狩物語

□03
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「ん……」


来た時よりも少し騒がしい音に
私は伏せていた瞼を開いた


そこにはざっと見ても300人以上はいる人間


寝てから何時間たったのかは分らないが
随分時間が過ぎたようだ



私は座りっぱなしで固まってしまった筋肉を伸ばすべく
地から腰を上げて腕を真上にあげて体を伸ばす



「ん、ん〜!
いやー、よく寝た!」


対して大きい声ではなかったが
ピリピリしているこの場の空気ではすぐに気がついてしまうようで


鋭い視線を向けられた


まあわかりきっていたことではあるので大して気にする気もない



「やっと起きたのか!
嬢ちゃん、新顔だろ?」


「おや?」


声のする方に視線を向ければ
そこに立っていたのは、横にふくよかな男性


新人つぶしのトンパ


初対面で彼に会えば大抵騙される人が多いのだろう


何せ最初の印象はフレンドリーでなおかつ警戒させない柔らかな雰囲気


ピリピリと空気の張りつめたこの場所で
唯一気軽に話しかけてくれる人材


人によっては警戒するのだろうが半数近くは騙されるのだろう



まあ何はともあれ、私はこの物語を知っているわけで
この人物も知っているのだ


「私のことがわかるのか?」



「まあね。何しろ俺、もう35回もテスト受けてるから」


ニコニコと人当たりの良い笑顔でこちらに歩み寄る彼


「35回も!それはそれは!先輩ということだな!」


「ははっ!そう言われると照れる者もあるけど、まあ試験のベテランというわけだよ!」


威張れることではないのだけれど



「わからないことがあったら、何でも聞いてくれ!」


「ほう。それは助かる!なにしろ、試験を受けようと考えたのはつい最近のことなので、下調べもしていなくて……頼もしいよ!」


こちらも、完璧な作り笑顔というわけではないが


人当たりの良い笑顔で答えた



「俺はトンパってんだ!」


「これはこれはご丁寧に!
私はスルガだ!」



「スルガか!良い名前じゃないか!」


「ははっ!そう言ってもらえて嬉しいよ!」


私がそこまで言うと、トンパは思い出したように手を叩いた



「あ、そうそう。さっき君が来た時に渡そうと思ってたんだけど
スルガ、ついたらすぐに寝ちまってたからさ、ほい。

お近づきのしるしに、一本やるよ」


そういって、オレンジジュースのラベルの付いた缶ジュースを私に渡してきた


周りをよく見てみれば数名の志願者たちがニヤニヤと笑いながらこちらを見ている


大方潰されると思ってあざ笑っているのだろう



しかし、中に強力な下剤が仕込まれているのは知っているし


そこらで手に入る簡単な毒などは私には効かないのだ



まあ、今の私はいわゆるチートと呼ばれるものなのだ
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