短編(2BRO.)
□とある冬の日のお話
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「わー!おついちさん、それずるくない!?」
「そう言いながらお前もそれスレスレだろ!」
「二人とも強すぎ!…待って、これこうしたら……。」
「ダメダメ!それダメ!」
「あぁっ、俺まで!」
どうやら私にも二人に太刀打ちできるセンスがあるようだ。三人でムキになって真剣にテレビを睨みつけていると、突然腰に回っていた兄者の指がそのラインをするりと撫でた。くすぐったさを感じて私は思わず身を捩る。兄者に視線を送ると膝を引き寄せていた腕でいつの間にか携帯を弄っていて、その視線は携帯画面の方へ向いていた。
なんだ、手癖が悪いだけか。
私は再びコントローラーを構えてテレビに向く。数分またゲームに没頭しているとまたしても兄者の指がうごめく。次はくるりと掌が体に沿わされ、人差し指が腰のラインを上る。くびれをなぞり、肋骨をゆっくりと撫でると流石に私はコントローラーをお腹に落として兄者の腕をつかんだ。
「邪魔すんなよ、レイ。」
「邪魔してるの兄者だからね?ゲームに集中できない!」
「集中しないと勝てないぞー。」
「このヤラシイ手どうにかして…っあぁ!弟者それずるい!」
「ははは!俺の一人勝ちだぁ!おついちさんじゃあなぁ!」
「コイツっ…!最後の最後で!」
兄者に抗議している間に弟者が隠し持っていた切り札を出し、私とおついちを蹴落として一番を見事勝ち取った。根を詰めて計画的に勝ちを狙っていたおついちは最後の最後にその計画を台無しにされて、コントローラーを手放しソファーの背もたれに脱力して沈んだ。
「もう辞め辞め!俺もう寝るー!」
そう呻くといまだに兄者に横抱きにされている私の背中に抱きつくと、「レイもねよう?」とおついちは笑顔を浮かべた。兄者はそれを見て「独りで寝ろ!」と私の頭を抱き寄せる。その様子をゲーム機の電源を切りながら見ていた弟者は、無言でゲーム機を片付け、各々のコントローラーもテレビラックに収納すると、いまだに二人で私を間に挟んで軽口を叩き合う兄者とおついちの間に入って、私の腕を優しくつかんだ。
「もう満足したでしょ、次俺の番。」
目を細め、冷たい目線を二人に送り、掴んだ私の腕を引き寄せて立たせると自室へと私を連行した。有無を言わせないその静かな剣幕に年上である筈の二人はあっけにとられ、その背中を見送る事しかできなかったようだ。
弟者の自室は何度も入ったことがある。というのも、今日のように兄者やおついちが食卓の時間にそろうのはまれなことで、大体弟者とは退社時間が合うのに対して他の二人は多忙だったり不規則な休みで出かけていたりと、この家で一番通される部屋と言えばこの部屋だからだ。
リビングの物には負けるが、それでもこの部屋の広さにしては大きなテレビが弟者の部屋にはあって、ここで電気を消してみる映画は二人だけの貸し切り映画館のようで好きだった。
そして、本来今日は映画を一緒に見ようと約束していた日で、だからこそ私の仕事終わりの時間をメールで聞いて、食事の用意をして……と映画の時間を取ろうとしてくれていたのだが、兄者とおついちが来たことにより四人で遊ぶ時間が楽しくなってしまい、夜も更けてしまった。時計を見るとすでに深夜を過ぎている。明日は休みだといっても、この時間から映画を見ていると寝てしまう可能性が大いにあるだろう。
「携帯充電する?帰る時、充電切れたでしょ。」
「あ、そうだね。ありがとう。」
先ほど二人を牽制した剣幕はもうみじんも感じない優しい声で、弟者はベッドヘッドにあるコンセントに充電器を刺し、反対側の端子を私に見せた。弟者がいつの間にか運んでくれていたコートから携帯を取り出し、その端子を受け取ると携帯に挿入する。ほわん、と可愛い音が鳴って携帯に赤いランプが灯るとベッドヘッドの棚に置いた。