sleep
□にゃんこパラダイス2
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目が覚めると部屋は眠る前と同じように暗かった。
違うのは、抱き締めていたはずのえるが見当たらなくて、目の前に竜崎がいるということ。
「起きましたか?」
私の気配を察したのか、隈に縁取られた2つの瞳が私を覗き込んだ。
「いつ間に来てたの?」
「30分くらい前でしょうか」
「…起こしてくれればよかったのに」
あんなに気持ち良さそうに寝てたら起こせません、なんて笑うから頬が熱くなる。いつから見てたのよ、寝顔。
「あ、そういえば…えるは?」
「………える?」
「そう、竜崎が連れてきたんでしょ。あの猫」
「あぁ、あの猫ですか。まぁ、そうですね。…名前は敢えて突っ込みませんが……あの猫は今は本部にいます」
「えぇ?なんで?」
「………あなたが気にするようなことではありません。きっと月くん…いや、松田辺りが面倒を見てくれているでしょう」
「…………ふーん」
まただ。どうせ私に話す必要もないんでしょ。どうせ私には。
すると、何を思ったのか竜崎がふっと笑った。
「…何よ」
「いえ。…名無しさんは、月くんたちが嫌いですか?」
「え?別に…というか会ったことないから嫌いかどうかなんて分かんないよ」
「…そうですか。その割に、彼らの話をすると名無しさんの表情は固くなりますね」
そこまで話すと竜崎は業とらしく手をぽんっと叩き、妬きもちと言うものでしょうか?なんてすっとぼけたことを言いのけた。
「な…っ、そんなわけ、…ないでしょ!」
手近にあったクッションを投げつけるけど、ふかふかのそれはちょっと力をいれて投げるくらいじゃなんの意味も持たない。
ぽふんっ 柔らかく竜崎の顔に当たってはベッドにふわりと落ちたそれを私は恨めしそうに眺めた。
妬きもち……
確かに妬きもちかもしれない。自分だけ茅の外に追いやられたような
私の知らない話ばかり、私の知らない竜崎の話ばかりで
でも、それを敢えて口にする?
「もう知らない。竜崎なんて」
本当、意地悪だわ。
ベッドから起き上がり、リビングのソファに腰かける。
それを追うようにのそのそと竜崎が付いてきて、私の横に膝を抱えて座り始めた。
いまはこっちに来ないで欲しい。
「竜崎ってこんなだっけ?なんか雰囲気変わったんじゃない?」
「そうでしょうか?自覚はありませんが…」
「そうなの!何年竜崎と一緒にいると思ってるの?大体、竜崎はね……」
きっとまたあのとぼけたような意地の悪い笑みを浮かべていると思っていたのに、思いの外竜崎は優しく笑っていて言葉に詰まってしまった。
「だとしたら、それはあなたのせいかもしれません」
「は、はぁ?私は別に…」
「いえ、他者との関わりをあなたが教えくれたから、私はあの方たちと接することができているんですよ」
あなたと出会う前の私は、どうでしたか?
その言葉に胸がチクリと痛んだ。
私と出会う前の竜崎
忘れることも出来ないあの頃の姿は今でも鮮明に思い出せる
塞ぎ込み、一人で生きていた彼
世界の切り札という重圧を一人、その背に背負った「L」
まるで冷たく無機質な、人間の形をした「L」は、今でもずっと私の胸の奥深く暗いところで眠っている。
「あなたが愛すること、それを教えてくれたからですよ」
そんや人がこんなに柔らかく笑う姿なんて、あのとき想像できただろうか
「確かにあの方たちと出会って、少し変わったかもしれません。でも忘れないでください。全ては、あなたが始まりだと言うことを」
「ん……」
「分かればいいんです」
「…何よそれ」
猫みたいに目を細めて笑う竜崎を見て、
今はただ、この隣の距離ですらもどかしく感じてしまうだけだった。