短編(龍が如く)

□迷子の子
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まぁ、谷村さんがここに来たのは運が良かった。男の子は彼に任せて…。

「どこ行くんですか。」
「俺仕事中なの。」
「いや、だからどこに行くんですか。」
「麻雀。」

くるりと踵を返して立ち去ろうとする谷村さんの肩を掴んで止めた。「なんだよ」といわれたが、本当に警察官なのかと耳を疑った。なんで迷子が目の前にいるのに放って麻雀なんて行こうとしているんだ。正気ではない。

「生活安全課でしょう。」
「そうだよ。」
「迷子も管轄ですよね。」
「署に連れてってあげてよ。書類とか書くの面倒くさいしさ、署には暇人しかいないから。」
「谷村さんも暇じゃないですか。」
「何処がさ。いっただろ、今から―――いてえ!公務執行妨害!!」

無理だ。手を出さずにはいられなかった。足を強めに蹴ると大げさに痛がられる。よろけるわけでもなく、体幹も崩されてないくせによく言う。
未だに不安そうな顔をしている子供を見て、谷村さんにも視線を送った。流石にその表情を見てしまうと谷村さんも思い直すしかなかったようだ。

「…じゃあ、羚も付き合ってよ。この子の親探し。」
「本当に書類書くの嫌なんだ。」
「一応署には保護したって伝えとくからさ。」

××××

「…で、なんでここなの。ウチは託児所でも相談所でもないんだけど?」
「まぁまぁ、近くで寄れる場所がここしかなかったんですよ。寒いし、外で凍えさせる訳にもいかないでしょう。」

軽い口調でそう返すと、スカイファイナンスの社長は黙った。秋山さんも強く否定すればいいのに、できない所が優しい。その優しさに漬け込むために連れてきたのだが。因みに谷村さんは入る前に、と煙草を吸いに行ってしまった。
秋山さんは子供をいぶかしげに見、子供がまた不安そうに僕の背に隠れた。

「子供、苦手なんだよね俺…。」
「そうなんですか、意外。」

こそっと耳打ちされたが、有線もなく静かな室内では子供にも聞こえただろう。ぎゅっと服を握られて、小さなその反抗心に秋山さんを肘で突いていさめた。ごめんね、と謝ってはいたけど子供は依然、秋山さんを下から睨んでいたが。

「で、どうするつもりなの。」
「一応、親を探そうかと。さっき電車に乗って神室町に来たらしいんですよ。だから多分、すぐに気づいてもらえると思うんですよね。」
「なるほどね。」

ソファーに座ってそんな話をしていると、谷村さんが帰ってきた。手にはコンビニの袋を持っていて、その中からアップルジュースを出し、子供にそれを渡した。気が利くねえ、と秋山さんが茶化したが、本人は煙草の匂いを消すために一周回っただけと言っていた。

「…で、どうすんの?」

ソファーに座り、各々コンビニの袋からほしい物を抜き出す僕達を見て、秋山さんが話を切り出した。それを答えずに視線だけで秋山さんを見たが、谷村さんも同じくしていて変な沈黙が訪れた。お互い今すぐにと子供の親を探さないので、秋山さんはまたため息をついた。

「あのねえ、本当にやる気あるの君達?」
「やる気あるように見えますか?」
「ねえ。」
「…。」

悪びれもなく返事をする谷村さんに秋山さんは流石に嫌な顔をした。荒々しく自分のソファーから立ち上がり、子供を少しの間見下ろすと子供の隣に座る。子供は秋山さんの事を警戒しながらジュースに口をつけている。もう喉は動いていない。そっとそのジュースの缶を秋山さんが下ろしてやると、子供は口をぎゅっと結んだ。

「そう警戒しないで、俺は君の掴んで離さない羚の雇い主でね。ええと、君が分かりやすく言うと仕事のお友達ってところかな。」
「友達なの?」
「まさか、怖い社長さんですよ。」
「ちょっと、邪魔しないでくれる?」

子供に歩み寄る秋山さんが面白くて、谷村さんと揶揄うと流石にいら立ちが飛んできた。黙ってその様子を見守ることにした。

「今日は誰と神室町に来たの?」
「…お母さん。」
「お母さんか。今日はお買い物?それとも、映画かな?」
「…。」

まるで尋問のような質問に子供はうろたえているようだ。ぎゅっとまた僕の服を掴む力が強くなって、その手をぽんぽんと優しくたたいた。

「意地悪はその辺にしてあげて下さい。何となく目星がついているんでしょう?」
「…君達が腰を上げないから俺がこうやってお話し相手になってあげてるんじゃない。やる気出た?俺に尋問される子供なんて、見てて気分良い物じゃないでしょ?」
「子供の寿命が縮んでしまいますよ。」

どうやら一番意地が悪いのは秋山さんのようだ。流石にここまで子供に詰め寄られちゃ、ここにはいられない。しょうがないので神室町に繰り出す事にした。勿論、子供はここに残しておくことにした。神室町は子供が出歩くには危険すぎる。
やっぱり秋山さんは「ええ…」と嫌な顔をしたが、理由が理由なので反論されることはなかった。
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