安らぎあれ 光りは、光明。 闇は、暗がり。 「我ガ兄弟ヨ!何故、裏切ッタノダ?」 「何故ダ、何故、今更ニ成ッテ、我等ヲ拒ム。」 「光アル処ニ闇ハアリ、闇アル処ニ光ハアル。」 「闇ハ光ヲ、光ハ闇ヲ呼ビ、呼応シ合イ、惹キ合ウ。」 「光ト闇ガ手ヲ取リ合ウ事ハ、必然デアリ、元カラ定メラレタ運命ナノダ。」 光と闇。 表と裏。 静と動。 陰と陽。 天と地。 生と死。 不動と能動。 静止と流転。 永遠と一瞬。 栄光と衰退。 誕生と消滅。 創造と破壊。 廻る対の二極は、何方(ドチラ)か、一方が欠けてしまっては、存在する事が出来無い。 「貴様達モ、良ク知ッテ居ル筈ダ。」 「アノ忌々シイ裏切者ヲ筆頭(ヒットウ)ニ、貴様等ノ故郷、ソシテ、貴様等自身ノ中ニモアル、光ト闇ノ存在ヲ……――――ッ!!」 月。 太陰(タイイン)。 “至高の存在”の『祈り』の結晶の成れの果て。 時を同じくして、創られた男神と、対を成す存在の、女神。 冠(カン)された名を、月読命(ツクヨミノミコト)。 天照大神(アマテラスオオミカミ)の、宿命の片翼(ベターハーフ)。 月読命から祝福を受けし、月の女神達には、不思議な力が、ある。 其れ故(ユエ)か否(イナ)か、月読命のヨクヨミに、『月“黄泉”』の字を当てる例えが、ある。 月は、『死気(シキ)』を司る。 月は、霊魂の水先案内人。 此の銀色の錫杖には、其の、内に蓄えた静かなエネルギーが、満ちて居る。 逆に、Sköllの持つ金色の仕込錫杖にも、天照大神から祝福を受けし、不思議な力が、宿って居る。 日。 太陽。 “至高の存在”の『誓い』の結晶の成れの果て。 時を同じくして、創られた女神と、対を成す存在の、男神。 冠された名を、天照大神。 月読命の、宿命の片翼。 太陽は、『旺気(オウキ)』を司る。 そして、Sköllの纏う気の色は“赤”。 赤は、『血』。 すなわち、生命の根源を象徴する色。 故に、魔を祓(ハラ)う力が、ある。 そして、其の力を最大限に発揮するのに、使用された、最適の呪術具(ジュジュツグ)の器である剣での攻撃で、闇達の邪気や魔の力は、完全に、祓われた。 後は、仕上げだけ。 Hatiは、頭の中で、そう、確認する。 両手で錫杖を、しっかりと持ち直し、其の先で、磔にされて居る5体の闇を次々に指して行く。 (Hati)「『死神』、『邪神』、『悪神』、『暴神』、『魔神』の荒振神々(アラブルカミガミ)の名を自らに冠した闇の怨霊達(オンリョウタチ)よ、汝等(ナンジラ)の御魂(ミタマ)を、御霊(ゴリョウ)として、迎え入れん。」 Sköllの様に、言葉巧みな話術で、相手を論破し、糾弾する必要は無い。 何故ならば、彼等の孤独な心は、“至高の存在”と、全く同じモノで、かつて、Hatiも抱いて居た心へも、通じて、感じ取って居た。 砕かれた関係が、再び元通りに成る瞬間を、待ち焦がれて居た。 でも、其れ以上に、果てしない悠久の孤独を埋める手段を見つけたからこそ、“ソレ”を、我が物にせんと、手に入れる為に抗(アラガ)って居る。 (Hati)「“星”と成り、世の為、身の為、理を成す為、身も心も清々しく、祓(ハラ)へ給へ、清め給へ、守り給へ、幸(サキハ)へ給へと、恐(カシコ)み恐みも白(マオ)す。」 錫杖の先で、五芒星(ゴボウセイ)を描く。 浮かび上がった、其れを、5つに分断する。 分割された、星の紋(モン)の欠片(カケラ)達は、其々(ソレゾレ)、姿を変える。 1つ目の欠片は、春の『生気(セイキ)』を宿す種に。 2つ目の欠片は、夏の『旺気』を宿す火に。 3つ目の欠片は、秋の『老気(ロウキ)』を宿す石に。 4つ目の欠片は、冬の『死気』を宿す雫に。 5つ目の欠片は、土用の『神気』を宿す土塊(ツチクレ)に。 其れ等は、宙を翔け、磔にされて居る闇達の各々(オノオノ)の額に、張り付いた。 途端(トタン)、荒振神々から、肌が粟立(アワダ)つ程の不気味な断末魔の叫びの咆哮(ホウコウ)が、上がった。 荒振神々の額を中心に、辺りは、青、赤、白、黒、黄の光で、順々に染まり、満(ミ)ち溢(アフ)れて行く。 荒振神々の意識は、眩(マバユ)い光に導かれて往き、やがては、懐かしい微睡(マドロ)みの感覚に身を委(ユダ)ねる様にして、包み込まれた後に、溶(ト)けて、弾けた。 そうして、5つの“星”が、生まれた……――――。 Hatiは、静かに指で十字を切り、両手を組んで、星々と成った闇達を瞳の奥に閉じ込める様に、瞼を伏せ、新たな星の誕生を告げる光景へと、祈りを捧げた。 And that's all…? (それでおしまい…?) |