短編(2BRO.)

□とある冬の日のお話
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「そっち行っていい?」

「ん、いいよ。」


ベッドに腰掛け、弟者の方を見ると自室だというのに今だ部屋の入口で立ったままの弟者が遠慮がちに隣に座った。「寝る?」と小首を傾げると唸りながら私の肩に額をこすりつけた。


「兄者とおついちさんばっかり……、今日俺が誘ったのに…。」

「ばっかりだった?そんなことないよ、弟者。」

「そんなことあるってぇ!」


駄々を捏ねるように訴えてくる弟者は顔を上げ、その表情に笑みを見せると私は無防備にベッド下に放り出された弟者の膝に頬を寄せた。スウェットの生地が気持ちよくて、かすかに洗濯洗剤の匂いがする。横目で弟者の顔を見ると、天井照明を遮るように弟者の頭がこちらに向いていて首に腕をゆるく巻き付けた。


「そうやって誰にでも愛想振りまくんでしょ。」

「そんなことないよ、愛想振りまきたい人にだけ。」

「いつか兄者とかおついちさんに襲われちゃうよ。」

「弟者は襲わないの?」

「……襲うかも。」


自然と閉じた瞼を片方開けると、弟者の真剣な顔が見えて笑ってしまった。それを見て弟者は余計に膨れてしまうのだが。ご機嫌取りにとその頭をぽんぽんと撫でると、私の上体を無理矢理起こし次はベッドの方へ倒し、自身も添い寝の形でベッドに体を休めた。後ろから抱きしめられる形で弟者の部屋を再び見回す。


「明日、映画、絶対ね。」

「分かったわかった。」

「俺、そのために今日仕事早く終わらせたのに。」

「私もだよ、仕事残さない様に仕事してた。」

「本当?」


ぎゅうっと一層強く抱き締められ、嬉し気な声が聞こえてくる。弟者の胸に背を預け、足を弟者の足に絡めるとびくっと弟者の腰が揺れた。あれれ、少しくっつきすぎたか。そのまま体をひねって顔だけ弟者の方を見ると顔を真っ赤にしていた。


「ご、ごめん。嬉しくてつい。」

「真っ赤な顔の事?腰の事?」

「どっちも!」


力強くそう言うと弟者は私の体を離して背中を向けてしまった。その様子に私はどっと笑い、弟者に電気を消されて布団をかぶされてもゆるんだ表情を戻すことができなかった。最終的にはうるさいよ、と正面から抱きしめられて黙る羽目になったのだが。

きっと明日、またぎくしゃくして兄者とおついちに笑われるんだろうなあ。その時にまた真っ赤な顔をして弁解する弟者が見られるんだろう。数時間後に現実になるであろう想像を頭の中で描きながら私は眠りについた。



1.とある冬の日のお話。

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拝借お題
 TOY様


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