白執事

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2時間が経過




少女の持つ駒が、カタリと音を立ててチェスボードに置かれる





「チェックメイト……」





唖然と、呆然と
目を見開きながら固まる少年に、少女はゆっくりと視線を向ける






「僕が……負けた?」





「……チェスなんて……ただの、マルバツゲーム……」






悔しそうに唇をかむ少年に、少女は静かに言葉を放つ






「私の、勝ち……」






「……クソッ!
……しかたない、ゲームはゲームだ。お前が望むものはなんだ」





それが少年の命というのならば、ゲームなど関係なく
男がその少女の喉を掻き切るだろう





「……私を、貴方の屋敷に……置いて………」






「は……?」






驚いたように、聞き返すように
少女を見つめる少年と男



その2人の表情を知ってか知らずか、少女は話し続ける






「期限はなし……かわりに、使用人でもいい……。
危害は、与えない……。



あなたの、力にも…なる」






「……それだけでいいのか」






疑う様に、目を細めながら問う少年に
少女はゆっくりと首を縦に振る






「それだけ……」






「……いいだろう。お前の要求を呑んでやる」





フッ、と諦めた様子で瞼を伏せる少年


その言葉を聞いて少女はふわりと椅子からおりる






「聞きたいこと、は……?」






「は?」






「あなたが、欲しい情報……教える……。



賭けをしたのは…逃げる場所、確保したかったから……」






ジッ、と少年を見つめて
時間がないと付け加える






「時間がない……だと?」






「監視、カメラ……。
今は、私が寝てる映像に…すり替えてる……。


でも、そろそろ…気づかれる……」






天井の角を指さして、語る少女に
少年は男に怒鳴りつける






「お前ッ!まさか気づいていたのか!?」





「ええ。もちろん。


坊ちゃんも気づいておいでかと思ったのですが……違いましたか」





フッ、と笑っているようで
見下しているような男に、少年の額に血管が浮き出る





「気づいたらすぐに言え……いいな…」





「イエス、マイロード」





腰を折って、お辞儀をする男に目もくれず
少年は少女に問いかけた





「こちらが望む情報は……この施設についてだ」






「ん……。




この施設は…人体実験所」





ゆっくりと、少年の瞼が見開かれる






「捨て子や、攫ってきた子に……動物の血や、薬を…注射したり……


多すぎる情報を脳に流したり……戦闘訓練をさせたり……



生物の、兵器製作を目的としてる……」






チェスボードに乗ったポーンの駒を手の中で転がし、指で遊ぶ





「でも……その内容に耐えられたるのはごく僅か……



私以外に、いない……」






「それはつまり……」





瞼を伏せて、コクリと首を縦に振る





「耐えられなくなった子は……死んだ」





ある者は体が耐えられなくなり、拒否反応を起こした





ある者は、多すぎる情報量に発狂した





ある者は、戦闘訓練についてゆけず動かなくなった






その者たちの結末は、すべて死へと繋がった






「私は……すべての実験に耐えた上で、体が適応した………。



代わりに、人間とは程遠い……生物兵器になった」





遊んでいたポーンをチェスボードに置いて、少年に視線をよこすと
そのまま扉まで歩んでゆく





「来て……歩きながら、話す………」






扉を開ける少女の背中を見つめて、少年と男は静かに歩みを進めた
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