短編(2BRO.)
□何人目?
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「お手洗い行ってくる。」
「あぁ、確かあっちだろ。」
「いいよ、ひとりで行けるから。この辺いてね。」
私の分からない部品系統やら電化製品を見ている兄者にそう告げると、そのテナントから出てショッピングモールの廊下に出た。天井から吊るされている小さな看板を見つけ、それに従って二度ほど角を曲がるとお手洗いが見えた。
用を足して、洗面台で手を洗うと背面側にある鏡でメイクを直す女性がを鏡越しに見つける。それに倣って自分の顔を確認し、少し落ちたメイクに気づくと私もその女性の隣に並んでポーチを取り出した。鏡をのぞき込みながら、自然と隣の女性を盗み見てしまうのは私も周りに負けたくない気持ちがあったりするからなのか。
ふっくらした頬にくりくりとした目、ぽってりとピンクに染まる唇はとても綺麗で搔き上げられた髪からはふんわりと良い匂いがする。まるで全世界中の男性を虜にしかねないその女性に同性の私ですらドキリとした。この女性のこの綺麗な顔の話を兄者にしたら冗談交じりに「体は?」なんて聞かれそうだ。
別に逆ナンされたり、じろじろと色目で見られているのに嫉妬していないといえば嘘になる。もやもやするし、しかもたまに「あの子可愛かったなぁ」なんて言われた日には寂しくなってその腕を抱き寄せてしまうくらいに胸が苦しくなる。
「この辺の人ですか?」
「まぁ、ちょっと遠いとこから。」
今だって、おおよそ女性が興味をそそられにくい玩具コーナーで声を掛けられている兄者を見つけて、私の心は内心穏やかじゃない。優しい兄者の事だ、推し負けて連絡先を交換してしまって成り行き上知り合い、友達、と女性の縁がだんだん増えてしまったらどうする。相手は普通の仕事やゲームの仲間じゃなくて、隙あらばと出所を伺うメギツネだ。
話し掛けるのも何だか困って、そのテナントの向かい側にある雑貨店に足を踏み入れた。これからくる寒さの準備を促すポップの下にはふかふかの毛布が積んで合って、その隣にあるブランケットの感触を確かめていると不意に隣に人が並ぶ。
髪の色と同じージュ色のカーディガンを羽織った、細身の男性だった。オシャレなその外見にこの店の店員だと気づき冷やかし程度の私は笑顔を見せる。
「こういうの好きなんですか?こっちも可愛いですよね。」
動物モチーフのそのブランケットを触って見せると、男性は柔らかい笑みで私を見る。その手元に反応を示すと、あっちにも、と店内を指さした。
「奥には同じタイプの部屋着もあるんですよ。あ、でも僕はこの店の物より三階の店の物の方があなたには似合うと思います。」
「三階?」
どうやらほかのお店の物を宣伝しているあたり、ここの店員さんではないようだ。勘違いに気づいて一人焦っていると、不自然に切れた会話にさらに言葉を重ねられる。
「おひとりですか?実は用事の時間まで少し暇で、お昼ご飯でも一緒にどうですか?」
「あ、私連れがいるんです。」
「あれ、そうなんですか。」
流れるようなお誘いを断ると、彼は困った表情をしてうーんと考え込んだ。そして、ポケットから携帯を取り出すと困った表情のまま画面を見せてきた。