、苛立つ様な、何とも言い難(ガタ)い気持ちが胸中で、グルグルと渦(ウズ)を巻いた。


それよりも難解なのは、独りを嘆き、塞(フサ)ぎ込む彼女の、其の思考と心が、少しも理解出来無かった。

けれども、彼女と会って、其れは難解でも、何でも無く、必然だったのだと、軽い驚きと、緩(ユル)やかな得心(トクシン)に満ちた。





(Hati)『Sköll』





だからだろうか?

俺が居る時は、屈託(クッタク)なく笑えるクセに、1人の時は、ぐずぐずと、泣きべそをかいて、また煩(ウルサ)く、幼子(オサナゴ)の様に呼ぶ聲がするのだ。





(Sköll)「う……ぐ」





片膝を付いた体に、また裂傷が走った。

喉をついて溢(アフ)れかけた悲鳴を、Sköllは歯を合わせて噛(カ)み殺す。


また、無数の光と闇の混合矢が、雨の如くSköllを襲った。

まだ、何とか動かせる利き腕で、既に仕込錫杖だった其処から、抜刀した血よりも濃い緋色の刃の直刀を振(フル)いまくって、8割は切り落とすが、それでも、確実に、じわじわと、劣勢に成って来て居る。





(至高の存在in?)「「全ての代償ヲ払う覚悟ハ出来タカ?」」



(Sköll)「だから、さぁ……――――ッ」





まさか、至高の存在が、“荒振神”の“闇神”と、手を結んで“混ざり合って”居たとは…。

Deus ex machinaを創ったと、情報を得た時は、裏で手を組んでる事は見抜けたが、まさか、“至高の存在”としての己をも“差し出して”居たとは、想像出来なかった。



其の点だけは、恐れ入った。

其の読みだけは、此方(コチラ)の完敗だ。



当たった2割の光と闇の呪力は、酷く醜い鈍痛を与えて来る。

臓腑(ゾウフ)と血肉(チニク)を、鉄の棒で掻き回される様な不快感に加え、爆竹(バクチク)の様に爆ぜる激痛感。



其れでも……――――。





(Hati)『Sköll』





(Sköll)「ぁ…ん…まり」



(至高の存在in闇神)「「何?」」



(Sköll)「イライラさせないで欲しいよね!!」





光が、噴き出す。

血の様に、赤く輝くソレは、Sköllを包み込み、赤い流星となって、一瞬で、至高の存在in闇神を、地球まで、吹っ飛ばした。





(Sköll)「さて、俺が誓いの塔に連れて来られてたって事は、御姫様は、差し詰(ヅ)め、祈りの塔か。全く、俺等も落ちたもんだね。平和ボケにも程がある。」





こんな事態に成って居るのは、戦いが終わりに近付き、平和が訪れる寸前での、気の緩(ユル)みが、1番の原因に他ならない。

だから、こうして、隙を突かれ、無様な醜態を晒す事態に成ってしまって居る。





(Sköll)「さて、そんじゃ、もう1発、打(ブ)ち噛(カ)まそーか♪」





先程ので、あの力の放出の仕方は、分かった。

アレをもう一発やれば、月になんて、3秒と掛からないだろう。

運が良ければ、あの至高の存在in闇神が戻って来る前に、Deus ex machinaも、俺の獲物として、独占出来る。

そう思うと、失態を犯した不愉快感など、砂の上の城の様に脆(モロ)く崩れ去り、代わりに、禍々(マガマガ)しく紅い瞳には、ただ、愉悦の色だけが宿って居た。










And that's all
(それでおしまい…?)


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