雑多

□確かに仲間だったのに
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兄・カラスミが死んでしまったことに深い悲しみを露にしたアンチョビにコロッケやリゾットも自らの境遇と重ね合わせ、寄り添います。
彼らはカラスミ・アンチョビ兄弟がそれぞれ親や故郷の仇であるという事実はひとまず置いておいてカラスミを生き返らせようと協力します。
そして彼らの意思を汲んで、仲間たちは禁貨を差し出し、ピザの斜塔まで禁貨を求め、裏バンカーサバイバルに挑むこととなりました。
それはT-ボーンも同じだったと思います。

しかし、このラストバトルにおける彼らのふるまいを見ると、T-ボーンとコロッケ・リゾットとは決定的な距離があります。


T-ボーンがバンカーバトルに対して肯定的・積極的であることはだ〜れだ大会でも語られています。
対タンタンメン戦で「張り切っていくっぺよー!」と明るく意気込む彼は、仲間の故郷を賭けた大会の先鋒戦にも怖気づくことはありません。
どんな戦いであろうと一生懸命に戦い、時には村一番の腕だと自負する木登りや砂潜りなどの特技を披露するT-ボーン。
いつも「みんながリゾットを助けるから自分も助ける、みんながピザの斜塔に行くから自分も行く」と周りに着いて行動し、基本的にずーっと寝ていて意思表示をしていないT-ボーンが、バトルの時だけ、仲間たちみんなの意向ではなく自分自身の態度を示していた。
アンチョビに対してもT-ボーンは迷うことなく戦闘を開始します。
T-ボーンにとっては雪辱戦でもあるので張り切っているのが窺えます。
コロッケが脱落しそうになった時に心から悔しそうに顔をしかめた彼は、文字通り命懸けの戦いと把握していながら、思いきり戦うと言ったのです。
何故か。

それは、いつも眠ってしまうT-ボーンにとってはバンカーバトルこそが数少ないコミュニケーションだからです。
T-ボーンは対戦相手と、アンチョビと、バトルによって思いを交わそうとしていた。
このような形でしかコミュニケーションを取ることが出来ないからです。


でも、アンチョビはT-ボーンを犬に変身させます。
それはアンチョビにとって「最強の状態である犬のT-ボーンに勝利してこそ真の意味での制圧」だからです。
リゾットは「オレたちへのアンチョビなりの恩返しではないか」と言っていますが、T-ボーンのことは何も言ってません。

で、T-ボーンはどうだったか。
変身している間の記憶は元に戻った際にはすっぽりと抜け落ちています。ということは、犬状態と人間時は別の人格と考えられます。
アンチョビと思いっきり戦うことを望んでいるのは人間T-ボーンなのに、アンチョビが戦いたいのは犬に変身したT-ボーンでした。
これは今までもずっとそうでした。バンカーサバイバルのコロッケも偽T-ボーンに犬へ変身することを望んでいました。まるで人間T-ボーンなど眼中にないかのように。
タンタンメン戦の序盤でコロッケとキャベツはステージ上で砂遊びをしていました。T-ボーンの応援はそっちのけで。
実際この裏バンカーサバイバルでもコロッケ・リゾット・T-ボーンの組み合わせ自体に馴染みのなかった読者様が大半だと思いますし、リゾットがT-ボーンを主催者だと早合点するシーンさえありました。
確かに犬のT-ボーンは10倍強くて外見も愛らしく誰も敵わない。誰もが色めき立ちます。
逆に言うと、変身していない人間T-ボーンにスポットが当たることはほぼありません。
そして変身している間は人間の人格は戦って自己表現することが出来ません。

コロッケやアンチョビはT-ボーンを犬に変身させることが彼の自己表現の拒否になり得るという側面を考えなかった。
自分が強いT-ボーンと戦えればいいのだと思っていた。

T-ボーンは実は仲間たちと距離を置いているように見えます。
その理由があるとすれば、周りのみんなが自分に関心がないと思ってしまったことが一つではないかと思えます。


それらを踏まえた上で最後のT-ボーンの言葉。
「何年かかってでもみんなを生き返らせるっぺ! オラは最後でいいから…。」
「だってオラ、寝てるの大好きだっぺから……。」
それだけ言い残し笑顔で落ちていくT-ボーンを黙って見ていることしか出来ないコロッケたち。

残酷だけど「そりゃそうなるよね」としか言えない。



T-ボーンは残された3人には自分よりももっと大切な存在が他にいると思っています。
そして、いつも眠ってしまう自分の前から誰1人欠けてはならないと思っている。
その思いから、自分を最後でいいと言ったのです。
そんな彼の思いは優しいけれど同時にとても残酷です。たとえ一番ではなくとも、この3人にとってはT-ボーンもまた大切な仲間であることに変わりはないのですから。
でも3人は誰ひとりとしてT-ボーンを最優先にできなかったのです。
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