短編(2BRO.)
□今まではここでバイバイだった。
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道のりはとても長かった。じわじわと俺の恋心が疲弊していく。俺とレイとの間にあるブランド物の紙袋が揺れていた。
「……おついちさん、もう気付いてるよね。」
「…。」
半分ほど来たところでレイから会話を振られた。何を答えたらいいのかわからなくて、視線を逸らしてみたがもう気付いているのは明白だろうし、小さく頷いて見せた。
「実は渡すつもりだったんだけど…。なんか勇気出なくてこんな感じになっちゃった。」
「…。」
「あのね、おついちさん私――」
「レイちゃん、信号青になったよ。」
いてもたってもいられなくて話を遮った。レイは呆気にとられたようにぽかんとした。信号を渡るとレイも慌てて後ろについてくる。話は見事に流れた。
レイのマンションが見えていた。いつも通りにレイを入り口自動ドアの前に導いた。レイがこちらを見る。
「おつ」
「バイバイ、レイちゃん。」
呼び止めようとするレイに被せた。俺の決心が鈍りそうだったからだ。すると、レイは俺の腕をガシッとつかんだ。次は俺がぽかんとする番だった。
レイはこんなに積極的に俺に触れたことはない。当たり前だ。レイは今まで俺にそんな素振りは一度も見せたことがなかったからだ。
「ちょ…。」
「何でそんな事言うの!?バイバイって何!?」
「……その袋、弟者にだろ。」
レイの怒っている顔なんて初めて見たかもしれない。だけど、そうも言ってられない。俺の言葉にレイは目の光を無くしていた。
「実は昼に見たんだよ、店でそれ買うとこ。俺、ずっとレイに付きまとっててごめんね。」
「え…いや、おついちさん、ちょっと待って…。」
自然とうつむいていく俺に、レイはどう思っただろうか。紙袋が目に入って余計に惨めな気持ちになった。
何を言われるか、と少しの間が空いてレイの言葉を待っていると途端にレイは笑い出した。
それは嘲笑の物ではなく、豪快なもので夜に外でするような笑いではなかった。シリアスな空気を吸っていたのに、急に毒気を抜かれて思わずレイを見上げた。
「な、なに笑ってんの…?」
口をついて出た言葉が自分でも不思議な感情だった。怒っているような、情けないような。
ひきつった顔でレイを見ると、レイは「ごめんなさい」と言いつつまだお腹を抱えていた。
「誤解だよ。これはね、弟者に買ったんじゃなくて貴方に買ったの。はい、これもうあげる。」
「え…。マジ、いいの?」
「良いよ、っていうか、もう少しいい感じで渡したかったのに。けど、誤解されるならこれでいい!もう!」
「あ、ハイ。ありがと…?」
くすくす笑いながらレイは「開けてみて」とつぶやいた。言われるがままに紙袋を開き、中にある長方形の箱を取り出すと包装紙を開いてみた。
箱を開けるとそこには大人しいデザインのネックレスがあった。緑色のスクエア型のモチーフが行儀よくこちらを向いていた。
「おついちさん、いつも胸の辺りを掴んでるから寂しいのかなぁって。だから前から探してたんだ、似合うものないかなぁって。」
「あ…そうだったんだ…。」
「あとね、ただ渡したかったんじゃなくて…。」
「ん?」
ネックレスを見つめていると、不意にレイの言葉の歯切れが悪くなる。レイを見ると顔を赤らめてもじもじしていた。さっきまでの思い切りのよさはどこへやら。
いや、この流れはもしかしなくても…。
俺と目線があったレイはさらに顔を赤らめている。そして、レイは何も言わずにエントランスへ入っていってしまった。
ちらりとこちらを一回振り向く。どうやらここでは気持ちを伝えさせてくれないらしい。俺は思い切って自動ドアをまたいだ。
11.今まではここでバイバイだった。