世界は、未だに、不完全だ。 (至高の存在)「良くやった。」 地球へと帰還する途中、至高の存在と擦(ス)れ違う瞬間、褒め言葉と共に、頭をポンッと撫(ナ)でられた。 “星”を創(ツク)った後、いつもは労(ネギラ)いの言葉を、一言貰うだけで、直接、触れられたのは今回が初めてだった。 其の事に、戸惑いながらも、降り立ったのは、棲み家として居る桜の木の下。 やって居る事は、何時(イツ)もと同じなのに、何故、今回は、触れて来たのだろうと、Hatiは軽く首を、捻(ヒネ)った。 (Sköll)「おっ帰りィ〜〜〜〜〜♪」 (Hati)「ひぃィ!?」 佇(タタズ)んで居る、丁度、其の桜の木の上から、突然、降って来た声と浮遊感に、Hatiは肝(キモ)を潰す。 Hatiの前に、Sköllが、ヒラリと、身軽に降り立ち、素早く、Hatiを、ひょいっと、抱き抱える様に持ち上げた。 (Hati)「ちょっ!」 文句や反論をする暇も無く、HatiはSköllの拳(コブシ)で、グリグリと頭を撫でられた。 しかし、其の手は、直ぐ様、ピタリと止められ、代わりに、体に付いた汚い物を剥がれ落とすかの様に、パッパッと手で払う。 (Hati)「?」 そして、Sköllは、Hatiを逃げられない様に、両腕で、がっしりと力強く抱き上げる形に変えると、スタスタと無言で、早足に歩き出した。 行き場所も告げられず、連れて来られたのは、荒々しい水の声が聞こえる滝壺(タキツボ)。 嫌な予感がした。 所謂(イワユル)、第六感が働いた。 そして、物の見事に、其れは、的中した。 (Sköll)「浮気者、成敗(セイバイ)!」 (Hati)「ぞよ?」 ぽいっ ひゅーーーーー…… どッ、ぼォおおおん!!! 盛大な水音が響いた後、辺りにバラバラと、盛大に、大粒の飛沫が舞い降った。 Sköllに、情け容赦なく、高所恐怖症の人で無くとも、恐怖心を煽(アオ)る程の高さから滝壺の中へと、Hatiは放り投げられた。 Hatiは、自分の身体と水が、ぶつかり合う音と、其れに巻き込まれた空気が、ブクブクと音を立てながら、上層から下層に巻き込む水流に巻き込まれ、沈んで行く自分とは正反対に、上へ舞い上がって行く音を聞いた。 ―――― ★ ―――― SköllとHatiが去った後、残ったのは5つの“星”と、至高の存在のみ。 至高の存在は、SköllとHatiの活躍の御蔭で“誕生した惑星”に、1つ1つ順番に歩み寄り、抱き締め、撫でながら、軽く口付けを落とし、何事かを小さく呟く。 木々の囁きにも似た呟きは、其々(ソレゾレ)の惑星に名前を与えた。 名を持たせると言う事は、縛(バク)する呪(シュ)と成るが、だからこそ、其の身を護(マモ)るモノとも成り得る。 『水星』、『火星』、『木星』、『金星』、『土星』と言う名の“力”を得た惑星達は、与えられた生命の欠片を核とし、呼応(コオウ)し始める。 息衝(イキヅ)き、胎動を始めた5つの惑星達を、至高の存在は、スイ…と、流れる様な仕草(シグサ)で手を動かし、予(アラカジ)め決めて居た所定の位置へと、次々に配置して行く。 全てが片付け終わり、至高の存在は、地球へ戻ろうとして、大きく身を翻(ヒルガエ)す。 すると、目前にまで、目一杯、大きな隕石(インセキ)が物凄いスピードを伴(トモナ)って、至高の存在に、襲い掛かる様に迫(セマ)って来た。 バン! ガラガラガラガラ……――――。 素早く片手に力を込めて、前へと突き出せば、隕石は、粉々(コナゴナ)に砕け散った。 木っ端微塵(コッパミジン)にされた隕石の先には、至高の存在に向かって、害心(ガイシン)を抱(イダ)き、故意に投擲(トウテキ)した犯人の姿が、あった。 (至高の存在)「二度も同じ手は食わぬ。」 (Sköll)「其れは、残念★」 (至高の存在)「また、己の邪魔をしに来たか?無礼者。」 (Sköll)「まさか。御姫様が頑張ったモノを壊そうだなんて、野暮(ヤボ)で無粋(ブスイ)な真似(マネ)はしないヨ。」 (至高の存在)「とんと、信用ならぬ。」 (Sköll)「誓っても良いよ?“御姫様の為に造(ツク)り直した”地球に誓って。」 自分の背後に存在する地球を指差して、Sköllは、さざめき笑う。 見せつける様な、其の態度に、至高の存在は、Sköllに対して、嫌悪と不快の念が、また、一層の事、深く増した。 太陽の帝国と月の王国が、1度、滅びた様に、地球も、また、1度、滅んで居た。 Hatiは其の事を全く知らないが、至高の存在とSköllは、当事者であった為、十二分に其の出来事を良く知って居るし、覚えて居る。 戦士としてのSköllに成る前、太陽の帝国を滅ぼした純陽(ジュンヨウ)の王子様は、まず先に、地球へと巨大な隕石を先程、至高の存在にした様に、衝突させ、当時、生息して居た生き物達を絶滅に追い遣ったのだ。 月の王国から1歩たりとも出ない、引き籠りの純陰(ジュンイン)の御姫様と違い、純陽の王子様は、良く、太陽の帝国を抜け出しては、地球に、ちょくちょく降り立って居ては、≪恐竜≫と後世に呼ばれる生き物達と、じゃれ合って居た。 其の当時、至高の存在とSköllの仲は、悪く無かった。 分かり易(ヤス)く例えるなら、聞かん坊な孫と、其れを呆れながらも見守る祖父母(ソフボ)の関係…と、言った所だろうか。 だが、其の関係は、純陽の王子様に因(ヨ)る、突然の反乱により、破綻(ハタン)する。 故郷である太陽の帝国を滅ぼし、地球目掛けて隕石を投げ飛ばし、親しかった恐竜達を絶滅させ、至高の存在に牙を剥(ム)き、最終的には戦士の証をも、もぎ取った。 何が、彼を変えてしまったのか。 朝だと言うのに、辺りは、塵や岩石が大気に舞い上がったせいで、とても暗くて、空は何度も光って、ゴロゴロ唸(ウナ)って居る。 森林火災が発生し、恐竜達は生きた侭、焼かれ死に、恵の雨は中々降り出さず、代わりに、硫酸の雨が、隕石の衝突で蒸発した岩石が凝結して出来た、スフェルールと共に降り注ぐ、とてもとても、不気味な朝。 そんな朝に、“Sköll”は、爆誕(バクタン)した。 自らの最愛の子の子である末子(マツシ)の残虐非道な豹変振(ヒョウヘンブ)りに、至高の存在は、激しく戸惑い、嘆き、憤(イキドオ)った。 至高の存在の口は、Sköllに対する罵詈雑言(バリゾウゴン)を叫び浴びせるが、其の自分の声が、言葉達が、頭の芯(シン)で、ガンガンと、喧(ヤカマ)しく反響し、自分にも牙を剥く。 そんなパニック状態に陥って居る至高の存在と、目を合わせながら、唇に薄い笑みを浮かべ続けるSköll。 小さな仕種(シグサ)だが、至高の存在は、此の惨憺(サンタン)たる現状と混乱する心情に勝るとも劣らない、言い様の無い悪寒(オカン)を覚えた。 (Sköll)「此の勝負に勝てるのは、俺だけだよ。」 年相応の抑揚(ヨクヨウ)を持った声では無く、妙に大人びた口調で、そう呟く。 (Sköll)「俺は別に、あの環境の侭でも良かったんだけどさ、それじゃぁ、きっと駄目なんだよね。」 Sköllは、未だに暗い空の下で、西の方を見上げる。 反対側の東の方向では、暗い空の上から、太陽が顔を覗かせてる頃合いだろう。 では、Sköllが見上げて居る西の空には、何があるだろう? 恐(オソ)らくは、月。 月は、太陽と同じく、東から昇って、西に沈み往くものだ。 だったら、東に太陽が昇って来て居る筈なら、月は西側に沈み往く時間帯の筈だ。 なら、Sköllの目的は……――――。。。 最悪の事態が、頭に思い浮かぶ。 しかし、其れは、単なる憶測にしか過ぎない。 そして、其れを、違うと否定するだけの証も、根拠も無い。 だが、己の第六感は、最悪の事態を肯定するかの様に、早期警戒警報を発令し続けて居る。 (Sköll)「だから、造り替えよう。そしたら、迎えに行く。うん、我ながら、完璧じゃない?」 迷って居る暇は無い。 ならばと、決意を新たに固め、グッと拳を握り締める。 (至高の存在)「此の代償(ダイショウ)は、必ず払って貰うぞ。」 And that's all…? (それでおしまい…?) |