jeongtzu

□タピオカ
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ミルクティの甘さは控えめの方が良い。
タピオカの黒糖の味が引き立つから。

氷は少なめの方がいい。
私はゆっくり飲みたい派、
溶けてしまっては困るから。

タピオカの種類は黒糖が良い。
甘くて柔らかいものが好きなの。




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やっとの思いでテストを終えて、疲れた身体で向かう先はいつもの喫茶店。今日彼女はいるのだろうか。夏休みだからほとんどバイトに入ってるんだ、とテーブルを拭きながら話していたことを思い出す。いるといいな。


カランカラン、とドアベルを鳴って
店に入れば



「いらっしゃいま、、ツウィ!」



あ、いた。
嬉しくなって頬が分かりやすく緩む。

今は空いてるから好きなとこ座って、と施されて私はカウンターの席に座った。お客さんが少ない時はここが私の特等席。


親がこの店のオーナーをしているということで、昔からよく来ていた店だ。すぐそこに大好きな母の姿があったから、ちょっと疲れた時、勉強したい時、頻繁に訪れていた。
けれど半年前、大学生の人がアルバイトをしに来て、私はその人に一目惚れをしてしまった。アルバイトは沢山いるし、顔を合わせば挨拶をする程度だったけれど、この人は違った。

気さくに誰にでも話しかけるような人、私にも、勿論他の常連客にも。
彼女はすごく綺麗だったから、彼女目的に来る人も少なくなかった。綺麗だけど大雑把で
、面白いことがあると大声で笑って、慌てて口を押さえているような人。見た目とのギャップに老若男女問わず彼女は好かれた。

そして私をオーナーの娘というだけで、私に必要以上に優しくしてくれる。この人は誰にでも優しいから、勘違いをしてはいけない、と彼女に会うたびに自分に言い聞かせる。




「はい、いつもの」



コースターの上に置かれた昔から私の好きなタピオカミルクティ。台湾から直輸入しているもちもちのタピオカは、ここの喫茶店の看板メニューだ。



「ありがとう、ございます」

「うん、テスト出来た?」



コップをきゅ、と丁寧に拭きながら
私に尋ねる彼女。



「はい、やっと今日から夏休なんです」

「夏休み?やったじゃん」

「ふふ」

「毎日会えるね」


目線だけ私に向けられて柔らかく微笑む。小さく頷いたら彼女も私の反応に満足したように笑顔を浮かべて、また目線は下に戻された。

本当にその気にさせるような言葉はやめてほしい。気のせいだ、勘違いするな、そう言い聞かせるのにも疲れるんだ。

今日も私達は他愛も無い話をするだけ。
それだけでも、私の心は彼女の手に掛かれば呆気なく癒される。今みたいに急にどきりとすることを言われなければ、だけど。

成績の話、夏休みの話、クラスメイトの話、
へえそうなんだって何でも聞いてくれる柔らかな笑顔に癒されていれば、時間は一瞬で過ぎて行く。


カランカラン、
と私達の会話に終止符を打つかのように聞こえて来るドアベルの音と女子高生達の声。

ああ、確かあの子達は…

前、この女子高生達が初めてこの喫茶店に来たときに、私も宿題しがてら彼女に会いに来ていた。その日も人は少なくて、女子高生達は真剣に部活のことを話していて、彼女に相談し始めたのだ。それから彼女を気に入ったのか、また今日も同じ面子で来ている。


「お姉さん!また来ちゃった」

「待ってたよ、ありがと」



本当に待ってたの?
そう思いながらも、こんなことは日常茶飯事。冷静に受け流してみるけれど



「お姉さんも今度試合観に来てよ」

「いいの?行く行く!」




…え?



耳を疑った。お姉さんのお陰でうちらの悩みも解決出来たしさ〜、と続ける活発そうな女子高生達。ここで来て話をするだけならまだしも、他の場所で会うなんて、初めて聞いたかもしれない。いや、もしかしたら今までもあって私が知らなかったのか。

驚いて固まって、ストローから口を離したことで吸い上げたタピオカは虚しくグラスの中へ逆戻りしていく。


「ごめん、何の話してたっけ?」


ドリンクをテキパキと作って席へ持って行き、戻ってきた彼女が私の顔を覗き込む。


「…今日はもう、帰ります」

「…ありゃ、そっか」


少し残念そうな表情も、夏休みエンジョイするんだぞって後ろから追いかけてくる声も、今は見たくも聞きたくも無い。
適当に手を振って私は店を後にした。

相談事をすれば、もっと親密な仲になれるのかな。お店以外でも会えるのかな。

彼女にとって私は一番じゃない、
ただのオーナーの娘、それだけなんだ。





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