ベストウイッシュ!

□エピソード1
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「はぁ〜。ねっむぃ」


ここはシンオウ地方のシンジ湖。
シンジ湖のほとり。
近くにはナナカマド博士の研究所のあるマサゴタウン。
海に面したのどかな田舎町だ。
シンジ湖はマサゴタウンとフタバタウンをつなぐ道を少し外れたところの森の奥にある。
しんと静まり返り、聞こえるのはムックルたちのさえずりや、野生ポケモンのじゃれる声のみ。
あと、アランのあくび。
湖のほとりで足を水につけながら草の上に寝転がるアランの少し離れた木々の間にはアリアドスが巣を作ってこちらを見ている。
そばでは、ハピナスのセランがクッキーとお茶を、持ってきた小さい折りたたみテーブルの上に広げていた。
ここにくると無になれる。

ホウエンでの旅を終えたアランは一度、シンオウに帰ることにした。
帰って早々、ナナカマド博士に連絡をしなかったことを散々怒られ、怒られついでに居候の条件である旅のレポートを滞在中に提出するようにと宿題を出された。
次の旅にいつ出るかは分からないが、のんびりと書いてる訳にもいかず、研究所で研究の手伝いをしながらパソコンとにらめっこしていた。
だが、ついに集中が切れてしまい気分転換に、セランと共にここへと遊びに来たのだ。

今日に限ったことではなくて、シンオウに帰ってくると気分転換と、シンジ湖に住むという伝説のポケモン「エムリット」に会うために来る。
一度だって会えたことは無い。
当然だ。
伝説のポケモンというくらいだから、簡単に姿は現してはくれないだろう。
毎回ここに来てるんだからそろそろ顔くらい覚えて欲しいとさえ思ってしまうが。
この距離感がいいのだ。


「ハピィ〜」
「モーモーミルクティ淹れてくれたの?じゃあ、頂くわね」


寝転がる主人の頭をつんつんと触って、お茶ができたと知らせた。
セランが淹れたモーモーミルクを入れたミルクティ、通称モーモーミルクティを嗜みながらクッキーを2人で頬張った。

夕日がテンガン山の向こうに沈みかけているのか。
陽が陰り、森の中であるシンジ湖のそよ風が少し肌寒いと感じられるようになった。
もう少しのんびりしたら、研究所に帰るとしよう。

今だけは、ここにいる時だけは、何も考えずに。


最後に残った1枚のクッキーを半分に割って、セランと仲良く食べながらそう思った。



そんな2人の様子を、こっそりと遠くの木の影から見ていたものがいた事を知っているのは誰もいない。
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