解けそうで、解けない約束事 (Sköll)「てやぁああああああっ！！」 (Hati)「……？」 ぱちゃり 突如、耳に入り込み、響き渡る声に、沈んで居た意識が浮上すると共に、水面に突っ伏した侭(ﾏﾏ)の顔を上げる。 すると同時に、目の前を、何かが降って来たと、視認した直後の事だった。 どっ！ ばばばばばばしゃんッ！！ 派手な水音が響き渡り、大水に襲われた。 滝の水と同等の、凄まじい勢いの大水だ。 しかも、其れは、何かが飛び込んだ隣の場所の真上からやって来た。 一体、何事だと水面に顔を近付ける。 すると、水面の中から現れた手に、後頭部を掴まれ、再び、水の中に引き摺り込まれた。 バチャンッ また息が止まり、声を出す暇も無く、再度、強制的に、川に呑み込まれた。 本当に何なんだと、目を開けるが、水が目に沁(ｼ)みて痛いし、咄嗟(ﾄｯｻ)の事だったので、口の中に酸素は無く、息苦しい。 視界が、ぼやけて居て、良く見えないが、漆黒(ｼｯｺｸ)の目の中に、金色の花の瞳が、僅かばかり輝いて居て、目の前の相手を映し、此方(ｺﾁﾗ)を、強く射ぬいて来る双眸(ｿｳﾎﾞｳ)。 其処(ｿｺ)で、Hatiは、春先とは言え、まだまだ冷たい水の中に２回も沈む破目(ﾊﾒ)になったのも、目が痛いのも、息苦しいのも、Sköllのせいだと、鈍い頭で、遅くながらも、理解した。 ふにゅり ゴポリッ Hatiは、Sköllから、口移しで、酸素を吹き込まれる形で、貰う。 Sköllは、変身して、戦士モードなので、呼吸どころか、視界も普段と、何ら変わりないので、問題は無い。 Hatiは、息苦しさが緩和された、安堵からか、其の侭、目の痛みからも逃れようと、瞼(ﾏﾌﾞﾀ)を下ろし、水をシャットアウトさせる。 だがしかし、Sköllは、其の動作が気に食わなかったのか、再び唇を押し付けて来て、酸素を奪いに掛かって来て、Hatiは反射的に、また目を見開いてしまった。 コポッ ポコ…ポコリ、 酸素の奪い合い。 しかし、酸素は、２人の合わさった唇同士に、隙間が出来る度(ﾀﾋﾞ)に、逃げ出し、水面の上の仲間の元へと逃げて行ってしまう。 激しい攻防の末、酸素は無く成り、結局、振り出しに戻ったのだが、目と息と頭の痛みの三重苦で、敢(ｱ)え無くダウンしたHati。 そんな、ぐったりとして、意識を再び失う寸前どころか、溺死間近まで行ったHatiを見て、満足した様子のSköllは、上機嫌でHatiを抱き締め、水中から地上へと向かって浮上した。 (Hati)「ゴホッ、ゴホッ！」 先程の遣り取りで、容赦無く、気管に入って来た水のせいで、水面から顔を出せた直後から、Hatiは派手に、咽込(ﾑｾｺ)んだ。 Sköllの足が、水中を蹴って、飛躍(ﾋﾔｸ)すると、２人は水の中から抜け出し、近くに在った川中の大きな岩の上に飛び乗る様な形で、着地した。 (Sköll)「楽しかったネ♪」 (Hati)「無かったぞよね！？苦しい事はあっても、楽しい事なんて何処(ﾄﾞｺ)にも存在しなかったぞよね！？！？」 此方は、窒息死寸前まで行ったと言うのに、一体、何処に面白かった要素があったと言うのか。 Sköllの感想に、おおいに反論の異議を唱える様に、盛大にツッコミを入れると、益々(ﾏｽﾏｽ)、Sköllのツボにハマったのか、ケラケラと笑い出した。 Hatiは、Sköllを見上げる様にして、睨(ﾆﾗ)み付けると、頬(ﾎﾎ)を膨(ﾌｸ)らませ、ツンッと、唇を尖(ﾄｶﾞ)らせては、プンプン！と、如何(ｲｶ)にも、怒ってます的な顔を作って見せる。 そんな、ふくれっ面(ﾂﾗ)に成るHatiを、Sköllは、平然と笑顔で迎え撃ちながら、Hatiの額(ﾋﾀｲ)や頬に軽く張(ﾊ)り付いて居る濡れた髪を、指で梳(ｽ)き上げて、露(ｱﾗ)わに成った額に口付けた。 (Hati)「なっ、なななななな！？何するぞよ！！？こ、こっちは怒ってるって言うのに！！」 (Sköll)「あり？誘ってるのかと思った。」 (Hati)「何故(ﾅｾﾞ)、そう思ったのか、１５文字以内で答えろぞよ！」 (Sköll)「『上目遣(ｳﾜﾒﾂﾞ)いで強請(ﾈﾀﾞ)られたからネ』」 (Hati)「ピッタリ１５文字！でも、してないぞよっ！莫迦(ﾊﾞｶ)！！」 完全に、おちょくられてる状態に、Hatiは、動揺(ﾄﾞｳﾖｳ)しながらも、顔を真っ赤にして、否定と非難の声を荒らげた。 しかし、そう大声で、がなって居ても、HatiのＨＰが減るばかりなだけで、理不尽にも、SköllのＨＰは１ポイントも減る事は無かった。 結局、Sköllが反省するまで、喚(ﾜﾒ)き続けて居たHatiだったが、一向(ｲｯｺｳ)に、其の兆候(ﾁｮｳｺｳ)が見られない事から、最終的には、Hatiが我を折る形で、此の遣り取りは、終わる。 怒鳴り続けて、疲れ果てたHatiは、Sköllの肩口に、頭を載せ、グッタリと、もたれ掛かる。 そうすると、自然な流れで、Sköllは、其の逞(ﾀｸﾏ)しい２本の腕で、Hatiの体を、包み込む様に、すっぽりと収めて、抱き締める。 細く、戦士とは思えない華奢(ｷｬｼｬ)な体は、只(ﾀﾀﾞ)でさえ、ひんやりと冷たい肌は、長い事、水に浸(ﾂ)かって居たせいで、抱き締めても、抱き締めても、とても冷たい侭。 (Hati)「……Sköll？」 (Sköll)「…………。」 急に大人しくなったSköllを、不思議に思って、名前を、呼ぶ。 其れでも、抱き締めて来る力が増すだけで、返事は、返って来ない。 Hatiは、根気良(ｺﾝｷﾖ)く、何度か呼び掛けたが、此れ以上、呼び続けると、締め殺されかねないので、止めた。 (Hati)「…………。」 (Sköll)「…………。」 暫(ｼﾊﾞﾗ)くの間、何の音も、生まれない。 そんな静寂の中、Sköllと密着した肢体(ｼﾀｲ)は、熱を感じ取って居た。 今は、普段よりも、心地良く感じるSköllの温(ﾇｸ)もりに、Hatiは、ゆるゆると、瞼(ﾏﾌﾞﾀ)を下ろして行く。 (Sköll)「まるで、酸化して赤黒く成った肉塊(ﾆｸｶｲ)の様だネ。」 (Hati)「グロテスクな表現止めるぞよ！死んでないぞよっ！死んでないぞよから！！」 恐ろし気で、物騒(ﾌﾞｯｿｳ)な表現をされた御蔭(ｵｶｹﾞ)で、微睡(ﾏﾄﾞﾛ)みかけて居た浮遊感が吹っ飛び、鈍く成って来て居た思考も、一気に、凄(ｽｻ)まじい勢いで、覚醒した。 (Sköll)「……ねぇ、」 (Hati)「な、何ぞよ？」 今度はどんな攻撃が来るのかと、身構える。 (Sköll)「抜け駆けは、駄目だよ。」 (Hati)「……ぞよ？」 意味不明で理解し難(ｶﾞﾀ)い…けれど、意味深(ｲﾐｼﾝ)で真剣なSköllの発言。 Hatiは、其れの意味を理解出来ず、不思議そうに、Sköllを見ようと、視線を上げる。 すると、吐息も触れ合う様な間近な距離で、視線が交じり合う。 Sköllの無機質で、けれど、硬質で、存在感のある眼差(ﾏﾅｻﾞ)しに、惹(ﾋ)き付けられる。 ぼーっと、魅(ﾐ)せられて居たら、自然と、しかし、小さく、かすれた声で、Hatiは呟いてしまって居た。 (Hati)「好きだぞよ。」 (Sköll)「だったら、余所見(ﾖｿﾐ)も厳禁だネ。」 ほとんど、無意識の内に零(ｺﾎﾞ)れた、小さな一言を、勿論、しっかりと、Sköllは、聞き逃す事は無く、悪戯(ｲﾀｽﾞﾗ)っぽく、笑って返した。 And that's all…？ (それでおしまい…？) |