短編(2BRO.)
□とある冬の日のお話
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なんだか私もこの家族の一員になったみたいで。キッチンから見るこの景色が私はこの家で一番好きだ。兄弟がご飯時に集う様子を見渡せるここはこの家の中心と言ってもいい。
「兄者、この箸俺のでしょ!」
「あぁ、そうか。間違ったわ。」
「ちょっ、それはレイのコップ!」
「わっかんねえよ!なんでお前ら同じ赤なんだよ!!」
「ケンカしないでよ、ほらーお鍋できたよ!」
「待て待て。お前は危なっかしいから俺が運ぶ。」
兄者がそう言ってキッチンから私を追い出したから、私はおとなしく弟者と先にテーブルに着くと兄者がキッチンのコンロからミトンを装着して鍋を運んでくれた。
そこでピンポーンと玄関からインターフォンの音が鳴った。三人は顔を見合わせて「誰?」と目だけで会話する。この家には兄弟以外住んではいない。その二人が予定していない来客なんて。と思ったが一人だけ例外がいた。
「あー、ほんと寒いねえ。雨も降ってきちゃったしー。わあ、あったかーい。」
「コートこっち掛けて、おっつん。」
分厚いコート、ふかふかのマフラー、耳当てまで装着してリビングに入ってきたのはおついち。出迎えた兄者が後ろに続きながら「弟者、もう一つ席用意して」と顎をしゃくった。すぐさま弟者はキッチンに引っ込む。
「レイちゃん、こんばんわ。何だか今日は一人でご飯食べる気にならなくてさー。レイちゃんも?」
「ううん、今日元々弟者と約束してたの。」
「あら、じゃあ俺ちょうどよかったんだ。」
「ちょうどよくないよ、おついちさん!先言ってくれないとおついちさんの分のご飯ないんだから!」
弟者の声にもニコニコと笑顔のおついちは、私の隣の椅子に座ると皿を並べてくれている弟者に手元のコンビニの袋を見せる。そこにはいくつかの缶チューハイとおつまみが透けていて。
「いいよいいよ、適当におつまみ買って来たから。」
「おー、気が利くなぁおついちぃ!」
それを受け取った兄者に私は「ご飯が先!」とそれを奪った。兄者は不服そうにしたが、私は知らないふりをしてぐらぐらと揺れる土鍋の蓋を掴んだ。中は熱湯にゆでられ、こもった湯気で柔らかくなった具材達が揺れていた。四人でおぉーと声を漏らす。
「いい感じだね!」
「あ、おっつん、繫がってる奴アタリだから。」
「兄者ー!」
「何々?どういう事?」
弟者につかまれてもニヤニヤ顔の兄者と鍋を挟んでおついちは小首を傾げるが、私は何も言わずにおいた。弟者が横目で私をちらりと見たからだ。