短編(2BRO.)

□とある冬の日のお話
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さて、今日は良い時間に仕事が終わった。残業もする必要ようもないし、このまままっすぐ家に帰れる。

私は自分のデスクのPCをシャットダウンし、使っていた筆記用具を鞄に詰めて席を立った。隣の同僚はまだ仕事をしているようで、ちらりとこちらを見られた。


「レイちゃん、今日はもう帰れるの?珍し。」

「うん、今日は約束があるから。お疲れ様、早く帰らないと今日天気悪くなるかもよ。」


仕事中、何かと問題ごとがあれば相談に乗り合うほどの同僚にそう忠告すると仕事場のオフィスを後にした。外に出ると朝の天気予報通りに空は曇っていて星をところどころ隠していた。

きっともっと冷えてくるんだろうな、今日の夜ご飯は暖かいものにしようかな。あぁ、鍋物とか絶対おいしい。スーパーで買い物してから帰ろうかな、今の時間ならセールの売れ残りが更に安くなっているだろう。

20時を過ぎているのを携帯の画面で確認すると、その下にメールの通知が表示されていた。この時間にメールを送ってくるのは一人しかいない。幼なじみの弟者だ。
メールを開くと本文には「今日何時終わり?」と書いてあった。受信時間は10分前。通話ボタンを押してそれを耳に当てた。


「もしもし、今終わったよ。」

「お疲れー、今どこ?迎えに行こうか。」


2コールくらいで出た弟者の声は車の音や人の話し声が通り過ぎる中聞こえて、弟者自身も仕事が終わって帰宅途中だとわかる。職場が近いのでたまに迎えに来たり、迎えに行ったりする事が多いのだが、今日は寒いし天気も悪いので待たせるのも悪く、今日は大丈夫と返した。


「今日ご飯、鍋物にしない?スーパー寄って帰るね。」

「いいよ、俺が買い物しとくからまっすぐ帰ってきて。」

「あ、本当に?買い物一人でできる?」

「俺の事馬鹿にしてるでしょ?」


笑いながら、でも多少ムッと不満気に答えた弟者はそう言うと周りの音が聞き覚えのある洋楽に変った。どうやら彼はもう家の近くのスーパーについたらしく、迎えに来てと甘えなくてよかったと今更思った。このスーパーまで帰ってきているなら、私の今いる場所までは来た道を戻ることとなる。それでも弟者は喜んで来てくれるだろうが。


「ちゃんと兄上の分も買ってきてね。」

「え?俺と兄者の分だけど?」

「ちょっと!?じゃあ兄者の分は私が買うから!」

「嘘だよ。ちゃんと買うって!」


冗談を言い合いながらの帰り道はとても短く感じる。行き道よりも早く着く気がするが、電話を切りたくないので少し歩く速度を遅めた。はぁ、と息を吐くと白い息が首に巻き付けたマフラーをかすめる。
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