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□ワルツにのせて
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今、私たち王都警護隊はインソムニアの街を忙しく走り回っている。
見渡す限り、人、人、人。インソムニア中の人が此所に集結してるんじゃないかと思うほどの人がそこにいた。
そう、今日は我が国ルシスの国王、レギス陛下の生誕記念日なのだ。
インソムニアは朝からそれはもう盛大なお祭り騒ぎで、この王都これだけ人が集まれば事件は付き物で、次次起こる騒ぎに名無しさんの息も切れてきていた。
「はぁ…流石に疲れたわ…。」
既に酒に酔い潰れて騒ぐ輩を3人、言い争いになった輩を2人保護している。他には人とはぐれた人やら、騒ぎに紛れた盗難やら…数えたらキリがない。
テロ事件など厄介なことが起きないかが一番の問題なのだが、この調子だと怪しい人物がいてもすぐ気がつけない気がすると、名無しさんは目の前の人並みを見て溜め息をついた。
「やっと終わったぁ〜」
「立食会までまだ時間がある。少し休んだ方がいいな。」
生誕記念のメインである、一般公開の陛下と王子の挨拶が終わり、午前中の仕事が一段落し、王都城内の廊下をコルと歩いていた。私たち外回りも忙しいが、陛下の側で護衛をしている彼は、常に神経を尖らせてきっと外回り以上に疲れているに違いない…が、その顔には疲労は微塵も見えない。流石はルシス3強の一人、精神力も体力も人並み以上だ。
「コルはどうするの?」
「俺は陛下の側を離れるわけにはいかないからな…。様子を見て適当に休むようにする。」
「そっかぁ。コルも大変ね…。あ、この後私も立食会の警備に回るから、またそこで会えるね。」
「そうだな。だが、しっかり周りに注意を配ることを忘れるなよ。」
そう少し意地悪そうに笑うコルに頭を軽くポンポンと撫でられ、名無しさんは目を細め、仕事中にこうして短い時間でも一緒にいれる嬉しさを噛み締めた。
「あー…、お前らそういうのは人のいないとこでやれよな。」
声のする方を振り向くとそこには気まずそうに頭を掻く今日のもう一人の主役、ノクトがいた。
「ノクト!」
見られたのかと思い頬が赤くなる名無しさんを余所に、コルは顔色1つ変えず口を開いた。
「ノクティス、このあとの立食会ではご令嬢達を頼んだぞ。」
「…分かってるし。」
「ふふ、去年も大変だったもんねぇ〜。モテる男はツラいねぇ。」
「お前らなぁ…。他人事だと思って。」
そう、この後王都城のホールで、王都と繋がりのあるルシスの経営者などを集めた立食会があるのだ。そこにはご令嬢も招待され、立食会中のダンスパーティーでは毎年ノクトと踊るために彼女達が列を作るのが恒例となっていた。
勿論去年も例外でなく、ノクトがたくさんの女性相手に四苦八苦していたのが記憶にある。
思い出し笑いをしていると、肩にコルの手を置いた。
「名無しさん、今の内に休んだ方がいいんじゃないか?」
「あっ、そうだった!!じゃあノクト頑張ってね!コルも、またあとでね!」
すっかり忘れていた貴重な休憩時間を思い出し、名無しさんは二人と別れて休憩室へと走っていった。
しん…と静まり返るその場に、ノクトが口を開いた。
「…コル。」
「なんだ?」
「わざとだろ。」
「…なんのことだ。」
「わざと名無しさんといちゃついてるとこ見せつけただろ。」
「さぁ、そんな覚えはないな。俺は先に陛下の所に行ってるぞ。」
「ぜってーわざとだし!」
「ノクティス、お前も早めに準備をするんだな。」
「あ、おい!コル…!」
呼び止めるノクトの声を背に、意味深く笑ったコルはその場を離れ、残されたノクトは胸の内で渦巻くモヤモヤを掻き消すように大きく溜め息をついたのだった。