sleep

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あれから何度か痛み止めを打ち、朝を迎える頃にはだいぶ我慢できるくらいのものになってきたようで、301号室のナースコールが鳴らなくなった。やっと眠りについたんだろう。





ーーー「オイラとそんなに年変わんないだろ」




デイダラくんが言っていた言葉を思い出し、思わずにやけてしまう。
18の少年とそんなに年変わらないって、何歳くらいに見えていたんだろうか。
確実に年齢よりも下に見えていたんだろう。
生意気な少年にも、もう少し優しくしよう、そう思った。








朝の巡回も終え、ステーション内で記録をしていると、人の気配がして振り向いた。


「………先生。おはようございます」
「あぁ、おはよう。名無しさん、二人のときはその呼び方は、よせ…」
「…二人のときって、ここ職場ですけど」
「名無しさんに先生と呼ばれるのはいつまで経っても慣れんものだな」
「はぁ…もう一年以上経つんだから慣れてよ、イタチ先生」



まだ7時だというのに出勤してきたのは、整形外科医のイタチ先生だった。
イタチ先生、なんて呼んでるけど彼とは幼馴染みで実家も隣通し、腐れ縁というやつだ。
大学に入るのをきっかけにお互い独り暮らしを始め、その後は殆ど会うことがなかったのだが、去年イタチがここの病院へ配属され、再会を果たした。看護師と、医師として。
…それも同じ病棟とは、一体なんの縁なのか。


まさかイタチが医師になっているとは驚きだったが、昔っから勉強もスポーツもできた男だ。イタチなら医師なっててもおかしくない、か。



すると、イタチが手に持っていた紙袋を差し出した。



「夜勤で疲れてると思ってな」
「ん?あ、甘栗甘のお団子…」
「名無しさんの好物だろう。帰りにでも食べていくといい」
「わーありがとう!」


紙袋の中を覗くと、私の大好物の甘味所のお団子が三つ。
イタチはこうしてよく私の夜勤明けに現れて、差し入れを持ってきてくれる。
ありがたいけど、そのせいで最近少し体重が気になるとこだが

仕事が終わったら休憩室で食べて帰ろう
そう思い、冷蔵庫に入れようと席を立った。
あまりここに長居するわけにはいかないから。



(ここでずっとイタチと話してるのは不味いのよねぇ…)





「あー!イタチ先生!!おはようございますー!」




(はぁ…ほら、きた)


廊下の向こうからハートを飛ばしながらものすごい勢いで駆け寄ってくる後輩に思わず長い溜め息が出てしまう。

そう、イタチはとにかくモテる。
昔から、回りには女の子がいてイタチが通れば皆頬を赤らめる。告白の回数だって私が知る限り、相当な数だ。
社会人になった今も尚、それは変わらない。顔は整っているし、仕事も出来る、物腰も柔らかい。そして何よりそこに「医師」という高級ブランドに近い肩書きが乗っている。
よく上の先生たちがイタチの腕は凄いと話しているのを聞くし、こうやって夜勤明けのスタッフには、何かしら差し入れを渡しているみたいだし。
そんな男をここの女たちが放っておくわけがない。


(幼馴染みの私には分からない感覚だけどね)


そんなイタチと幼馴染みというのは一部の人しか知らないが、あまり親しくしているところを見られると恨みをかうことに成りかねない。
なのに、こいつはイチイチ職場で声をかけてきてくるもんだから、こっちがヒヤヒヤしてしまう。全く、イタチが腐れ縁とはやっかいだ。




「イタチ先生、こんな朝早くからどうしたんですかぁ?」
「あぁ、昨日のオペの子が気になってな」
「デイダラくんのこと?そういえば、イタチ先生が主治医ですもんね」
「…あぁ、経過はどうだ?」
「痛み止めを2回使用している程度で他は変わりませ……」
「あー!!!名無しさん先輩の持ってるの、もしかしてまたイタチ先生からですかー?!いっつもいっつも、名無しさん先輩ばっかりずるーい!」
「あはは、違うよ。みんなで夜勤明けに食べてだってさ」
「えぇ!?」
「そうか、少し診に行くか…」
「あっ、はいはい、て待ってよ…っ」


相変わらずハートを飛ばして「さすがイタチ先生!やることなすことかっこよすぎですー!」と騒ぐ後輩を背に、病室に向かうイタチの後ろを慌てて追いかけた。



(なんか、夜の疲れが一気に押し寄せてきた気がする……)




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