短編(龍が如く)

□迷子の子
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良く晴れた昼下がり。休みの日だという事で街をぶらついていたら、児童公園に短パン姿の子供が一人、ベンチにポツンと座っていた。ただぼうっとしているその子供が、街から取り残されているようで見ているこっちが不安になる。

「僕、一人で何してんの?」

すると、そこへ一人の男が近寄っていった。金で染めた髪を片側に流し、見るからにだらしない恰好をしている。誰が見てもその子の知り合いではなさそうだ。男はやがて「おいしいもの食べようよ」なんて、ガラ声で精一杯の優しい声色を作り男の子に話しかけているが、男の子は泣きそうな顔をして周りを見まわした。
そこで男の子と目があった僕は、手にしていた煙草を携帯灰皿に突っ込み、どうせこのまま立ち去る気も毛頭なかったし…と未だに男の子に話しかけ続ける男に近寄った。

「すみません、その子僕の弟です。」
「あ?」
「向こうで一服してて、ここで待っててもらってたんです。」
「一服だ?」

男はジロリとこちらを見る。僕の身なりを見て怪しんでいるようだが、怪しさと言えば多分同じくらいだ。やがて男は「じゃあ」と口を開く。

「このガキの名前は?」
「えっ。」

ふっと子供の方を見る。だが、名前をボディランゲージで表せるはずもなく。沈黙が訪れる前に男は鼻で僕を笑う。

「お前、コイツの兄弟じゃねえだろ。」
「うっ。」
「今『うっ』て言った!」
「言ってない、言ってない。あのー、ホラ。個人情報だから知らない人には言えない。弟の個人情報を守るのも、ね。大事な役割だし。」
「適当な事並べてんじゃねえぞ。」
「適当じゃない。ていうか、その子を連れて行ってどうするつもりなの。」
「迷子だろ?ちゃんと交番に連れて行ってやるんだよ。」
「交番に?あなたが?」

再度、僕は男の身なりを見た。何度見てもだらしなく気崩された、若い子が好む服装は子供を安全に保護し、警察に連れていくようには見えない。むしろ、どこか暗がりに連れて行った後に親に身代金を要求しそうだ。
僕のその視線が癪に障ったのか、「聞いてんのか」と語気を強めて男は僕の肩を小突いた。それに一度よろけてムッとする。

「お前今―――」
「あーはいはい。そこの二人、ストップ。」

一触即発、といった時に間の抜けた声が間を遮った。男と二人でその声の方をにらみつけると、その先には谷村さんが立っていた。今いる男と同じくらいだらしない恰好の谷村さんは、僕と男の間を抜けて男の子の方へ歩きよると、その子を背に隠して警察手帳を男に見せた。

「け、警察…!?」
「そう。その突っかかった奴も俺の連れ。ごめんね、口下手な奴でさ。失礼あったなら俺から謝るよ。あとは任せてくれていいから。ね、ご苦労様。」
「…チッ。」

谷村さんの矢継ぎ早に出る心無い善意に、男は戦意を削がれて離れていった。その背中にはしっかり怒りを含んだもどかしさを感じて、私の予感も外れてはいないと思う。
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