sleep

□春の日差しが射し込む昼下がり
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カタカタカタカタ…



昼食後の穏やかな日が射し込む捜査本部。
快適な空調で整備されたこの部屋に、キーボードをタイピングする音だけが響いていた。


(眠い…)


眠気を誘うには十分すぎる条件ばかりで先程から私は重い瞼を必死に持ち上げて目の前の資料に目を通していた。


黙々と何やらPCに入力する模擬さん。
睡魔に負けた松田さんは完全に舟を漕いでいるが…
隣の夜神局長の表情が険しくて、ああやっぱりここは頑張るしかないと思った。


大きな窓の外はそれはそれは気持ちいい程の青空で
外に出て太陽の陽を浴びながらお昼寝できたら、どんなに気持ちいいことか。そんな叶わぬことを妄想をしていても、目の前には山積みの資料。ワタリさんが纏めてくれたこの大量の資料は、今日一日で目を通すことになっているもので、一気に現実に引き戻されてしまい、ため息を飲み込むように目の前の紅茶を口に含んだ。




そんな仕事に没頭する昼下がり、部屋の異変にいち速く気付いたのは好青年の天才だった。


「………なぁ、竜崎」
「…なんですか」
「何か、臭くないか…?」

確かに、何となく、否徐々にはっきりと分かる異臭
この鼻を付くような独特の臭いは……



「お前、おならしただろ」



そう、これは所謂「おなら」の臭い。しかも、かなり強烈な。
気づいた時には部屋中に充満していて、局長は眉間の皺を更に深くして、いつの間にか起きた松田さんは手で臭い臭いと払うように扇いでいる。

「本当だ!うわっ、クサ…ッ!!ちょっと竜崎勘弁してくださいよ〜!」
「竜崎…席を立つ時間も惜しい程忙しいのは分かるが、少しは周りのことを考えてくれたらありがたいんだが…」

そして、疑惑をかけられたのは月くんの横に座るもう一人の天才、竜崎だった

「失礼ですね。私じゃありません」

心外です、そう月くんをジロッと睨みながら呟いた竜崎に、「ハッ」と笑ったあと外国人さながら肩を竦めて自身に満ちた表情の月くん。
二人が動くたびに繋がれた手錠の鎖がジャラリと音を立てている。

「おい嘘つくなよ。どう考えてもお前の方から臭いがしてるんだから、正直に言えよ。全く、男らしくないな」
「私ではありません。大体こういうのは言い出しっぺが一番怪しいんですよ。私に罪を被せようとしているだけであって、本当は月くんなんじゃないですか?」
「ハハハッ、馬鹿を言うなよ竜崎。この僕がこんな場所でおならなんてするわけないだろ!そもそも僕はこんなに臭くないよ」
「そうですか?この前ミサさんと3人でお茶をしていたときも私に罪を擦り付けていましたよね。あれは本当に酷かったですし、…何よりこの何倍も臭かったです…」
「お、おい!竜崎…!それは言わないことになっていた筈だぞ…!違うんだ、名無しさんさん!!これは誤解なんだ!竜崎が僕を陥れようとしている罠なんだ…!」
「えっ、えええ?」
「名無しさんさん信じないでください。月くんという人間は悪びれることもなく人に罪を擦り付ける人間なんです。ちなみにおならは強烈に臭いんです」
「おい竜崎!ふざけろよ!」
「月くんこそいい加減にしてください。お陰で私、ミサさんから会うたびに誂われてるんですよ!」
「そ…それは悪いと思っているけれど、それはそれで今のは僕じゃない!」

あ…月くん、前回本当に竜崎に擦り付けたんだ。
衝撃的な事実を知り、少し否かなり引いていたら何やらジャラジャラと近づいてくる鎖の音



「名無しさんさん!!!」
「は、はい!?」



気がつくと目の前に、恐ろしく厳粛した顔の二人


「「私と(僕と)どっちを信じますか!?」」



「え…えっと」


目の前で繰り広げられる至極どうでもいい言い争い

いつの間にか眠気はなくなり、目の前の天才二人に私はもう我慢の限界だった
だって、世界の切り札って言われている天才がおなら?
このイケメンで非の打ち所がない天才がおならの罪を擦り付けた?

もう、だめ…


「ぷっ、ははは!」
「名無しさんさん!」
「名無しさんさん…」
「もう、二人ともおかしくて…ごめんなさい…ぷっ!」
「「………」」
「ま、取り敢えず換気しましょうか」
「「………」」


それじゃあ答えになっていない、そんな視線に気づかないフリをして私は窓を開けた。


風が頬に当たって擽ったい。眼下に見えるは揺れる淡い可愛らしいピンク色。季節はすっかり春だ。

眠気も落ち着いたところだし、さあ、午後からもお仕事頑張りますか。


まだまだ小競り合いが止まらない竜崎と月くん。
また舟を漕ぎ出しそうな松田さんに険しい顔の局長。
黙々とPCに入力する模擬さん。
この時後ろに座る相澤さんがずっと下を向いて、申し訳なさそうな顔をしていたのなんて私は知る由もなく。

こんな穏やかな昼下がりもたまには悪くない、そう思うのであった。





end


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